閑話
よう、エリックだ。
俺はここ、トルランサの街で冒険者ギルドのギルドマスターをしている。
俺も元冒険者で、ギルドマスターになりたての頃は目も回る忙しさだったが、それももう慣れた。
そうして、ギルドマスターになって早10年、今日も1日が始まり、仕事をしていると、扉がノックされた。
「誰だ?」
「サリアですにゃ。」
サリア、このギルドの受付嬢だ。今は受付に居るはずだが、どうしてここに?
「入れ」
「失礼しますにゃー」
そう言って入ってきたサリアは、何処か困惑した表情をしながら入ってきた。なんだ?何かあったのか?
「それで?何かあったのか?」
「それが…さっき冒険者登録をした方が、素材を売りたいとの事で、その素材が受付では出せない位大きいそうなんですにゃ」
「はぁ?そんなんどうやって持ってきたってんだ?」
「空間魔法だそうですにゃ。」
「空間魔法だと!?」
空間魔法とは、古の時代に失われた魔法である。
そんなのが現れて冒険者に登録しただと?
空間魔法なんざ使えるなら冒険者よりも儲かる仕事なんていくらでもあるってのに。
会ってみたい、そして脅威とならないか見極めなければ。
「わかった。すぐ行こう」
そう言っていざそいつに会ってみると、俺は目が飛び出るほど驚いた。
これでもギルドマスターなので、顔には出さなかったが、多分。
何でって、年端もいかないような少女なんだぜ?
しかも見た事の無い種類の獣人だ。
銀色の毛色に、9本の尻尾。そして何よりもめちゃくちゃな美少女ときたもんだ。
そして、そいつが持ってきた素材を裏庭で出してもらうと、何と竜が出てきたじゃねぇか。
しかも、一撃で首を刎ねた状態で。
それを見て俺は、言いようのない恐怖を感じた。
竜は、SSSランクの魔物で、同じSSSランクの魔物でも、頂点に君臨する。
他のSSSランクの魔物でさえ、国家滅亡レベルなのに、竜はそれらの魔物よりも圧倒的に強いのだ。
そんなのを狩ってきた少女を、俺はすぐさまSSSランクに昇格した。
見極めるなんてとんでもない。願わくば、この少女が俺達の敵にならない事を祈るばかりだ。
何て事を思ってたんだが、この少女、リーンは、肉だけ売ると言った後、俺が代金を渡すと、俺に金の価値を聞いてきた。
聞いたところによると、遠国の出身で、この国の常識など知らないそうなのだ。
はぁ…なるほどなぁ、遠国の出身って言うならリーンの種族を見た事が無くてもおかしくはない。
それに話していると、丁寧な喋り方ではあるが、何処か人と関わりたくないようなそんな雰囲気で、この様子なら余程気に触る事をしない限り俺達の敵にはなり得ないだろうと確信した…のだが…
最悪な事が起こった。
この街の領主に、リーンの情報が漏れたのだ。
本来ギルドは、国とは相互不干渉の契約をしているのだが、この国は他の国より軍事力が低く、このギルドだけでなく、他の街のギルドでも、実力のある冒険者が来ると、必ず取り込もうとするのだ。
それも、貴族の権力を使って。
本来ならば、それはギルドに喧嘩を売っているにも等しいのだが、
奴らはそんなの関係なしとも言わんばかりに冒険者にちょっかいを掛けてくる。
しかも、今回の件で、ギルド内に国からのスパイが居ることも確定した。
前々から対応しようとしてきた事ではあるが、今回の件で更に急がなければならなくなった。
「はぁ、本当にこの国の貴族共は馬鹿なんじゃねぇか?」
そんな事を呟くと、俺の秘書であるシックが
「ギルドマスター、いけませんよそんな事を言っては。何処から聞かれて居るかわからないんですから…」
何てことを言っているが、シック自身も、呆れた顔で俺の手元にある手紙を見ていた。
「だってよぉ…これは流石にないだろ?」
俺が持っている手紙には、遠回しにではあるが竜の素材の販売要求とリーンを引き渡せ、さもなくば、ギルドに割く経費を削減すると書いてあった。
「はぁ…これ、リーンに何て言えば良いんだ…?」
「ありのままを話すしかないでしょう。これ以上経費を減らされたらたまったもんじゃないですし、冒険者には貴族と繋がりを持ちたい人だって結構いますから、リーンさんも案外喜ぶかも知れまさんよ?」
シックがそんな事を言うが
「お前さ、俺がお前に言ったリーンの話で、あいつが貴族との繋がりを喜ぶと思うか?」
「ないでしょうね…はぁ…もうこの国のギルド撤退したらどうです?この国はギルドを嘗めすぎています。」
「それも視野に入れないといけねぇな」
もしも、この国がリーンにちょっかいを出して、それがリーンの怒りに触れたのなら…
この国、終わるかもしれねぇな。
そうして、頭痛を感じながら、仕事を終えて、ギルドにある部屋のベッドで眠りについた。




