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4月11日 続

襲われていたのは、商人の幌馬車と、護衛の冒険者たちであった。

襲っているのは…、

「ゴブリンか!」

十匹を超えるゴブリンの群れ。

迎え撃っていた護衛の冒険者は五人。

普通なら、よほどのことがない限り負けないはずなのだが…。

「護衛の冒険者、三人が毒か何かにかかっているわ。ものすごい汗」

魔術師シェラザードが、異変を報告する。

そのために、ゴブリン相手に不覚をとったらしい。

「シェラ攻撃魔法を。アンナは弓で。俺は突っ込む」

剣士フジクは指示を出しざま、幌馬車に群がるゴブリンに向かって走る。

『天使の微笑み』三人は、ゴブリンを後ろから襲撃する形になったため、背中に先制攻撃をすることが出来た。

「<ウインドカッター>」

魔術師シェラザードの風魔法がゴブリン二匹をまとめて斬り裂く。

アンナの弓も、正確にゴブリンの首を続けざまに射抜く。

最後に、剣士フジクが剣を二閃し、二匹のゴブリンの首を斬り落とした。

この時点で、すでに生き残ったゴブリンは一匹だけ。

そのゴブリンも、護衛冒険者の一人が剣を突き刺し倒した。


三人の参戦からものの十秒で終了。

フジクら三人が特に優秀というわけではなく、本来ゴブリン相手ならそういうものなのである。

護衛冒険者たちが、毒に冒されていたのが問題なのだ。

「おい、しっかりしろ」

フジクは、護衛冒険者たちに声をかける。

「すまん…毒消しが…効かなくて…」

見れば、無事だと思われた残り二人の冒険者の顔色も悪くなっている。

それどころか、幌馬車の中に守られた依頼主らしい商人と従業員も明らかに顔色が悪い。

「全員、毒?」

斥候アンナは、小さくそう呟いた。

「さすがに手持ちの毒消しじゃ、全然足りないわ」

「いや、多分、俺らの毒消しでも効かない…」

魔術師シェラザードの言葉に、剣士フジクが首を振りながらそう答えた。

「まさか…」

「ああ、多分、王蛾の鱗粉…」

そう言うと、フジクは馬車の隅に付着した金色の粉を指さした。

「通常の毒消しでは効かない、強力な毒。ただし、王蛾の体を離れて二分もすれば効果は無くなる」

「つまり、王蛾に直接触れるほどの距離を通ってしまったんだ…」

斥候アンナが毒の説明をし、フジクが頷きながらそう言った。


そんな深刻な空気の中、場違いな声が、三人の耳に聞こえた。

「あの、もしよければ、その七人の毒、消しましょうか?」

三人が振り返ると、そこには、腰までの金髪にほっそりとした体躯、そしてあまりにも整った顔に微笑みを浮かべた、先ほど挨拶を交わした男が立っていた。

「あんた、出来るのか?」

「王蛾の毒よ?」

フジクが尋ね、アンナが情報を補足する。

「ええ、多分」

ミカエルは頷きながら、そう答えた。

「もしかして、凄腕の治癒師?」

「治癒師? ああ、病気を治したり怪我を治癒したり出来るのかと言われれば、出来ます」

ミカエルはにっこりと微笑んだ。

「頼む…」

彼らの会話が聞こえたのだろう。

馬車の奥から、かすれた声が聞こえた。

先ほどの護衛冒険者の声ではない…おそらく商人あたりの声か。

「はい。では…」

ミカエルはそう言うと、一つまばたきをした。

…それだけである。


当然、『天使の微笑み』の三人は、何かが起きたことなど気付いていない。

目の前の男が、毒を消せると言った男が、これから何かするであろうことを息を殺して待っている。

だが、腰まで金髪の男は何もしない。

「おい、あんた、毒を消してくれるんじゃないのか!?」

フジクが、ついに我慢できなくなってミカエルに言った。

ミカエルは、先ほど同様にニコニコしながら、静かに馬車の奥を指さした。

その指が差す方向を、思わずフジクも振り返ってみた。


二人の商人と、五人の冒険者が、馬車の奥から出てきたのだった。



「助かりました。ありがとうございました」

商人はそう言うと、深々と頭を下げた。

また、

「助かった。感謝する」

護衛冒険者五人も、同様に頭を下げた。

どちらも、天使の微笑み三人と、ミカエルの両方に感謝した。

ゴブリンの危機を救ってくれた三人、毒を消してくれたらしい金髪の治癒師。どちらが欠けても生きていなかったことを考えると、当然なのかもしれないが。


商人と護衛冒険者たちは、バランの街に向かうという事であった。

バランは、フジクら『天使の微笑み』が所属する街である。

ロソーでの依頼が終わって帰ったら、商会に必ず顔を出すという事で別れた。

商人としては、礼をしたいという事であったし、護衛冒険者たちも奢りたいという事であったので。


そんなことよりも、リーダーフジクにとっては喫緊の課題があった。

「毒を消してくれてありがとう。俺は、第10級冒険者パーティー『天使の微笑み』のリーダー、フジクだ」

「ああ、これはご丁寧に。私は、ミカエル・カメイと申します」

フジクとミカエルは握手をした。

「こっちは、パーティーメンバーのアンナとシェラザードだ」

「よろしくね」

「ごきげんよう」

フジクの紹介に、アンナとシェラザードが挨拶する。

「ときにミカエルさん、その治癒師の腕を見込んで頼みたいことがある」


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