野生のユニコーン
野生のユニコーンを捕まえた。
本来は人に捕まるようなものではないが、そこはそれ、女神様が<<神獣捕獲>>のスキルをくれた。
「女神様、どうぞこちらへ」
鞍もないユニコーンに、横掛けで優雅に座る。
「ってか、前回みたいにぴゅーって飛んで行って退治しないんですか?」
実際は、空を飛んではいない。
邪竜から少し離れた教会に顕現した女神様は、驚く民衆から可哀相な竜の方角を聞くと、五日ほど歩いていって殴った。
「前はねえ、大暴れしてもう世界の七割くらい滅んでたし。あの巨体だから、見つけるも簡単だったし」
全長3キロメートルはあった大トカゲと対峙する女神様。
頻繁に色を変えるあざやかな長髪と、どの人種にも似てないが掛け値なしの美形、少女と女性の中間くらいの体型に素材不明で薄手のドレス。
ゲームで見たような素晴らしい光景で、引き締まった女神様の横顔は飛び切りの美少年にも見えた。
まあ、ワンパンだったんだけど。
「今回はヴィルクォムの魔導書ね。と言っても、人の書いたものでも、神の創ったものではないわ。存在してはいけない物だから、悪用される前に消す。それだけよ」
ユニコーンに腰掛けると、女神様は髪の色を金髪に固定した。
それから、右手を差し出す。
俺がその手をそっと握ると、蹴りが飛んできた。
「違うわよ、バカ。日傘よ、日やけしちゃうでしょ」
女神の私物をガサゴソとあさって、日傘を見つけだす。
『つか、こんなものまで入ってるのかよ……』
女神の私物は、口の広いバックパックに、あらゆるものが乱雑に詰め込まれている。
水や食料もあるが、ランプにフライパンに、火打ち石に火口、更には下着まで整理整頓一切なし。
これを背負ってついていくのが、俺の役目。
手綱がないので、革紐――これも女神の私物から出てきた――を、ユニコーンの首に巻いて先導する。
白い背中の上で、綺麗な金髪をたなびかせながら、日傘をくるくる回す女神様は特別お美しい
『転生して……良かった!』と、心の底から思う。
「それにしても、すっごい平和っすね」
緑豊かで、道の両脇は手入れされた田畑。
太陽は二つあるが、煙も見えなければ悲鳴も聞こえない、のどかな町外れ。
「今はね―。けど魔導書が発動しちゃうと、手に負えないから今のうちにねー」
女神様ものんびりと答えてくれる。
「何処にあるか、分かるんすか?」
「さあねぇ、たぶんこの大陸かな」
「つーか、女神様なら何が起きようと平気なのでは?」
「う~ん、それが難しいのよねえ」
女神様は、俺の方にずいっと顔を寄せた。
「ねえ、この体どう思う?」
『触らせてください!』は、却下。
「とてもお綺麗です!」
これはチャンスが来たと思い、全力で褒めた。
ただし、経験不足で良い単語が出てこない。
「そう。肉体を作って降臨してるの」
女神様はスルー。
「わたしがもうワンランク上のモードで地上に現れると、だいたいあんな感じよ」
中天に輝く二つの太陽、その大きい方を女神様は指さした。
「あれと同じくらいの力が吹き出るわ」
「えぇ……この星、燃えちゃうじゃないですか……」
「そうよ、だから肉体を作って話し合いで済ませたいの。魔導書を渡してくれれば、それで終わりよ」
話し合い――物理――の方だよなあと思いつつ、もう一つ気付く。
その魔導書、何処かの誰かが持ってるんだなと。
女神様は機嫌がよろしいのか、ユニコーンの上で鼻歌交じり。
聞いたこともない旋律だが、そのお声が風に乗って流れると、道端の花がぱっと開き、木々も嬉しそうに体を揺らす。
「女神様って、何の神さまなんですか?」
破壊神じゃなかったんですね、と言うと怒られそうだし。
「わたし? 何のって言われても……原初の神で創世神ってとこかしら? 沢山の世界を作ったわよ。それはもういっぱい!」
時々アホっぽいとこが、とてもチャーミング。
「へぇー、けど逆らう存在、手を下すようなやつらも居るんですね」
「まーね。だって神みたいなのも、大勢いるのよ?」
そういった存在や物が、女神様の世界に流れ着くことがあるらしい。
今回はその代表的なもの。
ま、女神様に付いていけば何の心配もない。
俺は意気揚々とユニコーンを引いて歩く。