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数日が過ぎた。
自室のベッド寝転びながら小説を読んでいるルーカスに先の契約でルーカスの精霊となったヴァンが近寄り隣に寝そべる。
「ヴァン、ごめんな」
近付いてきたヴァンを撫でる。
ヴァンはゴロゴロと喉を鳴らし、すっかり治った右手に頭をすり寄せる。
精霊は下った契約者を主人とし、主人から魔力をもらい主人が死ぬとと一緒に死ぬ。
破棄は基本的には出来ない。
通常精霊契約は1年に1回精霊主様の間と呼ばれる場所に6歳になる子供と、主人が欲しい精霊を集め一斉に行われる。
いわゆる婚活パーティーみたいなものだ。
そこで精霊に選ばれたものだけが契約を行う。
すでに選ばれた者しか行わない為、そこに命の危険はない。
人間の魔力は精霊にとって美味らしく、魔力の質がよくないと見向きもされない。
なので、全員が全員契約できるわけではなく、出来るのは参加者の3分の1程度である。
そのほとんどが貴族で占められていた。
命を縛られまいとする野生の精霊を使役するのは難しいとされ、この儀式以外で契約を行うものはあまりいない。
「長生きするからな」
ルーカスは読んでいた小説を閉じ、ヴァンを抱きしめる。
嬉しそうに目を細めるヴァン。
そんな緩やかな時間を壊すように廊下からドスドスドスと凡そ淑女ではありえない音が聞こえ、ため息をつく。
「ルーカス!ねぇ、ルーカス!お買い物に行くわよ!お母様と3人で!」
言い終わると同時に扉が開かれる。
「何、まだ寝てたの?」
「……ノックくらいしたらどうなの」
「そんな細かいこと気にしないで、ほら!行ーくーよ!」
エリシアはドスドスドスと部屋に入り、カーテンを開ける。
「ほらいいお天気なんだから」
いきなり入ってきた光に目が眩む。
腕を腰に当て、一緒に行くまで動かないアピールをするエリシアを見て、渋々ベッドから出る。
ベッドから出たルーカスを待ってましたとメイド達が支度を始める。
されるがままになるルーカス。
「アル兄様は?」
「アカデミーよ!」
「父様は?」
「今日はお爺様のところにいってらっしゃるわ」
なるほど、女の買い物に付き合わされる生贄は私だけのようだと肩を落とすルーカス。
半ば引きずられるように連れてこられた馬車にはすでに母エマがいた。
「あらあら、うちの引きこもり息子は不機嫌さんなの?」
「おはようございます、母様」
「そうなの!私が行くまでヴァンを抱きしめて寝てたのよ!もうお昼なのに。甘えん坊さんなのねルーは」
「そんなんじゃない」
「あら、いいじゃない。ほらお母様の横にいらっしゃい?」
ふふふとおどけたように笑うエマ。
「甘えん坊のルーに譲ってあげるわ!お母様の隣」
そう言ってエリシアはエマの前に座る。
それを見て片眉を上げたルーカスはエマの隣にかなり間を空けて座る。
それを見た2人は目を合わせて笑う。
走り出した馬車、止まらない女子トークに我関せず顔のルーカスはひたすらに窓の外を見ていた。
早く着いてくれと祈りながら。