SFな女神
うーん、今度は都会だなあ。
「お前の故郷と、同じくらいの技術があるだろ」
女神さまは笑顔で言ったが、いやこれもっと進んでますって!
だって、車が空飛んでるし。
教会でも御神木でもなく、今度は湖の中に降り立った。
なんつーか、神性のあるとこでないと難しいらしい。
「いやー、良かった間に合ったな。この星の者共は、ここ五千年くらい祈ったりしてないから、手遅れになるとこだった」
女神さまは、全知ではない。
だから、誰も祈らなければ世界の危険にも気付かない。
ずぶ濡れの服を、振り回して乾かす。
女神さまの不思議な服は、猫の様に体を振ると綺麗に乾いたようだ。
ひらっとめくれる裾が悩ましい。
太ももの上の方まで見えても、まったく気にしないんすね、さすが神さま。
「髪の色は何でもよかろう。どうせ、それどころではないし」
意味深な事を言った女神さまと共に歩き出す。
ユニコーンのユニコ――命名俺――は、不可視の術をかけられて湖の近くに残す。
のんびり草でも食っててくれ。
車が飛んでる方角、人家が在る方へ進むと、一台の車が降りてきた。
「ひょー見ろ! べっぴんだぜ!」
「うお、ウルトラレアじゃん!」
「このおっさん、殴ってもいいかな?」
そういや、俺の姿は三十がらみの冴えないおっさんのままだ。
女神さまがまったく気にしないので、凡庸な黒髪黒目の若者に変えてもらっていない。
今度、頼んでみよう。
車から降りてきた若者達の目的は明白。
どんな世界のどの時代にも、こういうのは居るんだなぁとは思うが、いささか荒んでませんかね?
これだけ技術が発展してるのに。
四人の若者の目は、三人が性欲にまみれ、残りの一人は武器を取り出し、凶暴性に溢れている。
世紀末かよ、マジで。
だが女神さまは、何時もの愛らしい笑顔を浮かべる。
『逆効果ですってば!』
まあ指先一つ触れれるとも思えないけどさ。
「祈りは届いたぞ。案ずるな、そなたらは助かる」
それじゃただの怪しい人ですってば。
あ、またなんか渡された。
説得? 交渉とか説伏系のスキルだな。
これを使ってこいつらを納得させろってことですね、一発殴ってしまえば早いのに。
15分後、若者達は泣いて許しを乞うた。
『すげー。この能力があったら、何処でも宗教の開祖になれるわ』
四人の若者が、何事もなかったように車に乗せてくれる。
二人などは、後ろの荷物入れに押し込まれてるし。
「先ほどはすいませんでした。もうこの世の終わりだと、やけになっちゃって……。駄目ですよね、おれたち最後の時まで清く正しく生きます!」
そんな悪いやつらでもなかった。
つーか、助けを求めたのは彼らではない。
正確には彼らも含まれるが、この星に住む全ての生き物。
巨大な浮遊惑星が、彼らの恒星系に侵入したのだ。
質量はこの星の17倍。
衝突の可能性も高いが、例え当たらなくても、その重力でこの星は星系の外に弾き出されるか、減速して恒星に飲み込まれる。
確実な全滅がやってくる。
都市部に着いたので、彼らに頼み事をする。
「これ、換金してきてくれない?」と、巨大な金塊を渡す。
俺の服もボロだし、女神さまは目立つ。
ついでに宿代もない。
若者は、ダッシュで行って帰ってきた。
麻雀の点棒のような形の通貨をもってくる。
「これで、どれくらいになるの?」
「そうっすね。この街の一番いい宿で、1ヶ月は余裕っす! 危機が始まってから、金の値段上がったんすよ。笑っちゃいますよね」
そんなに要らないので、半分彼らにやった。
とりあえず、適当に服を買う。
未来チックでちょっとカッコ良い。
女神さまには、体のラインが出る服を勧めた。
これくらいの役得はあってもいいだろう。
宿は、ガラガラだった。
もう1年足らずで滅亡するのに、都会の宿に泊まる者もいねーか。
二人一緒のセミスイート、女神さまは神さまだけに気にしない。
落ち着いてから、テレビの様な物を点けた。
おー、やってるわ。
当たり前だが、ニュースは浮遊惑星一色だ。
暴動のニュースも多いが、今は激減したとキャスターが伝える。
この星の最後の希望、統合宇宙艦隊が浮遊惑星に向かってるそうだ。
「ま、無理だけどな」と、女神さまがいう。
テレビの中の解説者も、『我々の持てる全ての兵器を使っても、進路をそらせる確率は50%くらいです! 皆さん、かつて忘れた我らの習慣を思い出し、神に祈りましょう』と絶叫していた。
「ほんとに50%もあるんすか?」と聞いてみた。
「99.89%無理ね。この星の者が持つ核融合弾では、薄皮一枚剥がして終わりよ」
「女神さまなら?」
「そりゃもう任せておけ! ただあと3ヶ月も遅れるとやばかった。例え粉砕しても、この星の公転軌道に影響が出たわね」
つまり、この解説者が『祈れ!』と言ったことで救われたのか。
誰も気付かないけど。
それにしても、神さまって核融合とか知ってるんすねえ……。
「ゆうた、メシにいこう! 最近は食事が楽しみになってきたのよ!」
「はい、お供します!」
貸切状態のホテルで、二人だけの豪華な食事をとる。
この状況でちゃんと営業してるってのが凄い、まるで生まれた国のようだなと思った……。