(1)
「懐かしいなー」
携帯に映る文字を見ながら、私は自然と微笑んでいた。
何もない穏やかな日常。それでいいと思いながらも、どこかで何か刺激を欲している自分もいる。
『若草小学校三―A 同窓会の開催について』
その文面を見た時、心が少し浮き上がった。
差出人は向井弘子。にひひ、という表現がピッタリな、ガキ大将のような彼女の笑顔が脳裏に映し出される。その見た目通り、快活で負けん気と責任感が強く、常にリーダーとして皆を引っ張ってくれたクラスの中心的人物の一人だ。おそらく今回の同窓会についても、彼女が発案者なのだろう。
彼女の当時の姿と共に、あの頃のクラスの空気がぶわっと脳内に広がっていく。
あの頃はまだ、こんなに擦れてなかったのにな。
そんな事を思いながら、私は参加の返信をした。
懐かしい面々。たまに顔を合わせる友達もいたが、そのほとんどは仕事などで離ればなれになり、長らく会っていなかった。それでも、自分にとってかけがえのない仲間達だと思っている。
――それに……。
私の心が浮足立ったのには、それとは別の理由がある。
「あ、やっば」
気づけばもう家を出ないといけない時間だった。急いで私は支度を終え、玄関に向かう。今日も憂鬱な仕事が私を待ち構えている。でも。扉を開ける私の気持ちは、いつもよりも軽やかなものだった。
仕事を終え、味気のないコンビニ弁当をもさもさと頬張っていると、携帯からピロピロと無機質な着信音が鳴り響いた。
誰かと思い画面に映る名前を見た私の顔が思わず綻んだ。
「久しぶりー」
耳に当てた携帯から、私を安心させる声が聞こえた。
「久しぶり、翠」
花山翠。
あなたにとって親友は誰かと聞かれたら、私は迷うことなく瞬時に彼女の名前を口に出すだろう。
人に対して基本感情の薄い私が、一番信頼を寄せている人物。それが翠だ。
翠とは今でも年に一度は必ず会うようにしている。会うのはたいてい年末で、一年の締めくくりは彼女と会うのがお決まりとなっている。
「同窓会、美咲も行くよね?」
「もちろんよ」
「あー楽しみだなー。正直美咲以外連絡ほとんど取ってなくて、全然会えてないんだよね」
「翠、忙しいもんね」
仕事に対して情熱も気概もまるでない私と違って翠の志は高く、尊敬してもし足りない程自分の仕事に打ち込んでいる。その為かなり労働環境は厳しいようだが、それは翠が望んでそうしている事らしい。話を聞くたびいつも忙しく、ちゃんと寝れているのかと心配になるが、「ほんと大変だし疲れるよ」という翠の顔は、とても充実しており満足そうだ。
「だから、ほんと楽しみ。皆と会うの」
「そうだね」
田舎の学校だったせいか、一クラス男女合わせて二十人程度の生徒数の少ない学校だった。それもあってか、当時から結束力は高かったように思う。個々の個性は強かったが、不思議と輪が乱れる事はなかった。
一度だけ過去に戻れるとしたら、私はこの時代に戻るだろう。私にとって一番純粋で楽しかった時期。
そして思い返せば、純粋に恋をしたのはこの時が最初で最後だった。