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俺、活躍する


 大聖都というだけあり、トリプティクには教会や神殿がたくさんある。


 そんなありがたい街を、夜の闇に紛れて歩いて行く。

 俺は黒の上下にナイフと剣、防具は一切必要ない。


 クルケットは足元まで隠すパーカーみたいな服に、リュックを背負って付いてくる。

 もう雨ガッパにランドセルの児童にしか見えない。

「ここが異世界で良かった」と心から思う。

 

 道すがら、左目に宿る女神さまがクルケットに何か伝えた。

「ゆーた様! この街には、土地の神が全くいないって言ってるです」

 適当な神を呼び出してこき使うのは無理っぽい。


「だから聖都になったのかな……」

 俺の独り言を聞いたクル坊が、目を丸くして笑う。

「そんな考えもあるですか。さすがゆーた様です」


 もう一つ加えると、以前女神さまから聞いたが『俺の世界には神さまが存在しない』そうだ。


「珍しくも、偶然が重なって出来た宇宙なのよ」と、女神さまは言っていた。

 その中でも、たまたま人型の知的生命体が居る地球は、異世界の神にとって都合の良い狩り場になっているとも。


「だって、他の神に遠慮することなく雇えるのよ?」だとさ。

 雇うなら給料くださいよ……まあ何らかの能力が前払いなのだろう。


 さて、女神さまのとこへ就職した俺は先を急ぐ。

 何時か下僕でなく、譜代の家臣となりたいものだ。


 目的地――女神さまの体が連れ去られた場所――を見渡せる場所まで着いた。

 今回もやっぱり教会。

 異世界の悪人ってなぜか宗教関係者ばかり。


「あっち……ですね。特に罠とかもないです」

 女神さまが見た情報を、クルケットが教えてくれる。


 教会の聖堂、さらに奥の大きな倉庫らしきものが敵アジト。


「では、ちょっくら行ってきます!」

 俺は背を低くして走り出す。


 目的はとても単純。

 奪われた女神さまの力を解放するか、ヴィルクォムの欠片に操られた者を倒す。

 どーせ奴らは女神のパワーをそのままでは使えない。

 だから依代の少女――実は女神創った肉体――を欲しがった。


「力の変換器、つまりは生贄ってやつだな」

 女神さまはそう表現していた。



 何の抵抗もなくあっさりと近づけたが、その理由は直ぐに判明した。

『ぐわっ、でかい、重いし強い!』

 倉庫に近づくと、牛ほどもある犬に襲われた。


 しかも3頭、それぞれが俺の体に噛み付いて引っ張る。

 こんなことで傷一つ付かないが、また服がボロ布になってしまう。


『睡眠薬入りの肉とか用意しておけば』と思ったが、そんなものは無い。

 一つだけ取れる手段を試してみよう。


 ユニコーンを捕まえた<<神獣捕獲>>と<<説得>>の合わせ技。

 ただの犬ならもちろん、魔獣あたりでも効果あるのではなかろうか。


 ……15分後。

 ようやく従わせることが出来た。

 頭のレベルは前の世界で絡んで来た不良と同レベルか。


「ここで待て。この建物から出る奴が居れば襲ってよし。ただしゴブリンとユニコーンが来ても食うなよ」

 犬どもに命令して、やっと倉庫まで辿り着く。


 外から様子を伺っても、当たり前だが見える範囲では悪さをしていない。

『上から行くか……』

 屋根へ上がり、熱気の出てる煙突を見つける。

 ちょっと煙が気になるが、これならいけそうだ。


『誘拐犯の皆さまに、地球名物サンタクロースの恐ろしさを味わってもらいましょう』なんて事を考えながら、燃え盛る暖炉の中に顔を出す。


 いた、全部で六人、ティルもいる。

 床にも壁にも大量の魔法陣が描かれ、全てが青く発光している。

 あれに奪ったお力を一時的に貯めているはずだ。


 奴らの真ん中では、手足を縛られて全裸に剥かれた女神さまのお体が。

 頭には妙な器具を被せて、あれで操るつもりか。


 最も偉そうな奴、高そうな服の奴に狙いを定める。

 暖炉は部屋の一番奥、偉そうな奴も一番奥に陣取っている。


『上座を守った不運を呪うが良い』

 もちろん声には出さず、俺は暖炉の中から剣を構えて真っ直ぐに走り出た。


 人や生き物を殺すのは、文明国育ちの俺にとって抵抗ある。

 だがまあ、女神さまの世界では魂は確実に巡るのだ。

 それにだ、宇宙ごと消滅するよりはマシだろう。


 覚悟を決めた俺の一撃は、そいつの背中から胸へと貫いた。

 思い切り刃を押し込むと、口からも血を吐いて絶命した。


 剣に体重がかかって凄く重い。

 これが人の命一つ分の重さかと、思いの外に大きなショックもあった。

 だが、ここで呆ける訳にはいかない、口々に何かを叫ぶ残りの五人を剣で牽制しながら、俺は壁の魔法陣の一つに取り付く。


 魔法陣をぶん殴って壊す。

 数えた限り、魔法陣は三十ほど。

 

 女神さまは言っていた。

「もって来た力の1/3ほど返ってくれば、この世界にわたしの力を呼ぶ道を作れる。まあ電線を引くようなものかな」と。


 十個も壊せば、あとは女神さまの独壇場。

 まず一つ、次に二つめ!


 三つめを壊したとこで邪魔が入る、ティルか!?

 素早いエルフが俺に襲いかかった。


「諦めろ! 親玉はもう死んだ!」

 ボッコボコに攻撃を受けながらも、俺は平気な顔で4つめを壊す。


「あ、そうか。ユウタは攻撃が効かなかったのよね」

 それだけ言うと、返事の代わりに邪悪に笑ったティルが目の前から消えた。


 速すぎて見失った。

 右左と見回して、上か!? と見上げてもいなかった。

 突然、俺の視界が塞がれて、後ろから膝に蹴りが入って倒される。


 あっという間に数人に飛びつかれ、縛り上げられる。

 目隠しと拘束でさくっと無力化とは、そういや防御はカンストだけど、それ以外は凡人だったなぁ……。


 芋虫で転がされた俺に、ティルの声が聞こえた。

「こいつの分は私が貰うわ! 文句ないわよね」


 何の話だと思ったが、次にティルは俺に語りかけた。

「こいつがボスでなくてよ。私達六人が、同時に聖石を授かったのよ! 私達は六人で一つ、いやもう五人ね」


 死体からヴィルクォムの欠片、その二つめを手に入れたティルの高笑いが聞こえる。

 お前、エルフ少女のくせに、ラスボスだったのかよ……。


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