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異世界は中世


「ゆうたくんは、何でこんなお仕事してるの?」


 エルフのティルが、素朴な疑問って顔をしながら聞いた。

 疑問形の語尾に合わせてちょっと小首をかしげると、綺麗な髪が顔の端をさらっと流れる。


 こ、この態度は……!


「いや、お仕事っていうか、お役目ですから」

 無難な返事にとどめる。


「えー変なの。だってドゥジャルダ――クマのような怪物――とも戦えちゃうんでしょ? それって最強クラスの戦士ってことよ。もっと色んな事が出来ると思うな、わたし」


 ティルの手が俺の肘に軽く触れ、俺はごくりとつばを飲む。

 女神さまは、ユニコの上で寝ている、まるで犬小屋の上のビーグル犬のようにバランスをとって。


「ね、どうなの?」って感じでティルが見上げてくる。

 これはあれだな、まさか異世界で遭遇するとは思わなかった。


 飲み屋のお姉さん的な計算(ビジネス)

 モテたことのない俺は確信する、『うかつな返事をすると高い出費(ツケ)になる』と。


「いやーそう言われても、荷物持ちで付いてくって約束したんですよ」

 一度勤めたら滅私奉公の遺伝子が俺にもある。


 幸いなことに、環境は過酷だが俺の扱いは悪くない。

 何といっても、同じ物を食べて同じ場所で寝て、雇い主と同じ待遇ってのは素晴らしい。


「ふーん、欲がないのねえ」

 ティルはそっと手を離した。


「そろそろご飯の時間か?」

 ユニコの上で、女神さまが目を覚ました。



 旅は順調、大聖都トリプティクへの道だけあって、きっちり整備されていた。

 泊まる所にも飯を食う場所にも困らない。


 峠の飯屋で、昼飯を食った。

 先々の道のりを尋ねると、おかみさんは渋い顔をして教えてくれた。


「この先の領主様は、あまりいい噂を聞かないねえ。この店にも、時々国を捨てて逃げてくる人がいるんだよ。あまり大きな声じゃ言えないけどさ」

 とのことだ。


「通り過ぎるだけですから……」

「それなら、連れのお嬢ちゃん達を隠すことだね。領主様は、未だに初夜権を行使なさって気に入った娘を連れてくそうだよ。目に止まるとろくな事にならないよ」


 それは酷い。

 回り道も考えたが、その国、ヴィッテンハイムという国は街道を挟んで大きく広がっている。

 女神さまとティルには、フード付きの服を着せた。


 最初の街で貰った通行手形のお陰で、入国は問題なかった。

 かなり厳しい警備だったけれど。


「逃走防止ですかね」

 ティルがぽろりと感想をこぼした。


「たぶんね。入る人より、出る人の方を見張ってたものね」

 こりゃ出国の時に苦労しそうだ、今から頭が痛い。


 街道筋から見える畑は、よく手入れされてみんなせっせと働いている。

 ただし女も子供も総動員、休む間もなく働かされてるって感じだ。


 それでも、国の中央にある首都までは無事に着いた。


「どうします? 一泊しますか?」

 色々と厳しい国なのだろう。

 治安には問題なさそうで、夜の道を急いでも問題はなさそうだ。


「わたしはどっちでも良いぞ」

 女神さまは関心がないご様子。


「わたしは早く抜けたいです。どうも空気が重くて」

 ティルは、この国がお気に召さないようだ。


「なら、進みましょうか」

 ユニコを引いて歩き出したが、そうもいかなかった。


「道を開けろ、端に寄れ」と先触れの騎馬が現れた。

 領主か偉い人の行列が来るのか、目立たぬように二人のフードをぐいっと下げる。


 やってきたのは行列でも、ゴブリンの行列。

 ゴブリンといっても、黒い髪に小柄の体、別に角や牙があるわけでもない。

 どう見てもせいぜい別人種にしか見えないが、この世界ではゴブリンなのだ。


 両手と両足を鎖で繋がれたゴブリンは、みな傷だらけ。

 目を潰されてる者までいる。

 ひそひそと住人の声が聞こえる。


「今度はなに?」

「なんでも反乱だとか」

「まさかゴブリンが、あんな弱小種族がねえ」

「領主様の狩りの成果だろ。ま、ゴブリンで良かった」


 街の人々は、同情はするが関係ないといった雰囲気だ。


 目に前をゴブリンの群れが通り過ぎる。

 体の傷は拷問の跡かな……あれで白状させられたのだろう、泣いてる者も居ればメスまで居る。


 特に小柄な、一匹のゴブリンが躓いて倒れた。

 周りの人々が一斉に避け、俺も思わず一歩下がってしまったが、一人だけその場を動かぬ人が居た。


「ん、どうした? 大丈夫かの、水でも飲むか?」

 女神さまは、足元に転がった子供のゴブリンに手を貸すと、水筒を口に当てて顔も拭いてやる。


「酷い怪我をしておるの、ついでじゃ治してやろう」

 反乱を企んだとされ、片目を潰されたメスの子ゴブリン。

 それを介抱してしまうバカな旅人から、周りの人達はさらに距離を置く。


 当然、兵士がやってくる。

 もー女神さまったら、お力は温存してくださいねってあれほど言ったのに!


 俺は走り出て、兵士の前に立った。

「お、お許し下さい! 旅の者で何も知らないんです! この通り手形もあります」


 バシン! とムチが飛んだ。

 思い切り痛がるふりをするが、問答無用ってどういうことだ。

 あ、そっちは駄目だ!


 女神さまを狙ったムチも俺が受ける。

 兵士たちは、頭に来たのか俺を集中的に狙い始めた。


「ひえー! 許してください!」

 なんてこった、また服がぼろぼろだ。


 全力でムチを振るう兵士の向こうから、声がかかる。

「何事かね」

「はっ! 反乱分子どもに手を貸す者がいたので懲罰しておりました、領主様!」


 見ると、奴隷の担ぐ輿に乗ったでっぷりとした男。

 そいつの視線は、俺を通り越して後ろを見ている。


 潰された目が治った子ゴブリンと女神さま。

 それはまあ良いとして、女神さま……フードを取っちゃった……。


「ほう! これはこれは。よし、捕まえておけ。わしが直々に吟味、いや取り調べてくれるわ」


 ヴィッテンハイムの領主とやらは、べろんと舌なめずりをした。

ドゥジャルダンヤマ・クマムシというのが居るそうで

これは8本足の凄い生き物なんですが

そこからモンスターの名前を貰いました

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