第08話 マサシ 尻を叩く
「斎藤、ゲーセン寄っていかないか?」
反省文を書き終えた斎藤とゲームセンターに寄ることにした。
メッシュの制服にも慣れたものだ。
斎藤とメッシュ姿で2人で歩いていても恥じ入ることもなくなった。
道行く人の服装は様々だ。普通の服に、メッシュ、更にたまに競泳水着も見かける。
異世界も悪くない。
道行く競泳水着の女性のケツを凝視しながら、俺はそう思った。
* * *
ゲームセンターの自動ドアをくぐると、店内は音楽と雑踏で賑わっていた。
ホームの空気に思わずにっこり笑ってしまう。
ここは変わらないな。
入り口側にはUFOキャッチャー。
伊勢海老が取られてたまるかとウネウネ動いている。
次いで、音ゲーコーナー
太鼓の音が小気味よく響いている。
その奥には格闘ゲームコーナー。
ボタンを押した強弱で攻撃が変わるためか、派手な打撃音。
その奥には『Free Spanking』と書かれた看板を持つ女の子。
そして一番奥は脱衣麻雀コーナーだ。
ホログラム映像の美女が負けるたびに一枚一枚脱いでいる。
「フリー スパンキング!」
思わず叫んでしまった俺に、視線が集中する。
あれか?
フリーハグとかの親戚か?
叩いて良いのか、あの尻は?
俺は斎藤に目で合図を送る。
た・た・い・て・い・い・の・か・あ・の・し・り・は?
斎藤は俺の意を汲み、応えてくれた。
「トイレなら店の奥だぞ」
「ちっっがーう!」
俺の鉄山靠が斎藤の鳩尾に突き刺さる。
斎藤はよろよろと生まれたての子鹿のようにもたつきながら、やがて地に這いつくばった。
* * *
俺は太鼓を叩く。
斎藤が眠ってしまったため、起きるのを待っているのだ。
ちらちらをフリースパンキングの少女を横目に見ている。
しかし、誰も叩こうとしない。
それどころか、見向きもしない。
可哀想に。
俺が優しく叩いてやろうかと何度思ったことか。
しかし、一つ間違えれば事案である。
以上から、『太古の超人』をプレイしながら、斎藤が起きるのを待っているのだ。
タタタンタタタン! タ! タタタタタン!
異世界でも曲は変わってないようだ。
コンボを繋ぎ、高得点を叩き出す。
Fiver!
オールコンボ。またランキングを更新してしまったな。
俺は自分の罪深さを鑑みていると、ようやく斎藤が起きた。
「ん……」
「お前こんなところで寝るなよな」
俺の優しい言葉に応えるように斎藤はフラフラと立ち上がる。
「叩いて良いのか?」
「何のこと!?」
こいつ、とことん理解力がないな。
仕方なく俺は詳細を説明することにした。
「フリースパンキングの看板持ってる女の子だ。叩いて良いのか?」
「ああ……混合系適正5以上の人だけな」
混合系?
斎藤の口から聞いたことがない言葉が出た。
「なんだそれ?」
「いや、何だって言われても」
「お前はそうなの?」
「いや。俺は混合系は適正1しかないよ。マサシは混合系適正10だろ」
10は5以上……
斎藤の肩を抱き寄せる。
「お前の生まれてきた意味があった……」
「何のこと!?」
斎藤は俺からの賞賛に照れているようだ。
* * *
すーはーすーはー
俺は呼吸を整えたあと、意を決し、少女の前に歩を進めた。
「え……と」
まるで怯えるようなつぶらな瞳の少女に俺は言葉を告げる。
「オレ、コンゴウケイ10。オマエタタク」
「え……え? 10? は、はい。ありがとうございます」
ありがとうございます……
少女の感謝の言葉を脳内で反芻する。
異世界バンザイ。
混合系バンザイ。
俺の脳内ではパレードが開かれていた。
ネズミのきぐるみを着たおっさんがラッパを吹き鳴らす。
アヒルのきぐるみを着たおばさんがケツを振る。
プードルのきぐるみを着た浪人生が紙吹雪を舞い散らせ、
それら3人が奴隷の背負った神輿の上で暴れている。
「ビューティフォー。ビューティフォーサンデー」
「今日は火曜日だぞ」
斎藤の無礼な物言いにも気にならないぐらい俺はハッピーだ。
だから、軽く三日月蹴りで済ませてやった。
「おぐ……」
斎藤は腹を抑えて、地面をコロコロ転がっていった。
* * *
突き出された尻を俺は叩く!
パン!
「んきゃ」
いい音がなった。
パンパンパンパン!
「うきゃ……え?……え?」
パパパンパパパン! パ パパパパパン!
俺は先程『太古の超人』でオールコンボを叩き出した曲を演奏しだした。
パパパンパパパン! パ パパパパパン!
俺はビートを刻む。
――熱く!そして激しく!
燃え盛る業火の如く。
ダブルストローク!
全ての俺のテクニックを注ぎ込む。
俺はビートを刻む。
――ときに優しく。母の手の中のように。
バズロール!
全ての俺のパッションを注ぎ込む。
「まんまみーや」
気づくと、周りをギャラリーが取り囲んでいた。
皆が俺の演奏に聞き入っているのだろう。
パパパンパパパン! パ パパパパパン!
俺はそれに応えるように、激しく叩く。
――汗が飛び散る。
――尻は震える。
パパパンパンパンパン パンパパパーン!
……
曲は終わりを迎えた。
全ての生きとし生けるものには終わりがある。悲しきことだ。
目の前の尻は真っ赤に腫れ上がっている。
俺の手も赤くなっていた。
紺色のおそろいの服を着たギャラリーは祝福するかのように俺を取り囲む。
車のライトに照らされ、ここが舞台でライトアップされているかのようだ。
最後に俺は叫ぶ。
「アモーレ」
――警察に捕まりました。