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幸福偏差値  作者: greed green/見鳥望
六章 幸福の棺
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Cage-Out 美咲(1)

 カプセルの扉がすうっと開き、私は装置から身体を起こす。


「よくやった翠。バイタルも安定してる。問題はなさそうだ」


 冴木主任の声を聞き、私は再び安堵のため息をついた。


「よかった……」


 何とか成功した。

 私は、私が寝ていた装置の隣にある、全く同じ装置の方を見つめる。

 カプセルの扉は閉じている。その装置の中に眠っているのは美咲だ。

 私の親友。不器用で、臆病だけど、優しい女の子。

 不器用なあなたの真っ直ぐさは、気付いた時には恐ろしいほどねじ曲がったものへと変わってしまった。


『私、九条君の事ばっかり考えちゃうの』


 初めは可愛らしい恋だと思った。美咲がそれを打ち明けてくれた時、私はとても嬉しかった。本当に親友なんだと思えた。当時、女の子が普通に好きな可愛らしいものに一切の興味を持てず、科学という世界に魅せられていた私は周りと話題も合わず、少し浮いた存在だった。


『すごいね、翠』


 私の話を難しい面白くないと一蹴した皆と違い、美咲だけは興味を持ち私の話に耳を傾けてくれた。

 自然と美咲といる時間が多くなった。私はそのまま科学への興味を失うことなく、その道へと進んだ。

 大人になってからも、美咲とは度々会った。大人になっても美咲は相変わらずだった。でもその変わらなさが私を安心させてくれた。


『九条君、やっぱりカッコイイね』


 同窓会で会った時、美咲はぼーっと彼を見ながらそう呟いた。

 美咲から彼氏が出来たという話は聞かなかった。もし出来たのなら、親友である私にそれを隠すとは思えない。 

美咲の熱い視線を見て、私は思った。


 ――ああ、変わってないんだ。


 美咲が今日ここに来たのは、彼への恋が終わっていないからだ。

 私は少しそれを怖く感じた。

 純粋、一途。綺麗に表現すればそう言える。でもこれは。

 執着。固執。

 この時に感じた微かな危険。でも、止めるなんて事は出来なかったし、そんな権利は私にはない。

 それでも、止めるべきだったのだ。


 美咲はその後、彼を執拗に追いかけた。

 そして最終的に、追いつめられた彼は美咲から逃げようとした最中、走ってきた車に撥ねられ、命を落としたのだ。


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