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2.始業式

 始業式。


 

 「みなさん。こんにちは。

 園長です。

 わたくしからといたしましてはこれと言って言うことはございませんので、

 ご列席の方々より、

 お言葉をいただきたいと思います。」


 白いバスローブを着た白髪白鬚の老人が最初の挨拶を面倒くさがるように早々と終わらせる。

 するとと背丈は大きく、

 塵ひとつ見えない高級そうなスーツを身にまとった大男が講壇にあがった。


「相変わらずの園長に今年も安心いたしました。

 みなさんおはようございます。」


 会場は割れんばかりの大きな返事をして応えた。


 「元気があってよろしいですね。

 本日は我が投資銀行ダイヤモンドソロスの空席をお知らせに参りました。

 募集人員1名。

 アナリストからではなく、

 マネージャーとしてお招きさせていただきたく思っております。

 これからの勉学に励まれ、

 今年も弊社の仲間になっていただける方を期待しております。

 以上です。」


 誰しもが想像するようなどうでもいい話題の始業式の挨拶。

 それとはまったく違うものがここ英知学園では行われていた。

 年長組にとって最も大切な事は誰よりも大きく社会に羽ばたける翼を手に入れること。

 そのとんでもない広告宣伝は永遠と続き、名門学校の推薦を含めると計五百は下らない。

 発表準に社会的地位、年棒、学校との関係が優位なもので、子供たちの上位成績者は上十数組を聞き終わると足早々に親をつれて退席していく。



 「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 会場の外で待ち構えてくれていたのは新クラスの振り分け案内を担当する女性。


 「Sクラス、あけみよ」


 会場から一番乗りで出てきたのは親もつれづ、堂々とした態度の少女。

 少女は自分のクラスはもうわかっていると自らクラス名を宣言して書類を受け取り、場所だけきけばずかずかと去って行った。


 「しけてるわね、まったく。メガバンクが今年は来てないじゃない。日本銀行も来てないし、今年は不作ね。」


 あけみは自分が希望していた国内大手の銀行がこぞって求人を出しに来ていないことに不満をこぼして新たな学び舎に入っていく。


 中は全面が白。


 蛍光灯の光ですらまぶしいほどに艶やかな壁に反射されてあけみは目を細めながら中へと入る。


 中はいきなりエレベーターが右に5つ、左に5つ、

 そして正面に一つあるだけ。


 あけみは横に並ぶエレベーターには一瞥もせずにSと書いてある正面のエレベーターに乗り込んだ。

 数秒もたたずにエレベーターは到着し、

 中に入ればボタンは一つしかない。

 そのボタンもただ一文字Sとだけ。


 あけみは少しうれしそうな顔をしてそれを押す。


 ゆっくりと扉は閉まり、

 動き出すと少し耳の奥から違和感が走って到着した。


 


 視線の先には大きく渦を巻いた積乱雲。

 その下には大きく広がる広大な海。


 目を凝らせば砂浜近くでイルカが跳ねているのが見える。

 目を凝らせば自分と同じ目線にヘリコプターが飛んでいる。


 「噂でしか聞いてなかったけれど、さすがね」


 少女も今まで見たことのない光景に目を輝かせる。

 だがそれは一瞬だった。


 「っま、私がこれから1年も過ごすのだもの、当然よね。」


 あけみはもう飽きたと今度はそこらを歩きまわり、この部屋の中を物色し始める。


 「なによこれ、一周丸々展望台じゃないの、机がないわ」


 あけみがぐるりと回ってエレベーターの裏側へとやってきた。

 それでも綺麗な景色が見える大きな広場という感覚だけで、

 学び舎の要素はどこにもない。


 だがひとつ、あけみはみつけた。

 エレベーターの裏側から上へとつながる螺旋階段があったのだ。


 あけみは見つけたらすぐにそれを昇っていく。


 「もう、この紙束重いのよぉ。早く置かせて欲しいの!」


 愚痴をこぼしながら螺旋階段からひょっこりと顔をだしたあけみは目を点にする。

 そこには、小さなロッカー、十人分と、

 まぁそれなりには豪勢なつくりをしてはいるがこじんまりとした食堂のような所があった。


 「なによこれ・・・。これがSクラス?しかもなによこれ!」


 あけみがよくよくロッカーを見てみると自分の名前が下の段にあるロッカーに書いてあった。


  上には+。

  下には-。


 「私が-ってどういうことよ!」


 あけみはその配置が気に食わず意図もわからず憤慨して軽くロッカーを蹴り飛ばした後に自分のロッカーを開けた。

 純白の制服。背中にSの紋様。

 分厚い罫線のないノート5冊とボールペンが2ケース。

 その下に下駄靴入れと書いてある。


 「教科書が・・・ない?」

 「あなた、靴脱ぎなさいよ?」

 「きゃっぁ!」


 ずっと一人だと思っていたこの場所に背後から声をかける少女。

 その少女は階段を上がって頭半分を出した状態で話しかけてきた。

 思わずびっくりして持っていた書類を空中にぶちまける。


 「……あなた、あいかわらずね。」

 「しずね!。驚かせないでよもぉ!」


 春休みぶりに出会うその少女。

 彼女は年中時代にクラスの覇権を争った中の一人、


 しずねだ。


 しずねとはいつもおままごとでどちらがお母さん役をやるか口論になる。

 その都度何日何年先の順番待ちまで話すものだから結局おままごとなんてできない。


 「あなた、もう年長ですよ?もう少し落ち着きをもって行動しなさい?」

 「なにようるさいわねぇ、いきなりむかつくわ、あなたこそこのロッカー見てなんとも思わないわけ?」


 しずねがそう言われてロッカーを見る。


 「・・・・楕円形のロッカーが欲しいのよね。」

 「どんな趣味よ!」


 あけみがそうじゃないと自分たちのロッカーが下段に位置していてその横に

 -と表記されている事を指摘した。


 するとしずねは一度黙る。


 「訴訟問題だわ」


 しずねは足早に階段を昇りきるとロッカーに並ぶ名前をすべて見渡し思いっきりロッカーを蹴り飛ばした。


 「なんですかこれわ!。

 旧年中時代の覇権を握った私達全員が下段じゃないですか!」

「そうなのよ!おかしいわよね!」


 しずねはさらに指をさして上段に掲げられている名前を読み上げて文句を垂れた。


 「だ、だ、だれですのこの人たち!。こんな人たち私達の学園にいました?。」

 「知らないわよ!私も知らないわ!」

 「なんでしょう…一人を除いて全員外国人ですか?」


 しずねが名前からなにかを察したようだ。


 「今まで聞いたことはなかったんですけれども、今年から何かかわるのかもしれませんね?」

 「何かって?」

 「さぁ、わかりませんわ。でも、私達にとって、良いことではないと思います。」

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