転生させる力がある神様の苦悩な日々
俺は神だ。
いや、マジで神。お年頃の男子が言う痛い奴とかじゃくて、本当に神だから。うん、神様だから。
まあ神にも色々あってさ、その中で俺は転生神というのをやらせて貰ってる。ていうかやらされてる。
転生神というのは名前の通り、死んだ人間をどこかへ転生させる力を持つ神様のことだ。
どこかと言うと、それは本人に決めて貰う。
死んだ本人がどんな世界で、どんな姿で転生したいかの希望を述べて、その世界に転生させる。
実際、世界なんてものは無限とある。人がいない世界や、人しかいない世界。本人が希望した世界は大体存在していて、神様になりたいなんて俺に対して喧嘩売る発言をしない限りほとんどの希望は通る。
だが、唯一転生する場所の希望を取らない時がある。
それは死因が自殺の時だ。
理由は複雑なのだが、自分の意思で命を落とした者に与えられるのは「無」だと決められているのだ。
それは道徳的な理由でもあり、論理的な理由でもある。
いじめや家族からの虐待を受けて現実に絶望し、自ら命を絶った者でも希望は取れない。残念ながらそういった場合でも与えられるのは「無」だけだ。
だから自殺は駄目なんだぜ? 異世界転生してチーレム生活したいだろ? だったら今ある人生を精一杯生きろということだ。
だが最近はその「無」の対象になる人が増えている気がする。悲しい現実だが、これも時代というものだ。
とは言っても神様がいるところに時間なんて存在しないんだけどね。
さてさて、今日も死んだ人間を転生させますかな。
ーーー
「あの、ここは何処ですか?」
まずはこの男か。見た目は中年で太ってるな。眼鏡を掛けてて髪はボサボサ。いわゆるオタクというやつのようだ。
自分が何処にいるか分かってないようだから説明してやるか。まあ、ここに来た奴の殆どは居場所を聞いてくるんだけど。
「あなたはつい先程命を落としました。ここは世界と世界を繋ぐ線路です。そして私は転生神。あなたの次に生きる世界を決めましょう」
このセリフもう何千回言っただろうか。台本無くてもスラスラ言えるようになっちゃったよ。
「え、僕死んだんですか!? 確かにトラックに轢かれた覚えはあるけど……」
なら言わんでも自分が死んだ事ぐらい分かれよ。無駄なセリフは吐きたくない主義なんだ。
「さあ、あなたの次に生きたい世界を言いなさい。人ですか? それとも動物か虫ですか?」
「え!! 選べるんですか!? どんな世界とか希望してもいいんですか!?」
そうだよ、今言ったじゃん。
「はい、あなたの希望する世界に転生してあげましょう」
大体の想像はつくがな。
「じゃ、じゃあ、い、異世界がいいです!!」
うん、自分が生きてた世界以外は全部異世界だからね。
「どんな異世界がよいのですか?」
「えーと、剣と魔法があって、可愛い女の子がいっぱいいて!! それで俺はその世界の勇者で!! 顔はイケメンで、剣の腕もピカイチで、それでいて剣士なのに魔法が使えて!! そうだな、魔法は闇属性が良いです!! あと出会った女の子は全員俺の事を好きになる方向でお願いします!!」
そんなことだろうと思った。
ちなみにこいつと全く同じ事を言う奴をあと5000人は知っている。顔は忘れたけど。
「分かりました。あなたの望む世界に転生させましょう」
俺は手を前にかざして彼を光に包んだ。
「や、やった!! これでクソみたいな生活とおさらばだ!! ああ、女の子て触ったらどんな感じなのかな…….うへへ」
こんな奴の大半は下心でチートを望む。
こうして、男は異世界へ転生された。
こんな感じだ。大体理解してくれたかな?
ちなみに転生した時は生前の記憶は消去される。これも決まりというやつだ。
今みたいのを俺はずっと繰り返している。今の男が何人目かなど覚えていない。
毎日毎日転生させ、死ぬ者が尽きる事は絶対にない。
退屈で、つまらない役目だ。
ーーー
「……あれ、ここはどこ?」
次は女性のようだ。年齢は17歳の女子高生か。死因はストーカー男による殺害。若かったのに少し哀れに思う。
……ごめん、正直見慣れてるから殺されてる人間を見てもなんとも思わない。
「あなたはつい先程命を落としました。ここは世界と世界を繋ぐ線路です。そして私は転生神。あなたの次に生きる世界を決めましょう」
あ、ちなみに慣れないころは噛んだ事あります。その時は笑われました。すげえ恥ずかしかった。
「私死んだんだ……まだキスもしたことないのに……ねえ神様、今私の遺体はどうなってるの?」
……言えない。殺された後、男に犯されてるなんて言えない。こんなこと言ったらショックで落ち込んで話が進まなくなる。次の客がいるんですよ、お客さん。
「生前の事は忘れなさい。あなたはこれから新しい未来を生きるのです。あなたの望む次の世界はどのような世界ですか?」
大体これを言えば納得して次の事を考える。死んだ事を考えても仕方ないと思うのは当然だ。
「わ、分かりました。そうだな、何がいいんだろ」
彼女は考えているが、これが至って普通の反応である。さっきみたいにペラペラと望んだ異世界を言えるのは元々自殺願望があった奴くらいだ。
「そ、それじゃ、鳥になりたい!! 空を飛んで自由になりたい!!」
「分かりました、それではあなたを鳥にーー」
「ああ!! ちょっと待って!! やっぱり鳥はキャンセルで!! だって撃たれたらすぐ死んじゃうし、やっぱり人かな……よし、私を平和な世界に転生して下さい!!!」
「分かりました、それではあなたを平和な世界にーー」
「ああああ!!! ちょっと待って!! やっぱり平和な世界はキャンセルで!! 平和な世界なんて存在しないんだし、そもそも平和て何なんだろう……。あ、そうだ。どうせなら、凄くスタイルの良いモデルに生まれ変わりたい!! それでいっぱい稼ぐんだ!! よし、それでお願いします!!」
「分かりました、それではあなたを凄くスタイルの良いモデルに転生を――」
「ああああああああ!! ちょっと待って!!」
うわー、出たー。俺の中で面倒臭い死人第三位、ずっと悩み続ける奴。
あれが良いこれは駄目と言って永遠に悩み続ける。
試行錯誤するのは勝手だが、こっちは無駄な時間を過ごしている気分になる。次の死人が待っているというのに……
「あ、あの、そろそろ決めて頂けないと……」
「うーんちょっと待って下さい!! だってせっかく決めれるならちゃんと考えたいし、後先の事を見据えて計画的にいかないと……」
結局転生したら記憶がなくなるのに計画もクソもないのだが。
「何がいいかなー。どうせなら美人がいいなー」
何でも良いから早く決めてくれ。こっちも疲れてきた。どうせならブスが良いとか言ったやつ見たこないからね?
「よし!! 決めた!! 鳥で!!」
結局鳥かよ!?
ーーー
「ここはどこだ?」
次に来たのは化学者の男性だ。死因は実験の失敗で起きた爆発である。
「あなたはつい先程命を――」
以下略。
「ふむ、私は死んだのか……馬鹿らしい」
……え。
「人は死んだらそれは生命の活動を停止したという事だ。その場合、脳の神経は全て破綻し、夢のない無意識的な睡眠状態に陥ると考えられてる。しかし、私はいま、意識的に話せている以上、脳の神経が正常であると言える。しかし、見覚えのない場所からして、ここは恐らく夢の中というわけだ。うん、間違いない」
はい、来ましたー。面倒臭い死人第二位。化学的に考えて死んだ事を信じない奴。
幽霊などの心霊現象を化学で論破して来た奴に多い。
そして何がタチ悪いかって、やけに自信がある事だ。俺を神様ではないと論破しようとし、頑固な姿勢を見せてくる。はっきり言ってうざい。
「あの、あなたは死んだのです。だからこれからの新しい人生を……」
「死んだだと? 僕がか? 証拠はあるのかい、証拠は。さっき君は神だとかふざけた事を言ってるが、神なんてものは存在しないし、宗教団体のほとんどは神の為だとか言って社会に歯向かおうとするし、結局は自分の利益を求めている連中さ。それに神は雲の上にいるとか言うが、雲は水蒸気だから乗れないし、気圧が低い所ほど気温は低下してとても生命を活動できる状態ではなくなる」
うわー。うぜー。
「……こほん。周りをみて下さい。現在あなたは見覚えのない所にいますね。そしてあなたの眼に映るのは私と、この永遠に続く白い部屋です。壁はありません。上をみて下さい。電気もないのに明るい部屋なんておかしいと思いませんか? もし、ここが化学的に証明できる場所だと私を説得できらなら、あなたが死んでない事を認めましょう。しかし、それが出来なければ素直に死んだ事を認め、転生して欲しい世界を述べて下さい」
これもお約束である。分かっていると思うが、今言ったことは絶対に証明できない。だって電気なしで本当に明るくしてるんだもん。
「い、いいだろう。考えられるのは壁は光を吸収する発光壁で構成されており、そこから電気なしで明るくしてるんだ!! そうだろ!?」
「違います。そもそも壁はありません」
「う、嘘だ!! 空がないということは部屋であってそれで壁がなければそれは部屋として成り立たないじゃないか!! 見てろ、今から壁をさがしてやる!」
化学者の男は遠くへ走り、壁を探しに行った。
無論、壁などないからそのマラソンは永遠に続いてしまうのだが。
「な、ないだと……いや!! そうだ床だな!? 床に天井まで届くように作られた電気をーーーー」
男が負けを認めるまで5時間は掛かった。体感的な時間だけど。
ーーー
さあ、ここまで来たら分かるだろ、そうそう、第1回面倒くさい死人ベスト1位ー。
それは――
「えええん!!! それでひどいんですよ神様!! 私はね、500年、500年ですよ!? そんな長い歳月、お傍で仕えていたのに勇者が私を倒した瞬間、とどめを刺したのは魔王様本人だったんですよ!? あんまりだと思いません!? しかも私にとどめを刺す時に吐いたセリフが、雑魚など私の配下にふさわしくない。ここで死ね。ですよ!? 確かにね、私は最初弱い魔物でしたけど、あの輝かしい魔王様の右に座れるように長い時間掛けて努力を積み重ねてきたんですよ。それを評価してもらい、声を掛けてきたのは魔王様自身だったんですよ!? 酷くないですか!?」
「は、はい……」
一位は神である俺に愚痴を長々と話す死人でしたー。はい、パチパチー。
あのね、そんな奴が一位? と思うだろうけどマジこれ面倒臭いのよ。だって人生で溜まった不満を全部話そうとするんだぜ?
しかも俺が愚痴を聞かまいと転生の話を出すと決まって返ってくるのが「あなた神様でしょ!? だったら愚痴くらい聞いてくださいよ!!」である。おんどりゃ神様を何だと思っとるんじゃ、ワイは毎日妻のパートの愚痴を聞く稼ぎの少ない旦那ちゃうぞ。
挙句の果てには「神様がちゃんとしないから私みたいな不幸な人間が増えるんですよ!!」である。くそ、神である以上、反抗出来ない立場だが、一応これでもストレスはたまるんだよ勘弁してください。
ちなみに今話しているのは先程まで魔王の右腕として仕えてきた魔物である。
どうやら勇者が城に攻めてきて、魔王を守ろうと戦ったのだが、見事に敗北してしまい魔王に助けを求めたのだがとどめをその魔王本人に刺されてしまったらしい。よくある話である。
「あの人絶対勇者に、この魔王、仲間をこんなにあっさりと……なんてセリフを吐かせたいからあんなことしたんですよ!! 私のこの500年は魔王様に極悪非道な行為をさせて勇者を驚かせるだけ為だけにあったというんですか!? 私の500年返して欲しいものです!!」
「そ、そうですね……ならば新しい人生のために次の転生する世界を――」
「そういえばあの魔王!! 私が右腕だと言うのに新しい右腕候補を探していた覚えがあります!! 今覚えばあのゴーレムも怪しかったです!! まさかあの人、真の右腕はこの雑魚ではなくこいつだ。とか言って勇者に右腕を紹介してるのかしら!! ムキイイ!! そう思うと増々腹が立ってきました!! 私は勇者を応援します!! 神様もそうは思いませんか!!??」
「わ、私の口からなんとも……」
「なんでですか!! あなた神様ですよね!? どうしてそんな無責任なこと言えるんですか!? 神様なら私のこの気持ちを一番理解して――」
な? めんどくさいだろ?
ちなみにこの後、例の魔王がここに来たのは言うまでもない。
ーーー
「あー疲れた」
今日も今日とて何十人の死人を転生させた。
あと何人転生させればいいのだろうなどもう考えなくなった。
ただ目の前にある死人を転生させ、転生させる。
どうせならお米にある7人の神の1人とか山の神になれば良かった。あの時、ちゃんと断っていれば……
その時、俺の前に再び死人が現れる予兆が起こった。
「さて、今度はどんな奴かな……」
俺は下ろした腰を浮かせ、いつものポジションに立つ。
「……パパ? ママ?」
現れたのは黒人の子供だった。
年齢は6歳。貧しい国に生まれた子供だ。
かなりやせていて、骨が皮膚から突き出てきそうだ。死因は餓死。
「あなたは――」
以下略。
「……僕死んだの? じゃあパパとママはどこ? パパとママ、先に向こうで待ってるねって言ったんだ。どこかで会えるて信じてきたんだ」
この子の両親は何年か前に亡くなっていた。子供に食わせるために自分たちの食事は疎かにしたのだ。こういったケースも少なくはない。
……少なくはないが、こればかりはどうも慣れない。
「……パパとママはもっと先の所に行ってしまいました。あなたも同じように新しい世界へ行くのです。どこがいいですか? 食べ物がたくさん食べれる世界ですか? それともお金がたくさん手に入る世界ですか?」
「パパとママがいるところが良い!!」
この子の言っているパパとママというのは誰でも良いわけでなく、死ぬ前の両親のことだ。
「……パパとママにはもう会えないんですよ? 2人は遠い遠い世界にいってしまって会うことは出来ないんです。だから、自分の行きたい世界を言いなさい?」
「で、でも、ずっとパパとママに会えるて信じてきたから、それ以外興味ないや!!」
「そうで、すか……」
なんとも残酷な話である。
この子よりも幸せな生活を送ってきた者は五万といた。だが、そういう人に限ってやれ今までの人生が不満だの親が悪いなどと御託を並べる。
しかし、逆にこの子のように親から大したことをして貰っていないにも関わらず、それでも親に会いたいなど言ってくるのだ。
この時思う。人の幸せとは何かを。人の望む幸せの形は様々だが、その形をどう作るかは本人の価値観で決まるのだ。
不自由ない人生を送って来たのに気付かず、幸せではなかったと愚痴をこぼす人はいくらでもいた。
それとは逆に、残酷な運命でも生きることを諦めず、死んでも前の世界に戻りたいと涙を零す人もいた。
結局人の言う幸せというのはただの理想郷なのかもしれない。
今を生きるのに必死な人間ほど、理想郷を考える暇がない。そして、今の状況に満足しているからこそ、理想郷を追い求めないのだ。
そして逆は……言わずとも分かるだろう。
「……分かりました。今回だけ特別ですよ」
「本当!? パパとママに会わせてくれるの!?」
「はい、きっと会えますよ。だから、じっとしててください」
「うん!! ありがとう!!」
もちろん、そんなことは出来ない。
この子の両親はとっくの昔に転生し、子供の顔も覚えていないだろう。ていうか俺がこの子の両親のこと覚えてない。
このまま俺はこの男の子をランダム転生をした。
これもいつものやり方だ。ここまでくると嘘を付くしかない。
この嘘は絶対にばれない。なぜなら転生すれば生前の記憶は抹消されるからだ。
残酷だと思うか? 酷いやり方だと思うか?
――そうだ、神なんてものは所詮こんなものだ。
死んだ人間を裁く事は人には出来ない。そこからは俺らの様な神々の役割になる。
では俺たちは何なのだ。そんなこと、考えたところで答えは真っ白だ。
君は空を見上げたことがあるだろうか。ないなら見てみるが良い。
空は青く、雲がかかってるだろ。たまに雲の色は変わり、雨を降らせ、たまに雪を降らせる。
君は地面を見たことがあるだろうか。ないなら見てみると良い。
地面は茶色く、歩けばその色は変わり、たまに何かが落ちている。
どこかに画鋲が落ちていて、それを踏んでしまったら痛いと思う。その時君は自分の事を不幸だと思うだろうか。まあ、多分思うのだろう。
では、ここはどうだろうか。
上を見上げよう。そこにあるのは永遠に変わることのない白の天井だけ。
下を見てみよう。そこにあるのは永遠に変わることのない白の床だけ。
雨も降らなければ画鋲を踏むこともない。
君はそんな世界を羨ましいと思うのだろうか。
真っ白なんだよ。何もかも、全てが真っ白なんだ。
つまらない眺めに驚きのない世界。それがここだ。
そんな世界を染めるのは毎日ここにくる死んだ者たち。
結局何が言いたいかって? なら教えよう。
俺が言いたいのは永遠こそが本当の不幸せだということだ。
君たちは死ねるだけでも幸せなんだよ。死ぬこと自体が本当の幸せなんだよ。あ、でも自殺はするなよ?
不満や苛立ち、劣等感や苦悩はあるだろう。だが、それは言い換えれば変わりがいのある日々を送っていることになるのではないか?
そんな時、一度立ち止まって見てみるといい。
周りにある風景を。枯れていく草木に、命を生み出す虫を。走りゆく電車に歩いてゆく自分と同じ死が待っている人たちを。
見てて飽きないと思わないか? それだけで面白いと思わないか? 少なくとも絶対に変わらない壁と天井と床よりは。
俺は羨ましいよ。変わるという最大の喜びを味わえる君たちが。
さて、そんな君たちに聞こう。
――――死んだらどこに転生したい?
読んで下さりありがとうございした!!
この話はこれで終わりですが第二弾を希望してくれる方がいるなら感想に書いて頂けると嬉しいです。