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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【中】
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第九七話【来訪者Ⅸ】

人払いがされた夜の公園に二人の人物が相対している。


「どうやってここまで誘い込んだの?ていうか、何で私の居所が判ったのか参考までに教えて貰えるかしら?」

「・・・。」


女の問いに、少年は答えようとはしない。


それどころか無言のまま、女との距離を詰めるように、ゆっくりと歩を進め始める。


自然と女の足が後退する。


しかし、歩調は熾輝の方が早い。


―――(しくじった。・・・やっぱりあの風間おとこに一杯食わされたんだ。)


女のこれまでの行動で足が付くとしたら、先程、庁舎に侵入した時に接触した風間が熾輝に情報を与えたとしか考えられなかった。


しかし、実際はそうではない。


女は知らないが、風間は女の正体は最初から判っていた。それは熾輝の師に当たる円空より伝え聞いており、情報も円空の支持の元に与えられていた。だが、風間が熾輝に女の情報を教える事は無かった。


ならば何故、熾輝が女の居所を掴み、あまつさえ待ち伏せを成功させたのかといえば、それは彼の式神である双刃の能力に起因する。


先日、熾輝のクラスメイトである小島芽衣が有していた魔術、加速アクセルが付与されていたプロミスリング。


現在、芽衣の元にあるのは複製によって作られた偽物レプリカであり、本物オリジナルは熾輝の手元にある。


熾輝は本物を元に、双刃の能力である猟犬の追跡術により本物の履歴を追って、女へと辿り着いたのだ。


「無視は酷いなぁ、少しは話してくれてもいいんじゃない?」

「・・・。」


女の問いに対し、相も変わらず無視を決め込むつもりの熾輝に、女は内心で舌打ちをする。しかし、対話をする気が無いと思われた熾輝の口がゆっくりと開かれる。


「お前達の目的はなんだ。」

「・・・なによ、やっと口を開いてくれたと思ったら、いきなり質問?」

「余計なお喋りは必要ない。聞かれた事にだけ答えろ。」

「聞かれて素直に答えるとおも―――ッ!?」


女の言葉を最後まで聞くことなく、一息で距離を詰めた熾輝が女へと肉薄すると同時に左足を踏み込んだ。


全身のオーラを余すことなく右拳に集中させて放つ。


女は虚を突かれた形になったが、それでも熾輝の攻撃が見えないという事はなく、迫りくる拳を素早く左手で払い、攻撃を僅かに逸らすと同時に女自身も斜め後方に体をずらすことによって軌道線から外れる。そうでもしなければ、攻撃を祓った程度では熾輝の攻撃を躱しきれずに当たってしまうと判断したのだ。


熾輝の攻撃は空を切るが、間近でみていた女が戦慄を覚える程に威力が乗った攻撃だという事が直ぐに理解できた。


おそらく、今の攻撃をまともに喰らえばタダでは済まなかったであろうと、女の脳裏にそんな考えが過った瞬間、後頭部めがけて何かが打ち込まれた。


ズダンッ!


という鈍い音が公園内に響き渡る。


「・・・今のを防ぐのか。」


女の後頭部めがけて放たれたのは、初撃を躱された熾輝が攻撃の回転を利用した回し蹴りだ。女の死角から放たれたそれは、完全にヒットすると思っていた熾輝にとって、僅かな驚きを与えたが、あくまでも感心といった意味合いが強い。


「マジで・・・何すんのよ!このガキィ!」


女は持っていたハンドバッグで後頭部を守り、直撃を防いだが、完全に威力を殺しきるには至らなかったのか、今も打ち込まれた箇所には鈍い痛みが走っている。


女の態勢を整わせないように一気に畳みかける。


しかし、連続で放たれる熾輝の攻撃を完全に見切っているのか、女は苦もなくそれらすべてを躱していく。


先程の回し蹴りによる一撃を受けて平常心を失ったかに見えたが、女はすぐに気持ちを切り替え、危なげない動作で熾輝の攻撃を躱すと、それに合わせて自らも攻撃を仕掛けてきた。


お互いの攻撃が交差し、一進一退の打ち合いが続けられる。


攻防は互角・・・・かに思われたが、徐々に熾輝が押され始めた。


「あらら~、さっきまでの勢いはどうしちゃったのぉ?」


先程と比べ、明らかに熾輝の手数が減り、防御に回っていく。


女は自身の優位を確信したのか、攻撃のテンポを上げていく。


「クフフフ♪お子ちゃまが調子に乗っちゃったみたいね★今までが上手くいっていたから、今回も大丈夫だって思ってたぁ?」


今日一日、猫を被っていた反動か、女の言葉遣いが段々と乱れ始める。


「相手の実力も判らないお子ちゃまには教訓として、お姉たんが教育してあげちゃうわね♡」


瞬間、女が纏っていたオーラが一気に膨れ上がり、打ち出してくる攻撃の重みが変わる。


「グッ!」


防御する熾輝の腕にズシリと女の攻撃が打ち込まれる。それは次第に威力を増し、ついには熾輝の力をもってしても受ける事が出来ない程のパワーを秘めるものとなっていた。


「チッ!」

「きゃはははは♪なぁに?男の子のくせに、もう音を上げちゃうの?そんなんじゃ、お姉たんは全然満足できないぞ♡」


受けきれないと悟り、女の攻撃を躱しバックステップで距離を取ろうとした熾輝に這い寄るように肉薄する。


「あぁん♡ダメダメ、もっと早く動かないと全然イケないぞ♡」


熾輝の最速の動きが、まるで児戯であるかのように、女は周囲を高速で移動しながら翻弄し、攻撃を加えていく。


ただ、熾輝もこれ以上は防御に徹していても相手にダメージを負わす事が出来ないと判断し、攻撃に打って出るため、ダメージ覚悟で相手の動きを先読みした場所に渾身の一撃を放つ。


タイミングはドンピシャ!突き出した拳が女の身体を捉えると確信したと同時・・・


パシンッ!


という小気味よい音が公園内に響き渡った。


「・・・あは♡あはははは♡ザーンネンでした♪君の動き何て最初から私にとってスローモーションみたいなものなのよ♡」


己の顔面に触れる直前に熾輝の手首をつかんで拳を受け止めた女は、馬鹿にしたような笑い声を上げている。


「ああ、判かっていたさ。普通・・に戦っても僕に勝ち目がない事ぐらい。・・・だから、お前にはとっておきを用意した。」

「・・・は?」


はなから勝敗は判っていたと語る熾輝であったが、女はならば何故このような戦いを挑んできたのかが理解出来なかった。


だが、女が受け止めていた熾輝の拳が開かれた瞬間、思わず目を丸くした。


手のひらに乗せていたのは、ピンポン玉サイズの黒い球体、その球体に熾輝が拳に集中させていたオーラを送り込んだ瞬間・・・・カッ!と目の眩むような閃光が夜の闇を埋め尽くした。


「あああああああっ!!」


握られていたのはマグネシウムを利用した閃光弾である。通常、球体状の閃光弾を使用する場合、地面に叩きつける必要がある。しかし、熾輝は閃光弾の内部にオーラに反応して発火する素材を調合時に混ぜ込んでいたことにより、地面に叩きつけることなく閃光弾を炸裂させたのだ。


ちなみにオーラに反応して発火する素材というものは本来存在しない。利用した物は、ただの紙だ。しかし、魔法式が描かれた熾輝のオリジナル素材、オーラが紙に触れた瞬間、発火するように組み上げた物であり、魔法発動には超自然エネルギー(モナ)が利用されている。


これにより、至近距離で炸裂した閃光弾の光をもろに浴びた女の目は、暫くの間使い物にならなくなった。


「目があああ!目があああ!」

「・・・相手が子供だと思って油断したな。」


女が怯んだ隙に顔面へと蹴りを叩きこんだことにより、女はそのまま後ろへ転倒した。


ゆっくりと目を開ける熾輝の目の前には、目を抑えながら地べたを転げまわる女の姿が写り込んでいる。


もちろん、今回使用された閃光弾が目を瞑る程度で防げるものではないが、熾輝はあらかじめ遮光性の高いコンタクトを付けていたため、自身が閃光弾によって目を潰されるという被害を防いだ。


しかし、この作戦で無傷だったかと言われっるとそうではない。グローブで保護していたとはいえ、手のひらでマグネシウム弾を炸裂させた熾輝の手も焼かれて、軽くない火傷を負っていた。


今もズキズキと痛む火傷を無視して、熾輝は女へと詰め寄ると、隠し持っていたロープを取り出して女を縛り上げた。


「さて、お前・・・お前たちの目的を教えろ。」

「な、にを言っている。」

「この期に及んで自分一人でやっていたという言い訳は通じないぞ?居るだろう、仲間が・・・いや、正確に言うとお前を作り出した主だが。」

「なっ!?」


未だ視力が回復せず、縛り上げられ、地べたに転がされている状況ではあるが、熾輝の言葉が鮮明に入って来る。そして、今まで熾輝達の前に姿を現せていなかった自分たちの情報が何故知られているのかという疑問を抱きながらも、熾輝の言葉が事実を指しているからこそ、かえって動揺が大きく表情にでてしまう。


「何故、知っているのかって顔をしているな。だけど、そんなものは気配に敏感な者になら誰にだって判る。自分でいうのもなんだが、僕は魔力やオーラに対しては特に鋭敏な感覚を持っている。上手く偽装を施してはいるが、お前が式神であることは一目で判ったぞ。」


女は熾輝の言葉に愕然とする。いかに気配に対し鋭い感覚を有すると言っても、自身に施された偽造は完璧だと思っていたからだ。


実際、先程まで一緒にいた二人の十二神将ですら女は欺いて見せた。


たかだか10歳の子供に見破られる程度のちゃちな偽装ではないと、偽装を施した主の力を信じていた女にとっては、とても信じられるものでは無かった。


故に、実は風間や神狩に正体を看破され、自身の情報が熾輝にリークされたという方が女にとって一番納得のいく説明であると自身の中で推理した。だからこそ、言わなくてもいい情報を喋りだす。


「う、嘘をつくな!どうせ、あの風間とかいう十二神将から私の存在を知らされたんだろ!でなきゃ、お前みたいな餓鬼に主の完璧な偽装を看破できる訳がない!大体、魔術の扱えないお前が魔力に対する感覚を―――」

「風間?」


女は心の中で、しまった!と思ったが、もう遅い。


「へぇ、僕の事を色々と調べたんだ。」

「・・・ええ、そうよ。八神熾輝、通称悪魔の子。神災の生き残りで、魔界からの帰還者。五月女と五十嵐の血縁者で、五月女清十郎・東雲葵・昇雲師範・蓮白影・佐良志奈円空を師に持つ。1年程前に魔術結社、暁の夜明けに襲われた・・・魔法の使えない出来損ないの魔法使い・・・でしょ?」


女は開き直ったかのように自身が得た情報をまるで披露するかの如く喋り始める。


おそらくは、熾輝の動揺を誘うための行動だったのだろうが、当の本人は顔色一つ変えずに女の話を聞いている。


むしろ、どんな情報を得たのかを、このまま喋らせて把握するつもりだ。


しかし、今まで咲耶達にすら隠してきた【魔法が使えない】という情報を知られてしまったことは、熾輝にとって大きな痛手だ。なにせ自分の弱点を知られたに等しいのだから。・・・ペラペラと喋ってくれた風間には、仕返しをせねばなるまいと考えていたが、とりあえずは葵に今回の件を懇切丁寧に説明して、どうにかして貰おうと思っている。


「なるほど、そこまで調べていたとは・・・だけど、そんな事を知って、どんな意味がある?」

「ふんっ!冷静な振りをしても内心じゃあ焦っているんでしょ?なにせ魔法が使えないっていう弱点まで知られたんだ!」

「確かにその通りだ。・・・だけど、いずれ僕が魔法を使えないと知られる事を想定していないと?」

「うっ、それは・・・」

「それに僕の師である五月女清十郎と昇雲師範は魔法を使えないけど、歴戦の魔術師をことごとくほふってきた達人だ。その二人の弟子である僕が対魔術師の戦い方を心得ていないとでも思うのか?」


これは、ある意味熾輝の強がりである。


熾輝の言うことは傍から聞いていれば、なるほどその通りと思うだろう。しかし、それはあくまでも達人と呼ばれるような者達だからこそ、名のある魔術師相手でも圧倒出来るというだけの話なのだ。


しかし現在、魔法を使えない熾輝が女を縛り上げている状況において、その強がりに真実味を与えている事も事実だ。


「まぁ、僕の話はどうでもいい。そろそろ、お前達の事について話してもらうぞ。」

「クッ!」


縛り上げられ地べたに転がされている女は、自分に手を伸ばしてくる熾輝から逃げるように身じろぎをする。


もちろん先程からロープを外すため力を使おうと努力しているのだが、力を発現しようにも力が散らされて脱出することが出来ないでいる。


「無駄だ。そのロープには力を封じる呪いが込められている。」

「っ!?」


―――(くそっ!それでさっきから力が上手く使えないのか!)


これは過去に熾輝が暁の夜明けに捕縛された際に縛り上げられたロープだ。


あの事件のあと、戦利品として熾輝が超自然対策課に提出せずに保管していた物を使用している。


「諦めろ、この場所に誘い込まれた時点で、お前は僕の術中にある。」

「・・・。」


女は熾輝の言葉を聞いて悔しい顔を浮かべていたが、その顔も一瞬で落ち着き払った諦めにも似た表情へと変わった・・・かに思われた。


「はぁ、仕方がないか・・・・偽装、解除。」


それが女を縛る枷を外した瞬間だった。


「なにっ!?」


外装とも呼ぶべき女の身体の内側から光となって力が奔流の如く溢れ出す。


そして、女の偽装にヒビが入り、次の瞬間、ガラスが砕け散るような音が響き渡ると同時、何かが女の身体から飛び出した。


一瞬の事で、その正体を見極める事は出来なかったが、それが女を形作る核であることは感覚的に理解した。


核を中心に集まる霊的エネルギー。


それが次第に女の肉体を形作り、人型へと遂げていくのに差ほど時間はかからなかった。


「・・・・・ふぅ、まさかこの姿を見せる事になるとはね。」


見た目の年齢はおそらく18歳前後といったところか、茶髪と日焼けしたような素肌。仮に制服を着ていたのなら女子高生に見える容姿。


しかし、女子高生と呼ぶには程遠い程に女が身に纏う力が尋常ならざる存在であることを示している。


「そういえば、まだ名乗っていなかったわね。この姿にまで追い込んだ坊やに敬意を示して教えてア・ゲ・ル♡」


妖艶な雰囲気を纏う女が、いつの間にか取り出した大鎌の柄に腰を下ろし、空中で微笑みを向けながら自身の名を明かす。


「私の名は刹那せつな・・・・さぁ、第二ラウンドを始めましょう♡」


眼下に佇む熾輝を視界に収め、女・・・・刹那はご馳走を前にした野獣のように舌なめずりをする。

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