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エピローグ


 目の前の男は死にかけていた。

 正しくは、肉体が消滅していた。


 今や霊体だけの存在になった男が、老いた顔を崩す。


「おおお、これは女神様! お久しゅうございます!」

「うむ、そなたも息災か?」


 幽霊状態の男は、「がははは」と笑い「死にかけです」と答えた。


「まさか女神様、御本人がいらっしゃるとは。少し早まりましたかのう。最終究極甚大魔法を使って、肉体が消えてしまいましたわい」


 この老人は、ここで一人で戦っていたらしい。

 新しく現れた世界の危機に、かつての勇者が挑み、そして敗れた直後だった。


「いや、そなたの消滅で”これ”に気付いた。よくやったな、そなたは二度もこの世界を救ったぞ」


 ”これ”と呼ばれた世界を滅ぼしかけた異物に対し、女神さまが手をかざすと一瞬で消え去る。

 これでここでの仕事は終わりだ。


『この人は……無駄死にだったのだろうか?』

 口には出せない疑問が湧いてしまう。


 だが、男は満足げに嬉しそうに笑った。

「いやいや、老骨に鞭打って半年も戦った甲斐がありました。これでこの世界は平和になるでしょうか?」


「うむ、あと数千年は何も起こらぬであろう」

 女神さまは断言すると、俺を手招きして呼ぶ。


「源五、こやつは”ゆうた”。お主と同じ世界の出身じゃぞ」

「ほう!」と声をあげた源五さんの霊体が俺に近づく。


「始めまして、山田優太と申します。新しく女神さまにお使えすることになった若輩ですが、よろしくお願いします」

 丁寧にお辞儀をした。


「ほうほう、確かにわしの祖国の生まれじゃなあ。わしは山本源五郎という、もう何十年になるかのう。死にかけのとこを女神様に拾われ、この世界へ連れてこられた」


 筋金入りの大先輩だった。


「源五はなかなか優秀だぞ。送り込んだ時も任務を果たし、今度もわたしが来るまで時間を稼いだ」

 女神さまに褒められ、一礼してから源五郎さんは俺におずおずと聞いた。


「山田殿は、昭和何年からいらしたか? 祖国は……日本はどうなった?」

 まさかと思ったが、源五郎さんは昭和19年に転生したそうだ。


「昭和はとっくに終わり、二度も元号が変わりました。戦争が終わって80年ほど経ちますが日本はずっと平和です」


「お、おおぉ! そうか、そうかそれは本当に……」

 良かったと言う代わりに老人は涙を流した。


 女神さまも、役目を果たした戦士にサービスする気になったようだ。

「そなたの兄、姉、弟の子供らは生きておるぞ。ひ孫が生まれた者もおる」


 うんうんと何度も頷き、源五郎さんは覚悟を決めた。

「これで心残りなく逝けますじゃ。女神様、長い余生になりましたが、あの時にわしを選んでいただき感謝申し上げます」


「うん、さらばだ。最後に聞こう。そなたの魂は、元の世界に帰るのを望むか?」

「可能ならば……この世界を見守りとうございます。わしにも、孫が十一人も出来ましてな」


「よかろう。この世界で祖神として封じよう」

 世界を二度救った老勇者は、神さまになった。


「へーあんな昔から転生者っていたんですねえ……」

 自分の感覚で感想が出た。

 女神さまは丸い目をパチクリさせながらいった。


「何を言うか。そなたの住んでた地域は昔から働き者が多く、優先的に選んでたんだぞ。それが最近はやれ武器を寄越せ、スキルを寄越せだうるさくなりおって……」


「すいません、本当にすいません」

 平謝りに謝った。


「へえーやっぱり神くらいならなれるのねぇ……」とティルが野望を燃やす。


「神さまとか怖いです」

 そう怯えるのがクルケット。

 最近は、女神さまの身の回りを一手に引き受けている。

 料理も上手く、一番役に立ってるかもしれない。


「さあ次だ。けど疲れたなあ……」

 ユニコの背に腰掛けながら、女神さまはじっと俺を見る。


「ねぇゆうたー、次はお前に頼むよー」

 最近は2回に1回はこの調子だ。


「またですか? このところ多くありません?」

「働き者の神なんか異端だぞ!」


 無茶苦茶な理屈で押し付けてくる。

 ただ、以前にもらった能力はずっとそのまま、むしろ世界を巡る度に増える。

 今では必要な資格は全て取り終わった、ベテランの下僕だ。


「ああそうだ。ゆうた、覚えてるかお前が名付けた女の子のこと」

 もちろん覚えてる、そんな経験は滅多にない。


「その子は、神木の下で治療院と孤児院を営んでいるぞ。そして子が生まれた、『ユウタ』と名付けたそうだ」


 あれから十数年経ったが、クルミに預けた能力は生きている。

 俺が力を取り上げられるまで、ずっとそのままだ。

 女神さまは、何も言わずに俺にお力を預けたままにしてくれている……。


 仕方ないなあ、優しい女神さまの代理で一働きしますか。


「ひょっとして、次も洞窟ですか?」

「うん、横穴だ!」


 クルケットが、ぱっと手をあげた。

「今度は自分も行ってみたいです!」

「それは良いな、結構強いから3人で行ってこい。わたしは飲んで待ってる」


「えっ!? そんなぁ、私は酒宴のお供が良いですぅ」

「飲んで寝てばかりだと太るぞ」

 ティルに嫌味を言ったつもりだったが、女神さままで自分のお腹の肉をつまんでいた。


「じゃ、今度は目的地の5千キロ手前から歩くということで!」


 ユニコとティルとクルケットの悲鳴が響く中、俺達はまた新しい世界へ旅立った。



 おしまい

最終話を追加しました

さくさくテンポよくが目標で書き始めました

お陰でかなり短く完結になりましたが如何でしょうか?


もっと書き込め、このくらいの展開速度が良いなど

ご意見ご感想を頂けると嬉しいです

読んでいただき、ありがとうございました

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