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作者は私  作者: わた
1/17

1-1

日付を越えた時間、東京。


駅のホームで仕事終わりの女が1人音楽を聴きながら自分の世界に入っている。

顔には疲労がにじみ出ている。

一番前に並んでいた女が乗り込もうとした時、横から酔ったサラリーマンが順番を無視して乗り込んだ。

女は不機嫌を隠すことなく顔に出しサラリーマンをひと睨みして乗り込む。

電車は走り出し女は見えなくなっていった。


女の名前は森本真由。

年齢24、映像編集の仕事をしている。

彼氏は生まれてから一度もいたことはない。


電気がついている我が家。


「あれ、帰ってたんだ」

「おかえり真由」


同居人で学生時代からの友人真中美香(24)がいることに気づきイヤホンを外す。


「ただいま。今日は家にいるの?」

「んーん、呼び出されたからこれから行くの」

「そっか大輝くんによろしくね」


興味なさげに美香の前を横切り自室に入る。


「大輝が真由に会いたいって言ってたから今度3人でご飯しようよ」


真由の部屋のドアにもたれながら話す美香。

そんな美香を見ずに着替えを始める真由。


「仕事がなければ」

「いつ休み?」

「…いつだろう」

「もう、本当休まないと倒れちゃうよ。昨日も会社に泊まったんでしょう?」

「まぁ、その内休めるよ」


苦笑いを浮かべながら洗面所に向かう真由。


「美香、時間いいの? 待ってるんじゃない?大輝くん」

「あ、じゃあ行ってきます!ちゃんと考えといてね」

「……」

「大輝いいやつだからさ紹介したいの。そんな嫌そうな顔しないで」


悲しそうな顔で言う美香に慌てて取り繕う。


「楽しみにしてるって」

「嘘。顔が笑ってないよ。もう、本当人見知りなんだから」


出ていく美香を見送る真由。

表面上作っていた笑顔を無表情に戻す。


「余計なお世話だ」


1人には広すぎる2DKの部屋で顔を洗う。

隣からは楽しそうな男女の声。


「何時だと思ってんだよクソが」


鏡には不機嫌を隠さない真由が映っている。

溜息をつき、頭をかく。


ベッドに入ると携帯であるサイトを見る。

小説を書くサイトだ。

ペンネーム、ハル。

これは真由が春生まれだから。

そこでファンタジーの小説を書くのが趣味になっていた。

内容は主人公を気にくわない悪役貴族たちが主人公に対し様々な嫌がらせをし、最終的に主人公が断罪し、人々に受け入れられていく物語。

真由にとってこの小説は日記であり、嫌がらせの内容も真由がその日に実体験した内容を改変して書いている。

最後に自分である主人公がそいつらを倒すことで、直接は言えない鬱憤を晴らすのである。



真由は元来寂しがり屋で人懐っこく、構ってちゃんだった。

しかし、だんだんと真由は陰気になり人間不信に陥って行き、気がついた時には人間嫌いになっていった。

学生時代はクラスでもお笑い担当として明るく振舞っていたし、友達といわれるだろう人物達は周りに多くはないがいたにも関わらずである。

徐々に人とうまくコミュニケーションが取れなくなる自分に辟易していた。

社会人になって真由の人間嫌いはさらに深刻になった。

どんどんと無表情になり外出は減り、極力引きこもりストレスを小説で晴らすようになっていった。

周りは心配されているというのは自分で感じていたがそれすら寒々しい偽善に思えてならなかった。


それでも物語は最後主人公が周りに打ち解けていくところから鑑みるに心の奥底では人と繋がりたいと思っていることに真由はまだ気づいていない。


「はぁ実家に帰りたい」


小説を書き終えた真由はアラームをセットしいつものように目を瞑る。


「明日は7時に起きる、7時に起きる、7時に起きる」


15分も経たないうちに真由の寝息が聞こえてきた。





7時、けたたましいアラームが鳴り響く。

真由は一度目覚めるとアラームを止めもう一度眠る。

何度か繰り返し、目が覚めた時には出発30分前の8時半であった。


「はぁ、行きたくない」


ベッドから起き上がり、さっとシャワー浴びて部屋を出る。


「洗濯してくればよかった」


この日はもう10月だというのに真夏日を記録した異様に晴れた日だった。

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