第02話 マサシ再び寝る
目の下のクマが取れない。
第3章.(2) セクスィ波動方程式
例題1.水中および空気中を進行する音波の強さが等しい場合、水中の音圧は空気中の音圧の約60倍であることを示せ。水の体積弾性率は約2.0E+4気圧であるとする。『セクスィ』を用いての回答でも良い。
……どうしよう……想定外に、『セクスィ』の授業が難しい。
俺は頭を抱えて唸っていた。
何度、例題を見ても解けそうもない。レベルが高すぎるだろ。そもそも、『セクスィ』を用いての回答って何だ? 『セクスィ』とは関数電卓のようなものなのか?
俺が降りかかる不幸を嘆いていると、競泳水着を身に着けた滝川が答えを黒板に書きだした。しかし、競泳水着って何であんなにエロいんだろうな……
「エネルギーの流れはーT(∂u/∂x)(∂u/∂t)で与えられるから、進行波I=νεは今の場合、I=Kν(∂u/∂x)^2=K^2(∂u/∂x)^2 /√(Kρ)になります。一方、音波はp0-p=K(∂u/∂x)ですから、音波の強さが同じであれば音波の比はKρの1/4乗に等しくなります。水と空気の体積弾性率と密度を用いると、計算結果は58になります。どう? 簡単でしょ?」
いえ、全然簡単じゃありません。欠片も理解できません。
斎藤に目を向けると、俺と同じように頭を抱えていた。良かった。俺だけじゃない。親友がいることはとても心強い。
俺達が今学んでいるのは『セクスィ波動方程式』らしい。はたして、『セクスィ』の波動方程式なのだろうか。それとも『セクスィ波動』の方程式なのか。
……ふぅ。
俺は放棄することにした。今日はこのまま授業を受けても何も理解できないだろう。現実から逃避し寝ることにした。起きたら元に戻っているかも知れない。そんな淡い期待を胸に抱いて船を漕ぎ出す。
* * *
逃避先は、また明晰夢だった。場所は神殿だろうか。金ピカに輝いている。建てた人間の品性を疑わざるを得ない。
部屋の中央にある祭壇には女性が目を閉じ正座していた。3枚のホタテ貝が女性の大切な場所だけを隠している。おいおい、そんな装備で大丈夫か……俺は女性の装備の安全性を確認するために、しっかりと観察することにした。
ブーメランパンツの若い男が部屋に入ってきた。ここからだと、部屋の外の様子はわからない。男と女性は何やら話をしていた。そして、男は一礼すると、女性から距離を取る。
「星の記憶を喰いし闇、衣を剥ぎ取りその身を現せ……んんっ……セクスィ!」
女性はそう叫ぶと、おもむろにM字開脚をした。少し声がセクシーだった。見た目は言うまでもなくセクシーだ。
1番大切なところを隠したホタテ貝が光を放つ。
―――光が収まると床に文字が書かれていた。
『マスゾエは更迭すべし』
「何故に、ますぞえぇぇ! しかも、もう更迭されとるわ!」
思わず叫んでいた。まさか、自分の夢に突っ込みを入れる日が来るとは……
俺の突っ込みは聞こえなかったのか、女性と男は文字を指差し、何やら二言三言交わした後、2人揃って部屋を去っていった。
誰もいなくなった落ち着かない金ピカの部屋で、俺は思考を巡らせる。
厨二病っぽい詠唱の後、『セクスィ』って叫ばなかったか? ……午前中の変態2人の魔法バトルも『セクスィ』と言っていた気がする。
まさか、学校がおかしくなったのは、この明晰夢と関係があるのか?
謎が謎を呼ぶ。
……いや、この場合は、『セクスィ』が『セクスィ』を呼ぶ……か……
「……さ……し……ま……さし」
世界に声がくぐもった声が響いた。
む。どうやら、斎藤が俺を呼んでいるらしい。
目を覚ますように意識を集中させる。
* * *
「まさし! 次は実技の時間だぞ。ジャージに着替えようぜ」
「ああ……」
俺ははっきりしない頭で、斎藤に応える。
……そうか、ジャージか。良かった。パンツ1枚とかだと邪推していた。
俺はもやもやとした気持ちを切り替え、ジャージの入った袋に手を突っ込む。
ぬるり……
「ひゃっ!」
何か、袋の中にぬるりとしたものが入っていた。
俺は恐る恐る袋の中を覗き込む。
―――袋の中にはワカメが大量に入っていた。
「わかめぇぇぇ!」
俺は驚き飛び跳ねる。袋を指差し、斎藤に驚愕の事実を伝えようとする。
「斎藤! わかめ! わかめぇぇ………」
俺は固まった。何故なら、斎藤がワカメを全身に纏っていたからだ。
「……わかめぇぇ!」
俺はワカメと叫びながら、右ストレートを斎藤に放った。
「あぶりゃ……」
俺の右拳は正確に斎藤の左顎をとらえた。斎藤は言葉にならない言葉を発しながら、倒れ込む。そこそこダメージが高かったらしい。既にその目に光は灯っていない。
倒れている斎藤をよく見ると、犬の首輪のようなものをしていた。その首輪から大量のワカメが垂れ下がっている。まさか……これが『セクスィ(実技)』の『ジャージ』なのか?
斎藤のお陰で少し冷静になれたので、袋の中のワカメを観察してみると、やはり首輪のようなものに繋がっていた。
* * *
俺は校庭にワカメが大量に吊り下げられた首輪を身に着け、仁王立ちしている。
俺は根っからの日本人らしい。普段なら絶対にこんな格好をしないのだが、周りに流され同じ格好をしていた。ちなみに『セクスィ(実技)』は男女混合で行うらしい。ワカメを身に着けた女子を見ていると、斎藤に借りた特殊系アダルトDVDを思い出してしまう。あれはAdultDVDではなく、AnomalusDVDだろう。
「今日は、『結合系セクスィ』の練習を行う」
不意に、白いガーターベルトを身に着けた木下(男・教師)が、今日の授業の概要を説明した。
ん? 結合系!? まじか……まじですか
俺はある種の期待をいだき、手汗をびっしりかいていた。