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幸福偏差値  作者: greed green/見鳥望
六章 幸福の棺
38/47

(3)

「美咲」


 暗がりの中で声がした。上から降ってきたその声に反応し、瞼が自然と開いていく。

 まばゆい光が全てを包み込み、そのまばゆさに思わず開きかかけた瞼を閉じそうになりながら、ゆっくりとまた瞼を開いていく。


「美咲」


 翠だ。翠の声が聞こえる。


「翠」


 私の口から、親友の名前が零れた。

 そうだ。翠。

 でも、どうして翠の声が聞こえるのか。

 開ききった視界。私を覗き込むように、人の顔がそこにあった。

 男性が二人と、女性が一人。男性は丸い眼鏡をかけた若い男と、もう一人は黒い長髪を後ろで束ねた中年の男性。

 そしてもう一人。


「美咲、もう大丈夫だよ」


 泣きそうな笑顔で私を見ている、花山翠の顔がそこにあった。


 ――ああ、そうだったね。


「……帰ってきたんだね。私」

「うん」


 翠はぼろぼろと涙を零しながら私にぎゅっと抱きついた。

 感覚が戻っていく。夢から覚めたような、虚無と空虚と脱力感に見舞われていた。

 

『私は今、あなたを助ける為にここにいるの』


 ――だから、来てくれたんだね。


「助けにきてくれたんだね、翠」


 親友がこくこくと頷く。

 私は、本当に彼女に迷惑をかけてばかりだ。それなのに、翠は何度も何度も私に謝った。


『全部私のせい。あなたを助けたいと思った、私の浅はかな考えのせい。あなたの為だと思った。でも、やっぱり断るべきだった。あなたの頼みを』


 違う。翠は何も悪くない。

 私のせい。全部私のわがままのせいなのに。


「ごめんね、翠」


 謝らないといけないのは、私の方だ。

 

 全ては、死んでしまった九条君に会いたいなんてわがままを言った、私のせいなのだ。


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