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第04話 マサシ正座する

 今、俺は玄関で正座をしている。

 背中がズキズキ痛む。青くなっているかも知れない。


 目の前には軍服を着て仁王立ちする母親……

 玄関の隅にはセーラー服を着て体育座りしている父親……

 俺は今、セクスィの授業よりも混乱をしている。



 「マサシ! 貴様、父親をいきなり殴るとは、どういうことだ!」


 昨日までの俺の家族は普通だった。厳格な父と、優しい母。いつも朝晩は家族3人で食卓を囲んで他愛のない会話をしていた。昨日(あのとき)が無性に遠く懐かしく感じる。


 「貴様、聞いているのか!」


 『まーくん、テストどうだった?』やや不安そうに覗き込む母。

 『マサシ、テストの回答用紙が戻ってきているなら持ってきなさい』新聞に目を向けたまま、さも気にしていないかのように装う父。ごくごく一般的な家庭だったと思う。


 「貴様、これ以上呆けるなら、獄門磔(ごくもんはりつけ)の刑に処すぞ」

 「獄門ってどこだよ! 玄関かよ! あの玄関、胸の高さまでしかねえよ! 磔られても足が地面に着いちまうよ!」


 このまま逃避して思い出に浸っているつもりが、思わず突っ込んでしまった。



 簡単に経緯を説明すると、親が帰ってきたので玄関に向かった。ブーツを脱ぐ後ろ姿からセーラー服を着ているのがわかったので母親かと思った。ちなみに元の世界(仮)での俺の母親はセーラー服を着る趣味はない。

 セーラー服の人物が振り返る。父親だった。思わず手が出る。ここ1日ほど斎藤(しんゆう)に物理的突っ込みを加えていたのがまずかった。俺は父親にモンゴリアンチョップを食らわせてしまう。

 父親が信じられないという顔をしながら一言「親父(おやじ)にだってブタれたことないのに!」と(のたま)った。再び突っ込みを入れる俺。今度は真空飛び膝蹴りだ。

 その直後、いつの間にか俺の背後に佇んでいた母親に警棒で殴られる。その後、冒頭に至る。


 ……実の息子に警棒はないだろ……



 「なぜ父親を殴った?」


 さて、この問いにどう答えようか……

 『セーラー服を着ていたから』とバカ正直に答えると、成人男性がセーラー服を着るのがこの世界で一般的な事象である場合、その説明を求められる。

 『セクスィでなかったから』……この答えは正解に近い気がする。ただし、どうセクスィでなかったかを問われると困る。細微を語れるほど俺はセクスィに通じてはいないからだ。

 『俺は並行世界のマサシで、セクスィの無い世界からやってきた』この回答はそもそも俺の疑問をぶちまけているだけだ。しかも真実かはわからない。だが、どのみちこの相談を誰かに持ちかけなければいけない。この世界についてわからないことがあまりに多いからだ。相談相手に両親を選んだから、斎藤(しんゆう)にも話していない。両親が帰ってきたのをわざわざ土間まで迎えに来たのもそのためだ。


 俺は意を決する。


 「俺は並行世界のマサシで、セクスィの無い世界からやってきた」


 少しの間の沈黙。そして母親の表情は変化する。

 驚愕、呆然、そして失望へと。


 「……またか……」


 地の底から出したような低い声が返ってきた。


 「貴様の右腕に黒竜は封印されていないし、勇者の血も引いておらん! スキルも存在しないし、時間も遡れないし、異世界なんかない! あるのは……セクスィだけだ」


 捲し立てられた回答を俺はゆっくりと理解しようとする。


 「み、右腕にこ、黒竜?」

 「おらん!」


 「ゆ、勇者?」

 「正真正銘、私とそこの旦那との子だ。どちらも百姓の出だ。勇者どころか武家ですらない」


 俺はゆっくりと自分を指差す。


 「俺が言ったの?」

 「言った。いつものことだ」


 …………混沌のマサシィィィィ!!!!!!!

 混沌のマサシが一事が万事、この調子で厨二発言を両親に繰り返していたのだろう。両親に俺の突拍子のない発言に対しての免疫が出来ている。まずい、これでは何を説明しても『マサシの言うことだ』で流されてしまう。



 俺は両親の説得を試みたが、結局、言葉がその意を伝えることはなかった。


 「軟弱すぎる……セクスィに頼りすぎている……」

 「親父にも殴られたことないのに……」


 軍服を着た母親が苛立たしげに、セーラー服を着た父親が悲しそうに去っていった。


 俺は朝まで正座することになった。


 虫の音だけが聞こえる玄関で1人、今日の出来事を振り返る。


 変態どもの激闘の夢に始まり、メッシュな斎藤(しんゆう)、女子の下着が見放題、セクスィの授業、マスゾエの更迭、大量のワカメ、セクシーな尻の授業、混沌のマサシ、軍服な母親とセーラー服の父親……謎は深まるばかりだ。というか、謎しかねえ。


 俺は気持ちを切り替えて寝ることにした。


 明日になれば元に戻っているかも知れない。


 何度目になるかわからない淡い期待を込めて。



◆ ◆ ◆


 翌朝、俺は通学用のカバンを肩にかけ、斎藤(しんゆう)に話しかける。


 「俺さー。セクスィの無い世界から来たマサシなんだー」

 「あー。今度はそういう設定?」

 「おう。で、お前はセクスィのある世界の人間で、説明役な」

 「わかった」

 「斎藤、お前がこの世界でも俺の親友で助かったよ。で、セクスィって何だよ? なんで親父はセーラー服着ているんだよ。いつの間に母さんは軍人になったんだよ。セクスィ(実技)って……」

 「うおっ! 質問が多すぎる。1つずつ答えるよ。セクスィとは……」


 斎藤(しんゆう)と2人で足を進めながら会話する。


 痺れた足は開放されれから2時間経った今も完全には戻っていない。

 俺は初めからこうすれば良かったと少し後悔していた。



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