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理想の冒険者


「悪いことは言わん、やめておけ」

「親子ともども死ぬことはない」

「というか、良くここまで来れたな」


 29層のベースキャンプ、そこに居た冒険者の誰もが引き止めてくれる。


 血気盛んな冒険者は、未知の天塔へいく。

 既に攻略された底穴の最下層に来るのは、実力はあるが変わり者ばかりらしい。


「ユウタは強いから平気だよ。それに、ボクたちは親子じゃないよ!」

 シース改めクルミが余計なことを二つも言う。


「なにぃ~? それで子連れとはどういう事だ」

「よく見たら、坊主でなく女の子か?」

 ここの冒険者は比較的”まとも”なようで、剣呑な空気が流れる。


 リーダー格の男が、すっと立ち上がって喋った。

「少し、事情を聞かせて貰おうか。最近は良からぬ事をする輩が増えたんでな」


 リーダーの男――ジェイドと名乗ったが――は、腰に手をやり有無を言わさぬ調子だった。

 だが、クルミがジェイドの前に立ちはだかる。


「ユウタは悪い人じゃないやい!」

 がるる、と喉でも鳴らしそうな剣幕で吠える。

 

 俺を擁護してくれてるが、年端もいかない少女をこんな所まで連れてくる奴は、まともな大人には見えないだろう。

 それに、個人で戦っている冒険者が、急に現れた子供に『こっちの方が強い』と言われてカチンとこない訳がない。


「落ち着いて、そうじゃないから。すいません、根はいい子なんです」

 クルミをなだめつつ、冒険者にも謝罪した。


 様子を見ていたジェイドが、剣から手を離して座り直す。

 やはり、人狩りをする冒険者の一味かと疑われていたようだ。


 クルミは、なんだか不満そうであった。

「なんでだ? ユウタの方がずっと強いだろ!」


「強い弱いじゃないんだよ。お互いに話して分かる時は話をする。強いやつが何しても良ければ、お前の弟妹達は酷い目に合うだろう?」


「それはそうだけど……」

 しぶしぶといった感じでクルミも引っ込む。


 もう一度、冒険者達に謝ってから俺も座って事情を説明した。


「33層の更に下に!?」

「にわかには信じられんが……」

 冒険者が大きくざわつく。


「何か、証拠や確信はあるのか?」

 ジェイドも信じがたいといった様子で聞いてきた。


 本来なら、別の世界から脅威が来たことを報せる必要もないが、ここの連中にはしばらくクルミを預かってもらいたい。


 隠す必要もないので、『女神の命令でここまで来た』と正直に述べた。

 しかし、何故か話の信用度が下がってしまう。


「ま、こんなとこまで潜って来るんだ、あんたがただ者じゃないのは分かる。だがな、次のボスは本当にヤバイんだ。経験者込みで二十人、それくらいの頭数は要る」

 ジェイドは、刻んだ葉をパイプのようなものに詰めながらいった。

 それから葉に火をつけ、大きく煙を吸い込む。


「あんたもやるかい?」と、パイプを勧められた。

 タバコはやらないので断ろうと思ったが、これは友誼の儀式かもしれぬ。

 パイプを受け取って、そっと吸い込んでみた。


「げほっげほっ!」

 きつい、見事にむせてしまった。

 それを見た全部で7人の冒険者が笑いだし、やっと穏やかな雰囲気になった。


「実のところな、ここに住んでるガキどもは噂になってる」

 今度はクルミを見ながら、ジェイドは語る。


「さすがに奴隷商人の真似事までする奴が出ちゃ放っておけねえ。どうだ、一度一緒に上まで戻らんか? 何なら人数を集めて下の層を探索しても良い」


 ジェイドの申し出はありがたい、正義感の強い冒険者というのは良いものだなと再確認する。

 だが、こっから先は俺一人が任された仕事だ。


「それですが、この子を1日か2日でいい、ここで見ててもらえませんか? お礼の用意もあります」

 ジェイド達が信用できそうだったので頼むことにしたが、返事を聞く前にクルミが爆発した。


「いやだ! ユウタと一緒に行く! それにユウタなら一人でも絶対に平気だもん!」

 ぴょんと大きく跳ねると、捕まえようとした指先をくぐり抜けて下へ続く階段へ飛び込んだ。


「あ、こら待て!!」

 慌てて追いかける、俺。


「おい、行くぞ。武器も持て」

 ジェイド達も付き合ってくれる、本当にすまない。


 運動能力を強化されたクルミは速い。

「なんつー速さだ。本当に人の子か」とベテラン冒険者が驚くほどに。


 クルミは、ボスの出る部屋の前で俺を待っていた。

 俺が追いつくのを確認して、ボス部屋へ飛び込む。


『なんて子だ。あとでしっかり叱らなければ』と思ったら、後ろにはジェイド達7人が付いてきた。


「なんで!?」

「そりゃおめー、放っておけないだろ?」


「ここのボス、強いんだろ?」

「だからさ。俺は三度倒してる。さあ来るぞ!」


 7人の冒険者が、手慣れた感じで武器を構える。

 いいな、俺も何時かこんな冒険者になりたいもんだ。


 女神さまから貰った剣を抜き、大事な槍はクルミに預けた。

 出てきたボスは五体、これまでのボスの強化型ってところか。

 ジェイド達が居てくれて助かった、クルミの護衛まで手がまわらないところだ。


「ジェイドさん」

「なんだい?」

「女神から派遣された証拠、見せますね」


 全ての戦闘能力を全開へ。

 ここまで降りてきた経験で、今はかなり上手く使えるようになっていた。


 十五分程の戦いで、下へ続く扉が開いた。


「……マジかよ。田舎帰って畑でも買うかな」

 ジェイドの呆れたような呟きが聞こえた。


「ユウタ、こっちこっち!」

 笑顔で呼ぶクルミに近づいて槍を受け取ってから、頭に軽くげんこつを落とす。


「守りの魔法で痛くないもん!」

 生意気盛りのクルミが元気に階段を走り降りる。


 俺達8人は、その小さな背中についていく。

 下へ着くと、「33層まで案内するよ」とジェイドが言ってくれた。


「ありがとうございます。助かります」

 俺は丁寧にお礼を言ってから、もう勝手はしないようクルミの首根っこをがっちり捕まえた。

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