表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/29

1話 始まり


 俺の持ってる最後の記憶は、『危ない! トラックが!』だった。


 気がつくと、普通の名字と平凡な名前を持つ俺は、光溢れる部屋にいた。


 頭上から、優しい女性の声が降ってくる。

『人の子よ、何を望むのですか?』

 こ、これが、噂の!!


 ……15分後。



「あーもう! めんどくさい!」


 眼の前で、異世界の女神がキレた。


「あんたらねぇ、どいつもこいつも要求が細かいのよ! 昔は良かったわよ、昔は。飢えた少年を死の間際に拾って、体を治して送り出してやれば死ぬまで戦ったのに!」


 うわーゲスい。


「それが、剣を寄越せ魔力を寄越せ……まあこれは良いわ。手間もないし、素手で放り出すのはちょっと気が引けてたから。けどさ、勇者にしろ賢者にしろは違うでしょ? それって自分で掴み取るもんじゃなくて?」


「はい! おっしゃるとおりです!」

 俺は、直立不動で返事をした。

 社員を駒にしか思わぬ企業で鍛えられた俺には朝飯前。


 キレた上司には逆らわぬのが正解。

 いや上司じゃないけど……美人の怒り顔なんてご褒美と思えるメンタルが、俺にはある。


「挙げ句の果てによ? 最初から戦闘力100億にしろあらゆる攻撃を無効にしろどんな攻撃もラーニングさせろ幸運マックスにしろハーレム要員を用意しろだのその他たくさん、いい加減にしろってのよ!」


 ほー、神さまでも息切れするんだ。

 一息で言い切った女神を前に、顔だけは神妙な様子に変える。


『困ったな。せっかく異世界に来たのに、最初の一歩で躓きそうだ』

 それも俺が悪い訳ではない。

 これまでの候補者が欲張り過ぎたせいなのに。


「で、あんたの要求なんだっけ?」

 完全にゴミムシを見る目で、全能の女神様は聞いた。


 ブラック営業の鉄則。

 相手が怒っても、あくまでにこやかに、絶対に譲るな。


『お前が殴られれば、こちらの条件で商談成立するんだよ!』

 そう言ってビンタするのがこれまでの上司だった。


「えー、わたくしとしましては……。どんな物でも切り裂く剣と、どんな攻撃も防ぐ盾。出来れば強力な魔法とかも使えれば。あと、女エルフを惹き付ける容姿か能力も下さい!」


 最低限の条件を伝える。


「ふーん。わたしの話、聞いてた? 殺されたい?」

「滅相もございません!」


 俺はジャンピング土下座した。

 目がマジだ。


 しかし、ここで引くわけにもいかない。

 本当に何の能力もなく放り出されて、ふつーのスローライフとか無理です。

 凡人のスローライフなんて見たくもない。


「出来ないんですか?」

「へっ?」

「今言った条件、無理なんですか?」


 反社会勢力に売り込みに行った時よりも巨大なプレッシャーが膨れあがる。

 大気が震えてプラズマが走る。


 力ある者が怒ると、ゴゴゴ! ってなるあれ。

 本当だったんだ。


「出来ないわけないでしょ! 2170の世界に1万飛んで265人の転生者を送り込んだこのわたし<<○△&#%>>に不可能なんてないわ!」


 うおー名前が聞き取れない! 流石は女神!

 だが『出来る』と言わせれば、俺の勝ち。


「なら、証明してくださいよー」

 ドヤらないように、なるべく弱気で申し出る。


「それなのに! あんたらはろくに世界を平和にもせず、だらだら冒険するかイチャイチャするか勝手に国造り始めるか! どれだけの能力を授けてやっても、目標達成率は1%以下じゃないの!」


 あ、まだ説教が続くんですね。

 けどそれを俺に言われもなあ……。


「め、女神さま! 自分は全力で最短距離で邁進いたします! ですから先程の条件でお願いします。誰かに任せるしかないのなら、是非わたくしめに!」


「ふぅ、それもそうね……」

 やった、女神が折れた。


 怒りはそう長続きするものではない。

 それも床に額をごんごんぶつけて懇願する相手には。


 土下座と額の痛み、ついでに飛んでいったメガネ。

 これだけでどん底の現世から解放されて、最強ライフが手に入るなら安いもんだ。


「あんたの言うとおりね。自分でやった方が早いわ」

「へ?」

 

 聞き間違えでなければ良いが。


「わたしの力の数%も割くような要求なら、自分でやった方がマシだわ。神の力の回復も、時間かかるのよ」


「いやいや、待って下さい! それではこちらの都合、いや僕はどうなるんです!?」


「あんたもう良いわ。帰してあげる」

「そんな殺生な! 話が違います!」


「元に戻すだけよ?」

「絶対嫌です! お側において下さい、何でもしますから!」

「うーん……荷物持ちなら……」

「それで構いません!」


 こうして、俺は無事に異世界転生出来た。

 そして、最初の世界へ……女神の荷物を背負いついて行く。


 混沌から生まれし邪竜とかいうのが居た。

 大陸全ての生物を根こそぎ食い荒らして、放っておくと世界が飲まれるとかなんとか。


 女神様は、一直線に邪竜の住処に乗り込み、ワンパンで倒した。


「つ、強いっすね……」

「当たり前じゃないの。さ、次の世界に行くわよ。ノルマ貯まってんのよ」


 俺の新しい上司は、人使いは荒いがとても美しい。

 それだけで、何とか耐えられそうだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ