ふたり旅
九人の男たちを川べりに転がした。
無傷の者は一人だけで、あとは骨が折れて呻いている。
ダンジョンの壁からは地下水が吹き出し、それが池になってから地下の川を作る。
この川の水を飲んで倒れた子供がいたことを思い出す。
かなり綺麗な水で、毒があるようにも見えないが……。
流石に<<水質検査>>のスキルはない。
探索能力をフルに活かして、池全体を調べてみると、底の方に大きな丸い反応があった。
「おい、池に住む丸い生き物で、毒をだすようなのがいるか?」
無傷の冒険者に聞いてみた――この世界の冒険者は奴隷も狩る。
そいつは首を横に振ったが、別の奴が知っていた。
おずおずと手をあげて、砕けた膝を抱えながら喋った。
「たぶんドクマルトカゲです。水の中で毒を吐いて、倒れた獲物をゆっくり食うとか。空腹にならないと毒を出さないんで、なかなか見つからないんです……痛っ……」
変わった生き物もいるものだが、教えてくれた褒美をやることにした。
そいつの膝を治してやる。
子供らはイヤな顔するが、こいつらは今からこき使う予定だ、五体満足でな。
「分かったと思うが、逆らうだけ無駄だ。今から全員治してやるが、逃げても無駄だ。指示の通りにすれば助けてやるが、出来なければ魔物の餌にする」
それだけ告げて、全員を治療した。
「まずは、池底のドクマルトカゲとやらを捕まえる。縄でもかけてこい、俺が釣り上げるから」
9人の冒険者は、それなりに手慣れた動きで池に浮いたり潜ったりしながら、トカゲとやらの足に縄を結んだ。
「せーのっ」と綱引きをしようとすると、子供らが寄ってくる。
どうやら手伝ってくれるみたいだ。
みんなで声を合わせ、よいしょよいしょと引き上げる
「カメじゃねーか……」
ドクマルトカゲは、紫の甲羅を持った全長3メートルのほどの大亀だった。
「うまそう」
「食えそう!」
「美味しそう!」
子供らが騒ぎ出すが、ほんとにたくましいな、毒があるって聞いてたろ?
「食えますよ、こいつ。喉の下の毒袋、それを傷つけずに頭を落とすんです」
また冒険者の一人が教えてくれた。
てめーら、知識もある冒険者なら、子供狩りなんてやってるんじゃないよ。
可哀相だが、カメには子供らの食料になってもらった。
解体した肉や骨、甲羅を冒険者どもに運ばせる。
内蔵と毒袋のついた頭は、かなり遠くへ運んで埋めさせた。
「じゃ、自分らはこれで!」
一仕事終わったな顔をして冒険者が去ろうとするが、こんなもので済むはずない。
「まだだ」
「旦那! もう金輪際ガキども、いやお子様方に手は出しません! 真面目に冒険者やるので許してくだせえ」
「お前らが前に連れてった少年少女がいるだろ」
「うっ……もうとっくに売っちまいました……」
だろうな、だが取り返してきてもらう。
「お前らに制約をかける。7日以内に5人を買い戻して、ここまで連れてこい」
女神さまの力を使い、契約と罰を付与した。
「ぴったり7日後だ。それまでここに来ても死ぬし、戻らなくても死ぬ。言っておくが、神の契約だ。人の魔法なんかでは絶対に解除不可能だぞ」
9人は泣きそうになるが、まあそれもそうだろう。
金欠になったから”ここ”に来たに決まっている。
「金は俺が出してやる。渋る買い主がいたら、力づくでも奪ってこい。さもなくば俺がお前らを殺す」
5、6個の宝石を投げて渡した。
相場は分からないが、足りないってこともないだろう、宝石を見たこいつらの顔からして。
「早くに買い戻しても、7日後まで来るなよ。死ぬからな。それから子供らには、ちゃんとした飯を食わせろよ」
しっかり念を押すと、冒険者らは全力で走って行った。
ま、仲間を呼んでくるなんて可能性もあるが、それなら人手が増えるだけだ。
売った子供らを連れて戻るまで、何度でもだ。
「さてと。シース、みんなを呼んできてくれるかな?」
大量のカメ肉を、塩漬けにしたり燻製にしたりと大忙しの子供たちを一度集めた。
「えーでは、この家の入口にバリアを張ります!」
「バリア?」と子供たちが復唱する。
「結界みたいなものかな。みんなだけ通れるようにするから、順番に手を出して」
子供たち以外は通れないバリアを張る。
ついでに、近くの大木を数本選んでトレントと化した。
「何かあれば子供たちに力を貸すように」と命じておく。
これで安心だろう、あとは……。
「ちょっと下まで行ってくるから、待っててね。7日以内に戻るよ」
それだけ伝えて走りだそうとすると、腰のあたりに何かくっついた。
がっつりと、シースがしがみついていた。
「シース……急いで戻ってくるから、待ってて?」
「やだ」
「みんなの面倒見るんだろ?」
「だって、ボクが案内するって言った!」
そりゃそうだが、一番のお姉さんを連れてはいけない。
説得しようとする俺に、他の年長組の子たちが口々にいう。
「これだけ食い物があれば平気だよ」
「そうそう、優雅に寝て待ってるから!」
「少しは手伝いさせてよ」
「シースが一番食べるから!」
最後の子をぽかっと殴ったシースが、俺に訴える。
「24層までは行ったことあるの! 階段の位置も危険な魔物の住処も全部わかるの、だから案内させて!」
ま、それは助かる。
実際このダンジョンは結構広い、能力フル稼働で走り回るより早いかもしれない。
「なら、お願いしようかな?」
お願いの返事は満開の笑顔だった。
子供たちに見送られて出発した俺とシースは、一日で第十九層まで降りた。




