表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

第03話 マサシ、混沌する

 「セクスィな尻とは何か? お前らはそれを考えないといけない」


 白いガーターベルトを身に着けた木下(男・教師)が訳のわからないことを熱弁しだした。


 「大きい尻も小さい尻も等しくセクスィだ。そこに好みは存在しても、優劣は存在しない。

  では、尻の何が優劣を分けるのか? それは……斎藤、答えてみろ」

 「ひゃい!」


 左顎が腫れている斎藤(しんゆう)が変な声を出した。顎が腫れているからうまく喋れないのだろう。それにしても、あの顎は一体、どうしたのだろうか。まるで誰かに殴られたように伺える。


 「においです!」

 「なわけないだろ!」


 斎藤(しんゆう)が迷走しだしたので、俺は助け舟という名の右フックを繰り出した。俺のフックは綺麗な曲線を描き、斎藤(しんゆう)の左顎に牙を剥く。意識を刈り取られた斎藤(しんゆう)は膝から崩れ落ちた。


 「おぅ……そうだな尻に臭いはほとんどない。これまでの授業で説明をしたように、臭いの元であるアポクリン汗腺は尻には多くないからだ。臭いにセクスィがあるとしたらフェロモンを思い浮かべるだろう。しかし、フェロモンは、鼻の中の鋤鼻器(じょびき)という器官に訴えかけ、副嗅球、扁桃体、視床下部へと信号を伝える。一方、臭いは嗅覚器、主嗅球(しゅきゅうきゅう)、大脳辺縁系、嗅皮質、大脳皮質と別経路を辿る。……つまり、臭いとフェロモンは関連性はない。(くさ)(にお)いが好きな奴は、単に性癖が特殊なだけと言える」


 皆が斎藤(しんゆう)の方を見てクスクス笑っている。斎藤(しんゆう)は無反応だ。周りを気にせず白い目で空を見上げている。


 「話が逸れたな。セクスィな尻とは、おおよそ形と明澄度(めいちょうど)で決まる。形の理想は後ろから見た時に円に見えること。明澄度とは混じりっけのない単色であることを示す指標だ。小麦色でも美白でも単色であればセクスィ、シミや色のグラデーションがついている場合はマイナスになる。水着の日焼け痕に興奮するのは単なる性癖だ」

 「「「グハァ!」」」


 何人かの男子の悲しき叫びが聞こえた。


 「尻の形は大きく、円、四角、洋なし、逆三角で大別されることが多い。胸と違い、筋肉と姿勢で理想の形にすることができる。そして、1番大切なのは実は姿勢だ。猫背、S字脊柱を直せば尻は7割セクスィになる。残りの3割が筋肉だ」


 白いガーターベルトを身に着けた木下(男・教師)が自らの尻をパァアンと叩いた。


 「よし。浜松。前に出ろ」

 「はい」


 知的美人の浜松さんが呼ばれて皆の前に出る。大量のワカメを纏い、その下は下着だ。……ワカメどけてくれないかな。


 「この尻は逆三角と呼ばれる。尻に肉がついてないとこの形になる。ダイエットを履き違えた若いジャパァァアン人女性に多い。スクワットをすれば綺麗な円形になることが多い。しかしスクワットは太腿を太くするので注意が必要だ。俺のお薦めは前蹴り。腿を90度の高さにゆっくり上げて、膝から下をゆっくり伸ばす。それを片足ずつ繰り返す……」


 気づくと女子は前のめりになり、木下の説明を聞き入っていた。俺は浜松さんの尻を凝視していた。


 その後も、『猫背は背筋を伸ばすのでなく、肩を広げる』『S字脊柱は整体に行く』『毛抜きは毛穴に色が沈着しやすいので、脱毛クリームにする』『毛を剃るときは逆剃りしない』『カサブタは剥がしてモイスト型の絆創膏を貼る』と言ったセクスィな尻についての説明が行われた。

 実技は正しい前蹴り、正しいスクワットなどを習った。ブルガリアンスクワットは尻への負担が大きく、俺には5回が限界だった。近藤が12回という記録を打ち立て、木下に「流石、結合系だ」と褒められていた。そんなこんなで無事、初めてのセクスィ(実技)は幕をおろした。


 ……そういえば、結合系?というのは何だったのだろう。

 習ったのは間違えなくセクシーな尻についてだ。


 セクスィとは何だろう……謎が謎を呼ぶ。俺は未だ気絶している斎藤(しんゆう)の足を掴み、その身を引きずりながら真理について考えを巡らせていた。



 * * *


 家に帰った俺は、過去のセクスィの教科書を漁ることにした。そして、そこで驚愕の事実に辿り着く。


 目に入ったのは、中学校のセクスィのテストの回答用紙だ。点数は100点。点数が良いことはまあ問題ない。というか好ましい。問題は、氏名欄に『混沌のマサシ』と書いてあることだ。


 「どこの厨二だぁぁぁ!!!」


 まさか……俺は他にもテストを探す。


 小学校5年生。それ以降、高校3年の一学期の中間テストまで全ての氏名欄に『混沌のマサシ』と書いてあった。


 「恥ずかしすぎるぅぅぅぅぅ! 何故に混沌! 混沌! ……くぅぅぅ! 恥ずかしすぎるわ! 混沌って何だよ! えっ。何。俺、次のテストに氏名:混沌のマサシって書くの? 仮に学年1位取ったら、順位表に混沌のマサシって張り出されるの? 表彰されるときには混沌のマサシ君って呼ばれるの? おうふ……ありえねぇ……」


 俺はベッドの上で悶え苦しんでいた。


 そして、興奮から冷めて、誰にでもなく(つぶや)く。


 「そもそも何でこんなことになっているんだ?」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ