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幸福偏差値  作者: greed green/見鳥望
一章 幸福の量り
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(2)

 幸福偏差値制度。


 国民の誰もが始め、エイプリルフールネタか何かの冗談だと思ったその制度が現実のものとして施行されたのは、ちょうど私がこの会社に入社したての頃の事だった。


 幸福という漠然とした感覚を、正確な数値として算出する。

 その意図は、国民が自分自身の幸福を明確に認識する事で、各々が幸福を追求し、よりよい人生を歩む事を目的としている。

 というのが主たる目的として掲げられた内容だが、要は学校のテストと同じだ。

 同じ人生というテスト用紙を配られ、解答を埋めていく。そして点数の高い者は褒められ次も褒められるように頑張り、低い者はもっと頑張れと尻を叩かれ褒められるように次に挑む。平均点を上げる事でより国が高みへと向かっていく。

 幸福を点数化する事によって、国としての生産性をあげる。幸福に向かって国民が励む事で、最終的に国が潤う事を狙っているのだ。


 そんなくだらない制度、成功するものか。そう思ったのは私だけではなかったはずだ。しかし、いざ蓋を開けば、国民は国の思う通りに転がった。


『コンゲツノ、アナタノコウフクドハ、80点、デス』


 毎月脳内に告げられる幸福の点数。

 日々文明は進歩しているが、実際どういった技術でそれを可能にしているのか、詳しくは私も知らない。だが国民は見事に、幸福偏差値に左右されながら人生を送り始めた。


“最近彼氏が出来たんだ。先月まで40点だったけど、今月で一気に60点よ!”

“先月課長に昇進した事もあって、”70点の大台に乗ったぞ”

“来月子供が生まれるのよ。これはもう80点は間違いなしね”


 幸福がどういった基準で測られているのか。明確な基準も分からない。だが、幸福に感じる出来事を体験する度に、その点数は評価されていくようだった。

 幸福であるという事は、人間として満たされている。

 幸福な人間は、そうでない人間から羨望の眼差しを浴びる。

 高い点数をとった者達を、そうでない者達が羨み、いずれ自分もと幸福の頂きに向かって登っていく。

 大きく見れば、制度は大成功だった。世の中は活気づき、経済的に著しい成長を見せ始めた。


 だが、どんな所にもマイノリティは存在する。

 世界が幸福を競い始める中、そんな制度に興味を示さず、高くとも低くともどうでもいいと白けた人間達ももちろんいる。

 私もその内の一人だった。


 何が幸福だ。

 みんな結婚して幸せそうだから、私も結婚しなきゃ。

 みんな子供を産んで幸せそうだから、私も産まなきゃ。

 幸福に群がる人間の姿が、私には醜く見えて仕方がなかった。その幸せは、本当に己自身が望んだものなのか。幸せとはそういうものなのか。

 

 くだらない。本当に、くだらない。


 恋愛もそうだ。

 性格は自分でも少し癖があるとは思っているが、それでも好意を持って接してくれた異性もいた。実際に男女の関係になった事もある。でも、いつもどこか冷めている自分がいた。


 好きだよと言われたから、好きだと言い返す。

 ずっと一緒にいたいと言われたから、そうだよねと言い返す。


 でも、どれも本心ではなかった。

 付き合いの中で、そういった言葉を自分も相手に向けなければならないからそうしてるだけだった。そんなはりぼてみたいな私の上っ面の言葉達は、もちろん長続きしない。


「なんで、俺と付き合ってるの?」


 いつもそんな、疑念と呆れに満ちた言葉で最後を迎えた。恋愛というものが上手くいった試しがなかった。好きだという言葉を、ちゃんと本心から言えた事など一度もなかった。そんな事が続いた事もあって、今はもはや擦れきってしまい、どうでもよくなっていた。


 幸せなんてどうでもいい。

 周りの同性は続々と結婚し始めているが、私からすれば人生の墓場に落ちたとしか思えなかった。

 自分の今の生活を脅かしてまで、誰かと生涯を共にするだなんて、考えただけで寒気がする。

 

 こんな制度、私には何の関係もない。


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