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第1話


ーあぁ、夕日が綺麗だなぁ。


それは17歳になったばかりの秋も深まった夕方のことだった。黒髪黒目の短髪で女子力のかけらも無いジャージ姿で晩御飯の材料を買いに行った帰りのことだった。


私、妃篠雫( ひしの しずく)はここから見える夕日が一番きれいだなぁと、どうでもいいことを思いながら川辺に座ってボーッと夕日を眺めていた。そうしているといつの間にやら夕日は沈み、辺りがうっすら暗くなり始めていた。


「あ、やばっ。ぼーっとし過ぎた!早く帰って晩御飯の準備しないとっ!」


このままでは母親に怒られると慌てて立ち上がったその時、体が後ろに大きく傾いた。


「えっ...」


慌てた私は反射的に買い物袋をぎゅっと抱き締め、目を瞑ることしか出来なかった…。

これから来る衝撃に覚悟を決めながら…。

















ーーそしてこの世界から、一人の少女が姿を消した。













◆◇




「......ん」


私は何処からか聞こえる鳥の鳴き声によって目を覚ました。うつ伏せになって気を失っていたようだ。頭がぼーっとして上手く状況を判断出来ない。身体を起こしながら整理していると、だんだんと思い出して来た。確か河原で足を滑らしてこけたんだったけ?我ながらどんくさいな…。自分の鈍臭さに呆れていると、周りの環境がおかしな事にが気づいた。




見上げるほどの大木が鬱蒼と茂っている、深い深い森の中だった。




「は…へっ?」

驚きすぎて変な声でた。


え??私コケただけだよね…?こけた先が大自然とかちょっと意味がわからない……。これはファンタジー小説とかでよく見る転移??

ここが異世界かどうかはわからないけど、飛ばされてしまったのは確かだ……。


人生で起きるはずがないであろう事態に陥り、私の頭の中は絶賛大パニック中。暫く意味もなく視線をさ迷わせていたが、段々落ち着きを取り戻してきた。パニックするのに疲れたというのもある…が、とりあえずこれからどうするべきか考えることにした。


まず、持っていた買い物袋が綺麗さっぱり無くなっている。転移?しちゃったか何かで落としてしまったのかもしれない。こんな森の中を手ぶらというのは非常に危険な状況だ。

だけどなんとか川を見つけ、それに沿って下っていけば人里があるかもしれない。

食べ物もこんな森の中ではどれが食べれるのかもわからないので不安だが、今はどうするべきかを考えよう。


よし!まずは川を見つけよう。その先のことをはその時に考えることにして今は前に進むしかないっ!


私はこれからのことを決めると早速行動を開始した。

木々の隙間から見える太陽の位置的にお昼頃のようだし頑張れば夕暮れまでには見つけられるかもしれない。


……見つかるといいなぁ…。



不安に思いつつも、持ち前の「何とかなるさ精神」を発揮して立ち上がる。


「さてと、どっちに行けばいいかな…」


早速躓いてしまった。どっちに行けば川があるのかさっぱりわからない。でもそのまま立ち続けるわけにもいかず、私は川の痕跡を見つける為に、一歩足を踏み出した。







◇◆



「おぉ…!」


それから体感的に1時間は歩いたであろう時に、小川を見つけることができた。これに沿って歩いていけば大きな川に繋がっているかもしれない。もうひと踏ん張りだ。頑張ろう。



それから暫く歩きそろそろ限界が近づいていた頃、遂に幅4m程の大き目の川にたどり着くことが出来た。


「やった…。着いたぁ…」


獣に会わないかずっと気を張り詰めて歩いていたので、ほっと安堵してしまった。その途端考えないようにしていた事がどっ、と押し寄せてくる。


「喉乾いた…もう無理…。水…」


長時間何も飲まずに歩いてきたので、喉の乾きはもう限界だった。川の水を飲もうとしゃがみ手で掬ったところで、なけなしの理性が働く。ここの水は飲んでも大丈夫だろうか?と気づいてしまったのだ。気づくと途端に不安になってくる。


水を濾過するなんて今は出来ないし、日本人の胃の強度で当たらないだろか?と私が唸っていると、背後の茂みから急に「がさっ」という音が聞こえた。


「…っ!」


咄嗟に後ろを振り返り音の鳴った茂みを注視する。悩んでいたせいで周りを気にかけるのを忘れてしまった。ここは川なんだからいつ水を飲みに来た獣が訪れるか分からないのに気を抜きすぎた。もし肉食獣が現れ襲ってきた時に少しでも抵抗するため、近くに転がっていた石を掴み立ち上がる。



そして、がさがさと音を鳴らし現れたのは……。


「……鹿?」




とても大きな鹿だった。



体長は大体180cmくらい、高さは私の身長が165cmと女子の中でも背が高い方なのだが多分155cmはあるだろう大きさだ。体毛は黒に近い焦げ茶色で野生の動物だとは思えないくらいツヤツヤと輝いている。首元からお腹のあたりまで白くてふわふわした毛がついていて、体格はしなやかさを感じるシュッとした体格だ。大きな黒い瞳はこちらをじっと見つめている。


そして雄なのだろう。二本の角が後ろに反りながら別れていて、先端になるほど平たく大きくなっている。長さは1mくらいあるかもしれない、とても長く立派な角だ。


ここまでは大きな牡鹿だなーで終わることができるのだが、ちょっとそれでは終わる事ができそうにない部分がある。


それはもう一つの角だ。


なんと、二本の角の間に10cmほどの鬼についているような角があるのだ。

この鹿、角が三本あった。


もう、この鹿の姿を見た時点でここは地球じゃないということが決定してしまった。もしかしたら私が知らないだけでいるのかもしれないが、こんな鹿がいたら普通話題になるだろう。薄々地球じゃないかもしれないって思っていたけど、やはり少しの希望くらいは持っていたし家族にもう会えないかもと思うと悲しさが溢れてくる。いやでも、帰る方法あるかもしれない…こっちに来れたんだから帰る方法くらい…でも無理だったら……。


私がショックを受けて固まっているといつの間にか鹿が私の目の前まで迫っていた。思わずビクリと身体を跳ねさせる。鹿はそんな事どうでもいいとばかりに私の匂いを嗅ぎ始めた。目の前にある角が刺さりやしないかとヒヤヒヤしながらじっとしていると、鹿は満足したのか一旦嗅ぐのをやめ、今度は身体を私に擦り付けてきた。ここまでくると敵対する気は無いとわかるし、むしろこれは懐かれているように思える。


初対面でこんなにも懐かれてしまうと普通は驚く所だろうが、私の心の中では納得する気持ちがあった。



何故なら私は、小さい頃から何もしていないのに動物によく懐かれていた。それはもう懐かれた。道を歩けばどことも無く野良猫が擦り寄ってくるし、散歩中の犬なんかに出会うと皆が飛びついて離してくれなくて飼い主さんを困らせていた。特に小さい頃行った動物園なんて、檻があろうとなかろうと皆私の傍に寄ろうと騒ぐのだ。ふれあい広場なんて行ったなら動物達にもみくちゃにされるという、小さい頃の私は良くトラウマにならなかったと言うくらいほんとに動物達に好かれる。


家族もそれなりに動物に懐かれるが、私の場合は何もしてないのに初対面で好意度MAXという異常な体質だ。私自身も動物が大好きだから特に問題無いしそういうもんだからと受け入れている。


まぁ、そんな感じで異常な体質を持っているのだが、異世界の動物にも通用するとは驚きだ。


私がそんな回想をしながらすり寄ってくる鹿を撫でていると、一通り満足したのか川に近づいて水を飲み出した。そこで私も喉が乾いていたんだと思い出す。


思い出したら我慢ができくなってきた。もうここまで来ると水が飲める飲めないの話ではなく普通に干からびてしまう。水は今まで見てきた川よりとても綺麗に澄んでいるので、もしかしたら大丈夫かもしれない。この先水くらいで不安がっていたら異世界で生きて行けるかわからないのだ。私は意を決すると川の水を掬い恐る恐る飲んでみる。いけ!私!!度胸を見せるのよっ!!


ごくっ…。

「……っ!!」


私は驚きに目を見開き数秒固まると一心不乱に水を飲んだ。そして満足するまで飲み終えると一息つき、


「なにこれ美味しいーっ!」


とその場で叫んだ。そのくらいここの水は美味しかった。今まで水の味なんてそんな変わらないしあんまり美味しくないと思っていたのを土下座して謝り倒したいほどの美味しさだ。


水のあまりの美味しさに惚けていると鹿がこちらをじっと見ているのに気づいた。どことなく恥ずかしくなって咳払いをしてから鹿に近づいてみる。近づいてからもじーっとこちらを見てくるのでなんだか気まづくなってしまい話しかけてみた。


「あなたはここら辺に住んでるのかな? この先人里とかある? もしあったら案内してくれないかな? あ! 人里が危険で近づきたくないとかだったら、せめてゆっくりできる場所とか知らない?」


普通に無茶ぶりである。普通の鹿なら意味などわかる訳もないが、何故だかこの鹿には私の言葉が理解できてるような気がした。すると、私の考えが的中したのか鹿は一つ瞬きすると身を翻して歩き出した。


「え、あ!まって!」


ほんとに理解しているような動きに驚いてしまい、私は一瞬遅れて慌てて追いかけ始めた。

お読み頂きありがとうございました。

これからは無理せず更新していきますので、どうか宜しくお願い致します。

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