貧乏女神
夕暮れも迫る頃に着いた街の様子は、ぴりぴりしていた。
街道から続く入り口は、検問まである。
『まずいなあ』と思う。
女神さまもティルも人目を引くのだ。
街の外で泊めてくれる所があればそっちを選んだが、緊張あふれる雰囲気の中でそんなとこは無い。
引き返すわけにも行かないし、二人には帽子とフードを被ってもらいユニコに乗せる。
って、おい女神さま! 前の世界のグラサンなんか着けないで下さい。
一発でお縄ですよ。
「そこのお前ら、こっちへこい」
早速止められる。
「見かけん顔だな。何処から来た?」
「いやーそれがですね。転送魔法機が故障したのか、妙なとこへ飛ばされましてね。見慣れぬとこへ出ちまって。あ、私らはミッドガルドのローランって街から来たんですよ」
「お、おう?」
「いやー助かった。武器もなしで放り出されて、ここ何処ですかね? あ、荷物も見ますか?」
ペラペラと嘘が口から出る。
完全なでまかせなのに、何故か信じてくれる。
あーそうか、これも前回の残り――説得系のスキル――ってやつか。
「ふむ、女二人に使用人か……ところでこの馬、まさかユニコーンか?」
う、嫌なところに気付くな、
「そんな訳ないじゃないですか。飾りですよ、飾り」
俺はユニコの角をぐいぐい引っ張る。
嫌そうな顔をするが、賢いユニコーンは我慢した。
最後に、『お手数かけてすまないね』と荷物の底に転がっていた、小粒の金塊を握らせた。
なんだかんだで、これが一番効果があった。
無事に検問を過ぎると、ユニコがごつんごつんと角をぶつけてきやがる。
「悪かったよ、お前は賢い神獣だよ。あとで好きな野菜買ってやるから」
所詮は馬だ、これで満足してくれた。
たぶん、俺が女神さまに貰った能力は4つか。
転生時に貰った自動翻訳、それに説得と神獣捕獲と縄抜け。
あとは女神さまの力の5%ほどを預かっている。
『これを返せれば、万事解決しそうなんだけどなあ。二人切りになった時に、相談しよう』
宿屋にて、さっそく持ちかけた。
ティルのいる前でこんな話は出来ない。
「回収できませんか?」
「どうやって?」
それを聞いてるんですが。
「だってー、回収する為の力がないんだよー。ゆうた、乾電池から発電所に電流を送れるか? 分かるな?」
いや、さっぱり分からん。
女神さまは、意外と現代用語も知っている。
管理下に、前みたいに科学系の世界もあるからだろう。
「なら、俺から送ることは出来ないんですか? バッテリーから電流送ってエンジンを始動させるみたいに」
女神さまは、頭に『?』を浮かべる。
あーもう、持ってる知識がバラバラだよ、この神。
少し分かりやすく説明し直した。
「お前から、わたしに力を注ぐと?」
「まあそういう事ですね」
「お前……そんな事考えてたのか、人のオスは見境がないな! このスケベ!」
何故か、女神さまは怒って背を向けてしまった。
『ええー……俺、なんかやっちゃいましたか?』
理不尽だと感じたが、本気で怒ってないのでしばらく放っておいた。
その間、俺は鞄の中身を確認する。
先程の4つの能力と、この荷物、今のとこ防御にしか使えない女神のパワー。
これで当面は乗り越えないといけない。
だが、防御と言っても核の直撃にも耐えるレベルのものなので、気が楽だ。
水責めでもされなければ、死ぬことはないな!
「ゆーた、腹が減ったぞ!」
どうやら、ご機嫌が直ったようだ。
食事の出る宿ではないので、食材を買って来て薪代を払って自分らで調理する。
今晩のメシは、エルフ風サラダに、鳥に香草を詰め込んだ丸焼きに、穀物を粉にして練って焼いたもの、要するにパンだ。
ユニコにも、ニンジンの様なものを買ってやった。
三人での食後に、ティルからこの辺りで起きる事件のことを聞いた。
幾つもの村から、突然住人が消えると。
「人にエルフ、オークにゴブリンと種族も関係なくです。けれど、お互いが疑心暗鬼になって、人とオークが一瞬即発だとか。わたしの村も……」
ティルは、そのままうつむいてしまった。
「エルフの娘よ、その失踪が何処で起きたかこの地図に記してくれ。分かるだけで良い」
女神さまが渡した地図に、ティルが印を付ける。
多いな、十数箇所はある。
なら被害は数百人どころではないかも。
「ふーん、この大陸のあちこちか。バラバラだな」と、女神さまは地図をくしゃっと丸めた。
その夜、二人きりなのを確認して、俺は女神さまに聞いた。
「地図で、何か分かったのですか?」
「なんだ、気付いたのか」
「そりゃもう、女神さまは嘘と演技は下手くそですから」
「ふん、褒めてあげようと思ったのにー! まあいいや。印は、大まかに二点を中心に円を描く」
そこまで言われりゃ俺でも分かる。
「一つは、女神さまが現れた世界樹の苗木。もう一つは、今回の黒幕かヒントですね?」
「ゆうたはかしこいなあ」
頭を撫でて貰うなど、何十年ぶりだろう。
嬉し恥ずかしだ。
「目的は分からんが、目的地ははっきりした。あとは乗り込んで何とかする!」
大雑把な計画を立てた女神さまに、俺は辛い現実を伝えねばならない。
「実は、もうお金がありません。金も宝石もです。女神さま、バイトの経験は?」
「あ、あるわけないじゃろ……」
俺達は、二人で旅に出て、最大の窮地をむかえていた。
次回は、働く女神さまです




