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幸福偏差値  作者: greed green/見鳥望
六章 幸福の棺
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Cage-Out 翠(1)

 翠は呆然と立ちすくみ、頭を押さえながらその場にへたり込んだ。視界の先には車が一台。雨の中、悲鳴と怒号が響き、その中心には私の死体があった。


「美咲―!」


 翠が何度も私の名を叫んだ。向こうで倒れている、私に向かって。


 ――違うよ。翠。


 間違っている。そしてその間違いこそが全ての原因なのだ。

 あなたが罪の意識で飛び降り自殺を図り、一命を取り留めたものの、目覚めなくなってしまった理由。

 

 翠をそうさせてしまった原因は私だった。

 だから私が改めて理由になる必要がある。彼女を壊してしまった理由ではなく、彼女を目覚めさせる理由として。


「翠」


 翠の悲鳴が止み、彼女の顔がこちらを向く。信じられないものを見るかのように、瞳が大きく見開かれる。

 あなたは信じられないだろう。でも違うんだ。正しいのは今見ている方の私なの。


「今度は私が、あなたを助けるから」

 

 親友である私が、必ず。





「柊美咲さん」


 仕事を終え、一人暮らしの部屋の前で鍵を開けようとした所に、ふいに声を掛けられた。声の方を向くと、白髪の混じった長髪を後ろに束ねた男が立っていた。私はその男を知っていた。


「冴木さん、でしたっけ?」


 冴木主任。翠の研究施設で、確かそんな名で呼ばれていた男だ。彼は無言で頷き、肯定を表した。

 

「あんたにしか出来ない事を頼みたい」


 彼が何を言おうとしているのか、私はすぐに察知した。


「……翠の事、ですか」


 再び彼は無言で頷いた。


「助けられるかもしれない」


 その言葉は私に大きな衝撃を与えた。

 私のせいで目を覚まさなくなった彼女を、救う事が出来る。


「本当ですか!?」


 しかし、その問いに彼は頷かなかった。


「かもだ。可能性の話だ。絶対じゃない」


 その表情はどこか悔し気にも見えた。


「だが、やる価値はあると思っている」


 無骨な表情は威圧的で、相手に恐怖を与えるほど鋭い視線だった。だがそこには強い信念が見えた。翠を想う、強く深い優しさが見えた。


「力を貸してくれ」


 断る理由などない。そもそもは私のせいなのだから。


「はい」


 私に出来る事なら、なんだってする。それぐらいはしなければならない。

 彼女の為に。


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