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10話 女神の弱点


 もう動けない。

 生身なら軽く五十回は死んでた。


 つまり五十戦分の経験を、俺は一晩で積んでしまった……だといいなあ。

 まあ、猫に弄ばれたネズミが強くなるかと言えばそんな事はないが。


 女神さまとユニコがやってきて、水をくれた。

 喉がカラカラだったことに気付き、脇目もふらずに飲み干した。


「よく頑張ったな、偉いぞ!」

 満点の笑顔で女神さまが褒めてくれる。

 褒めて伸ばす上司に当たるのは初めてなので、素直に嬉しい。


 俺もユニコを褒めてやる。

「女神さまを守り通したな、偉いぞ!」

 

 しかし、この馬は当然だろといった目で見下しやがった。

 お前、分かってんのか?

 女神さまの一番の下僕は俺で、二番目がお前だぞと。


 一息付いたところで、助けてくれたエルフがやってくるのを待つ……待つのだが、近くの丘まで来て目を伏せてしまった。


「えーっと、怪しい者じゃないですよー? さっきはありがとうございましたー!」

 大声で呼びかけても、寄ってこない。

 なんだろ、俺の方を指さしてるな……。


『ぶひひん』と笑いながら、ユニコが体を擦り付けてくる。

 やめろ! 素肌に馬肌がこすれる感覚が……!


 んん……? やっと気付いた。

 重量級のモンスターに蹂躙された俺は、服なんて微塵も残ってない。

 ズタボロになっても股間部だけが無事ってのは、漫画的な嘘だと知った。



 服を着ると、ようやくエルフが近づいてくる。

 女神さまは、俺が全裸でもまったく気にしない。

 たぶん自分が全裸でも気にしないと思う……今度、試してみよう。


 やっと会話に入れた。

「ほんとに、すいません。わざとじゃないんです……」

「あ、いえ。仕方ないですよね、あの状況では……」


「あの、先程は助かりました」

「わたしは特になにも。それにしても凄いですね、ドゥジャルダ相手に無事だなんて」


 さっきの怪物は、ドゥジャルダというそうだ。

 この辺りでは最強のモンスターで、昼間は水辺でごろごろしてるのだとか。


 それにしても、噂に違わずエルフってのは美人だな。

 目鼻立ちはくっきりしてるのにキツすぎない。

 ピンクブロンドが自然に似合うってあり得ないな、胸も大きいし。


「そりゃ人気にもなるわ……」

「え?」


 いやいや、何でもないです!

 つい前世の記憶が邪魔をして!


「そなた、名前は? わたしはめがみん、そう呼んでいいぞ!」

 女神さまも会話に混ざる。


「こっちがゆうたで、こっちがユニコ。どっちも役に立つぞ!」

 感無量。

 わたくしめ如きが役立つなどと……それにユニコよりも先に紹介されたし。


「あ、すいません。申し遅れました、わたしはティル・クゥといいます。訳あって旅をしてまして」


 エルフのティル、そう名乗った。


『女の一人旅は危険でしょう、一緒に行きませんか?』と、言いたい。

 心の底から言いたいのだが、先ほど丸出しを見せた男に誘われて、付いてくるわけがない。


 迷う下僕に、ご主人様が助け舟を出してくれる。

「なあ、この辺はさっぱりなんだ。案内してくれないか?」

「ええ、構いませんよ。わたしもそろそろ、街へ行こうと思ってたんです」


 トントン拍子に話は進み、ティルが同道してくれることになった。

 本当に助かる。


「ところで、あんなところで何をしてたのですか?」

 いやーそれは答え辛いなあ……。

 何と言うのが正解なんだろうか。


 悩んでいると、女神さまが馬上から俺の髪を引っ張る。


「ゆーたゆーた、かゆいのだけど、これなんだ?」

 見ると、女神さまの腕に赤いポチが。


「あーこれは虫さされですね。野営したから仕方ありません」

 まあ今の俺の体は、虫の針なんて通さない強度だけど。


「どうすれば良いのだ?」

 虫に刺されるなんて、女神さまにとっては初体験か。


「こう爪でですね……そう、ばってんを付けておくんです」

「うーん、余り効かぬぞ?」

「その内にかゆみも引きますから」


 かきむしると、女神さまの珠のお肌に傷がついてしまう。

 虫さされの薬は、流石に持ってない。


 すると、女神さまはぺろりと刺され跡を舐めた。

「こっちの方が効くな」と。


「だ、駄目ですよ! 子供じゃないんですから!」

「だって、かゆいもん」


 絶対無敵で全能に近いご主人様が、虫さされなどに翻弄されるとは……。

 知らないぞ、世界中から虫が消えても。


「ゆーた!」

「はい、なんでしょうか」

「足も刺されてる」

「足?」


『ここ』と女神さまが見せたのは、太ももの内側だった。

 お、お、御御足を広げて見せるなんて、なんてことを!?

 これには、俺も絶句してしまう。


「届かない。舐めてくれ」

「な、な、何をおっしゃるのですか!?」

 お父さん、怒りますよ?


「くすくす」と、ティルの笑い声が聞こえた。


「仲が良いですね。ご兄妹ですか?」

 いえ、全然違いますけど。


「わたしにも弟妹が居たんですけど……」

 返事は待たずに、ティルは悲しい目になった。

 女神さまがこの世界に呼ばれた理由に、関係ありそうだと俺は思った。


 遥か地平に、ようやく人の作った建物が見える。

 今夜の野宿は避けられそうだ。


読んでいただきありがとうございます

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