(3)
「美咲」
暗がりの中で声がした。上から降ってきたその声に反応し、瞼が自然と開いていく。
まばゆい光が全てを包み込み、そのまばゆさに思わず開きかかけた瞼を閉じそうになりながら、ゆっくりとまた瞼を開いていく。
「美咲」
翠だ。翠の声が聞こえる。
「翠」
私の口から、親友の名前が零れた。
そうだ。翠。
でも、どうして翠の声が聞こえるのか。
開ききった視界。私を覗き込むように、人の顔がそこにあった。
男性が二人と、女性が一人。男性は丸い眼鏡をかけた若い男と、もう一人は黒い長髪を後ろで束ねた中年の男性。
そしてもう一人。
「美咲、もう大丈夫だよ」
泣きそうな笑顔で私を見ている、花山翠の顔がそこにあった。
――ああ、そうだったね。
「……帰ってきたんだね。私」
「うん」
翠はぼろぼろと涙を零しながら私にぎゅっと抱きついた。
感覚が戻っていく。夢から覚めたような、虚無と空虚と脱力感に見舞われていた。
『私は今、あなたを助ける為にここにいるの』
――だから、来てくれたんだね。
「助けにきてくれたんだね、翠」
親友がこくこくと頷く。
私は、本当に彼女に迷惑をかけてばかりだ。それなのに、翠は何度も何度も私に謝った。
『全部私のせい。あなたを助けたいと思った、私の浅はかな考えのせい。あなたの為だと思った。でも、やっぱり断るべきだった。あなたの頼みを』
違う。翠は何も悪くない。
私のせい。全部私のわがままのせいなのに。
「ごめんね、翠」
謝らないといけないのは、私の方だ。
全ては、死んでしまった九条君に会いたいなんてわがままを言った、私のせいなのだ。