新たなる関係
女神さまに手を引かれながら、星の内部へ。
直系で地球の4倍近い巨大な岩石惑星に潜る。
幾ら勇者でも、こんな経験するやつは少ないだろう。
並の最強クラスなら耐えられぬ、十数万度と十数万気圧の中を泳いで惑星の核へ辿り着いた。
「ここらでいいな」と女神様が止まり、近くに俺も立つ。
かなりの量の力を貰った俺は何とか耐えれる。
それと同時に、女神さまの力も良く分かるようになった。
ここまで飛んで、俺に分け与えたせいで、ほとんど空っぽじゃないですか!
俺の心配が伝わったのか、振り返った女神さまがにこっと笑う。
本当におかわいい。
大丈夫かと聞くのも失礼かと思ったが、一応尋ねた。
「平気ですか? 結構大きい星ですけど……」
「ふっふっふ、心配するな! ちょっと本気を出すぞ、離れててくれる?」
女神さまは、本気を出す前に浮遊惑星に語りかけた。
「暗く長い一人旅を続けたようだな。だがすまぬ。そなたの力は、他の者どもの災厄になるのじゃ。小さく分かたれ、いずれはここの星々と同化し再生するであろう。そなたも協力してたもれ……」
少し待つと、星が応えたようだ。
「……そうか、感謝する。では、いくぞ。執行神モードへ移行する」
女神さまの力を貰った俺には分かる。
これまでと桁違いどころか、次元が違う力が存在した。
何時も着ているひらひらの衣装とは違い、赤熱に輝く甲冑と兜をまとった。
激変する重力と漏れ出すエネルギーで、周囲の空間が歪む。
そして手には身長の倍以上ある神槍。
「我が名――聞き取れない!――において命じる。砕けよ!」
ゲームをする時以外は、ほとんどアクションを起こさずに何でも出来る女神さまが、初めて大きく叫んだ。
両手でかかげた槍を、星の核へ突き刺す。
かつて貯め込んだ熱の総量に匹敵する力を注ぎこまれ、中心核は大きく震え、それから爆縮を始めた。
大地の固まりが崩れだす。
中心核が暴走して、いずれ失うこの星は、何十億もの破片になるだろう。
「よし、終わった。次へ行こうか!」
戦闘形態になった女神さまは、少し背が伸びて大人っぽくなり、武装がよく似合う。
女神さまに敵う存在なんて絶対いない! と確信する。
あとは、この世界の人たちが勝手に解釈するはずだ。
表面を溶かした核融合攻撃が、不安定な中心核に作用したとか。
「自らの力で乗り切ったと思うほうが良いのよ。奇跡は待つものでなく、起こすものだから」
次の世界へ飛びながら、女神さまはそう言った。
まあ、これもう何が相手でも余裕でしょ。
竜でも巨人でもかかってこい!
星も貫くうちの女神さまが相手してやんぞ、こら!
その前に……。
「ちょっとボロボロになったんですけど、治して貰えませんか? 出来れば年齢も若くつややかに」
熱にも圧力にも耐えたが、女神さまの上限解放の余波で、俺の肉体が滅茶苦茶だ。
貰った力で何とか即死と、荷物だけは守ったが。
「まあ良いけど、わたしはハゲてても気にしないぞ?」
天使な台詞ですが、俺は決してハゲてません!
返事を聞く前に、女神さまは指先一つで体を再生してくれた。
それにしても、女神さまがこれほどに強力無比だとは。
俺の気分は助さん、ユニコが角さんだなぁ
だがしかし、次の世界で俺の立場は、西遊記の孫悟空になる。
着いた先は、普通の剣と魔法の世界。
世界樹の苗木のところへ降り立った女神さまが、首をかしげる。
「あれー? おかしいな、力が出ないぞ??」
「またまた。ご冗談を」
通常モードに戻った少女姿の女神さまが、手足を振り回す。
「やっぱり出ないや。ゆうた、どうしよう?」
そんなの俺に聞かれても困りますってば!
モードを戻してないとか、前回使いすぎてブレーカーが落ちたとか、何処かに忘れたとか、何か原因があるでしょ?
「うーん、これまでは考えなくても、感じれば出来たから……」
天才ヒロインみたいなことをおっしゃる。
「まあいい。その内なんとかなるでしょ」と、今度は無能上司みたいなことを言い出した。
ユニコに乗せ――歩くと疲れるのだそうだ――しばらく進む。
せめて人里に出たいなあ。
周りに何もないし、こういう世界にはいるでしょモンスターが。
ほら、ユニコが鼻をひくひくし始めた……。
「おい見ろ、そこの地面が膨らんでる!」
馬上では、無邪気な声で女神さまが地面を指差す。
それって、もしかしなくても。
「出たー!」と叫んで、ユニコを引いて走り出す。
ワーム系の巨大モンスター。
ちらりと女神さまを見ると、暴れる背中にしがみつくのが精一杯のご様子。
まぢか、あの程度の魔物、見るだけで追い払えるはずなのに!
ただの少女になった女神さまと、戦闘能力も戦闘経験もゼロの俺。
一番頼りになりそうなのは、ユニコーン。
女神さまの荷物持ちの俺が、この世界では頑張るしかないのか……?
ようやく逃げ切った俺たち――体を若くして貰ってて良かった!――は、一息つく。
女神さまは、ユニコの背に伏せた顔を上げてやっと喋った。
「おいユニコ、揺れ過ぎだぞ。舌を噛んじゃった……」
今回の世界では青系の髪色で、無力になった女神さまに良く似合う。
ぺろっと舌先を出す様子も、とてもおかわいい。
女神さまがお力を取り戻すまで、この下僕が全身全霊をあげてお守りしますと、密かに忠誠を誓う。
ところで、一つ提案なんですが。
「女神さま、この世界では”めがみん”って呼んでいいですか?」
「もちろん良いぞ!」
少しだけ距離が縮まった気がした。
ここで一章、導入は終わりです
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