下僕生活に慣れる
最初の街。
中央通りをユニコーンに乗った美少女というのは、格別に目立つ。
一応、聞き込み――俺の役目――もするが何の成果もない。
宿に泊まり飯を食って、次の街へ行く。
「女神様、普通に肉とか食うんすね」
キレた印象が強いが、本性は優しいのだろう。
最近では、ようやく俺もビビらずに話しかけることが出来るようになった。
しかも割とフランクにお答えくださる。
こうなると、お仕えする甲斐があるというものだ。
「そりゃこの体を維持するには必要だからね」
女神様は、ポーンと自分の腹を叩く。
「おやめ下さい。はしたないです」
「あらそう?」とは言ったが、女神様は素直に聞きいれてくれた。
「動物も植物も、一つの世界で回り巡るものだからね。わたしの一部になるってことは、悪いことじゃないのよ?」
神さまの理屈だ、良くわからない。
女神様は、ここでちょっと悲しい顔をして俺を見た。
「あんたがこの世界で死んだら、ただ無くなるだけなのよねえ。誰の養分にもなれないの……」
そんな法則があるのか。
転生者の宿命ってやつかな。
「まあけど、死んだらわたしが食べてあげよっか? それとも、元の世界の土に戻して欲しい?」
なんという二択。
いや、後者はありがたい申し出なのだが。
「ちょっと考えさせてください……」
異世界で死ぬことなんて考えてもなかった。
そのー、生き返らせるって方法はないんですかね?
次の街は、ちょっと大きい。
女神様の乗ったユニコーンを引いていると、ガラの悪い男たちが寄ってきた。
それも一人や二人じゃない。
かなりの数が集まると、一人の男が俺に声をかける。
「兄ちゃん、見ない顔だが何処のもんや?」
『女神の下僕です』と答えても良いのかな。
「まあ何処でもええわ。それで店は決まっとるんか? うちが買うで。値段は言い値でええぞ」
んん? なんだ? 魅力的な提案だが話が見えない。
「あ、ずるいぞ。うちも狙ってたんや!」
「待て、うっとこはその倍だすで!?」
人相の悪い男どもが、『仲介人』の俺のとこへ集まる。
女神様に直接交渉しないとこは、礼儀正しい。
「違う違う! こちらは売り物でも、他所の街から来てお店を探してるお姉さんでもありません!」
勘違いも仕方がない。
日傘一つで生足を投げ出して、素材不明の薄いドレス一枚で、とびきりの美貌。
そりゃそっちの商売だと勘違いされても仕方ない。
「けど、それがユニコーンに乗ってる訳ないでしょ?」
この説明に、男たちも納得してくれた。
一応、『個人で客取ったらあかんぞ! 規約違反だし、最近は立ちんぼがよく消えてるからな』と、忠告か脅しかよく分からぬ物を残して去っていった。
面白そうに人の子の営みを眺めている女神様に、一言申し上げた。
「あの、もうちょっと目立たない格好してもらえません?」
「だーめ。今回はこれが大事なの」
せめて理由を教えて欲しいが、女神様は意味深に笑うだけ。
「さ、この街を一周して宿を探して。出来れば、暗がりにあってちょっとボロいとこが良いわ」
「ええー。お金はあるんだから、良いとこに泊まりましょうよ?」
「それも、だーめ」
ご主人様には従うしかない。
ついでに、女神様は金でも宝石でも好きに作り出せる。
恒星クラスのエネルギーを内包してるんだから、それも当たり前。
ボロ宿で、襲われた。
これが狙いだったのかと気付いた時には、喉に刃物が食い込む。
「そいつ殺すと、わたしも死ぬわよ!」
何故か女神様は、手にしたナイフを自分に向けて演技中。
「おい、離してやれ。縛っておけ」
覆面の強盗団の頭が命令して、俺は解放された。
ただし、血はだばだば出るし、縄できつく縛られる。
「ああー…………、大丈夫? あなたが無事ならそれでいいわ~」
女神様は、相変わらず下手くそなお遊戯を続ける。
つか今、俺の名前を言おうとして出てこなかったですよね?
召喚された時、名乗りましたよね?
飼い主に名前を忘れられるのが、こんなに悲しいとは……。
女神様は、あっさりと攫われる。
当たり前だが、何か魂胆があってのことだろう。
それに<<縄抜け>>のスキルを渡してくれた。
これを使って付いて来いってことかな。
さくっと抜け出して、ユニコーンを連れてくる。
『ご主人様の匂い、分かるだろ?』
俺の思いに応えたのか、ユニコーンは夜の街を歩き出す。
待っててください、女神様!
あなたの忠実な下僕が今行きます!