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エルフとゴブリン


 ゴブリンのクルケットは良く働く。

 せわしない種族のようで、のんびり生きるエルフと相性が悪いのもよく分かる。


「こらチビゴブリン、これに付いて行っても良い事ないわよ?」

 ティルはしばらくの間、クルケットを追い出そうとしていた。

 旅の道連れの分際で、堂々とそんな事を言っちゃうエルフの神経はかなり太い。


「うるせーです! わたしはめがみん様とゆーた様に尽くすです! 年増ババァはすっこんでろです」

「なんだと、このチビスケめ!」


 こんな感じでティルが絡んでくれたお陰か、クルケットもだいぶ馴染んだようだった。


 広い草原出身のゴブリンは、うつ伏せで丸くなって寝る。

 たいていは女神さまの足元で毛布にくるまる。

 一方のティルは、『木の上で寝るから』と夜は居なくなることが多い。


 トリプティクに着いた夜もそうだった。

 ただし、『知り合いのとこに泊まる』と告げてティルは出ていった。


「そろそろですかね?」

「そうかもな、来てくれないと困るなあ」

 俺と女神さまは、対決も近いと感じていた。


 女神さまがこの世界に来た理由は、救いの声を受け取ったのと、また”ヴィルクォム”の反応があったから。


「ところで、ヴィルクォムって何ですか?」

 当たり前の疑問を、俺はようやく聞いた。


「んー、別の世界の創造神の名前かな」

 思いの外、物騒な答えが帰ってきた。


「え、破壊しちゃったんですか?」

 あちこちに散らばってるくらいだから、やっちゃったのかと思ったが。


「ちょっと違うかな。結構前になるが、わたしの作った宇宙とそいつの作った宇宙が重なって喧嘩になったの。それで主神大戦(ラグナレク)モードでやりあって、奴の武器やら鎧やらが飛び散った破片ね」


主神大戦(ラグナレク)モードって、先日の惑星を壊した時よりも上ですか?」

 怖いもの知りたさで聞いてみた。


「そりゃーね。執行(エクスキューション)モードは世界に作用するだけだし。そっちは神同士の戦い専用」


 その状態ならば、宇宙も砕けると女神さまは断言した。

 そんなのがニ柱も殴りあうとか、なんて恐ろしい。


「ヴィルクォムの奴も、わたしの武器の欠片を掃除する羽目になってるわい」

 くっくっく、と女神さまは楽しそうに笑う。

 まあそれで、妙な力があったり女神さまが触りたがらない理由も分かった。


「難しくてよく分かんないです」

 女神さまの膝の上で可愛がられながら、クルケットが顔をあげた。


 なでなでされる様子は、虎に撫でられる子猫のようだが、クルケットにはこれから大事な役を勤めてもらう。


「本当に良いかい?」と、ゴブリンに最後に確認をとる。

「もちろんです! お役に立ちます!」と答えてくれた。


 ならば、ヴィルクォムの欠片に操られた敵が現れるのを待ちますか。


 深夜、俺達の取った部屋に、押し込む者どもがあった。

 またも女神さまがあっさり攫われる。

 だが、今度は計画通りだ。


 俺はその様子を、向かいの部屋の鍵穴から見ていた。

 体格もバラバラの四人組、その中に見慣れた長い耳をみつける。

 女神さましか居ないことで責められて、何やら言い訳をしているようだ。


 悪漢どもは、諦めたのか女神さまの体だけを誘拐していった。

「い、いなくなったですか?」

 後ろからクルケットが話しかける。

 彼女の左目――女神さまが再生した――は、常になく不思議な色合いをたたえる。


 今、女神さまはこの子の左目に宿っている。

 ご自身で作ってあげたから出来る芸当だ。


「もう去ったよ。もう少し待ってから追いかけよう」

 女神さまの抜け殻を攫った奴ら、本体がここにあるので追跡も簡単だ。


 もう、何をやっていたか何をしたいかも分かる。

 この世界で助けを呼んでいたのは、実は世界樹の苗木。


 世界樹の力が吸い取られるので助けを呼んだところ、やってきた女神さまのお力まで吸い取られてしまった。

 莫大な力に驚いた奴らは、何が起きたか確認する為にティルを寄越した。

 まあそういう訳だ。


 当たり前だろう、美人のエルフがほいほい助けに来て仲間になるなんて、そんな展開あるはずがない!


 ま、吸い取った力で何をするかは微妙だが、たぶんヴィルクォムの本体と連絡を付けたがるはずだと女神さまは言った。


 さて、神さま同士の喧嘩が始まる前に解決しないとな。

 なんたって、この宇宙が丸ごと消し飛ぶ危機なわけだから。


 今回は炭で真っ黒に汚したユニコも連れて、大きく遠回りをしながら抜け殻の後を追う。


 不安なのか、クルケットがぎゅっと俺の裾を握る。

「大丈夫だよ。目的の場所まで着いたら、ユニコと隠れててね」

 そう言うと、クルケットは大きく頷いた。



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