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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【中】
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第九六話【来訪者Ⅷ】

「すまないけど、今日は出かける用事があるから二人で観光してきて。」


熾輝達が磁力の魔導書を封印した後、結局咲耶達とまともに話しすらしない状態で別れてしまった翌日、食事を終えてリビングでくつろいでいる依琳と劉邦に熾輝が本日、二人と別行動をする旨を話していた。


「・・・別にいいけど、何処に行くんだ?」

「場所が決まっている訳じゃないけど、多分帰りは遅くなると思う。」

「ふ~ん、・・・わかった。」


特に深く聞いてこない劉邦は、チラリと隣でテレビに見入っている依琳に視線を向けたが、直ぐに熾輝へと向き直り、こっちの事は気にするなと、ヒラヒラと手でジェスチャーを送る。


二人の会話に入って来なかった依琳といえば、日本で放映されているアニメに興味を引かれているため、周りの音がまったく耳に入っていないらしく、先程からテレビに噛り付いている。


「・・・じゃあ、行ってきます。」

「おう、気をつけてな。」


そういって熾輝を送り出す劉邦・・・だが、熾輝の心の中では本当に依琳を彼に任せても良いもの大丈夫だろうかと、後ろ髪を引かれる思いが湧き上がるも、そういった気持ちを振り払い、自宅を後にした。





マンションを出た熾輝が向かったのは、近所にある公園の公衆トイレだった。


「・・・双刃、出て来てくれ。」


己の式神の名を呼ぶと、虚空から同年代くらいの女の子が姿を現した。


「熾輝さま、言われていた物は全て用意できています。」


双刃は、あらかじめ用意していたボストンバッグを床に降ろす。


「ありがとう。だけど、コレを使うのは後になりそうだから、まだ双刃が持っていてくれ。」

「承知しました。」


熾輝の命令を受けた双刃が用意していたボストンバッグを手にすると、バッグだけが空間に溶け込むように消えていった。


そして、熾輝は新たにポケットに入れていたプロミスリングを取り出すと、双刃に手渡す。


その意味を理解している双刃は、迷いのない動作でプロミスリングを受け取った。


「おそらく、敵は襲撃を受けるとは思っていないはず。そのために、わざわざ日を置いてから行動に移すんだ。・・・色々と後手に回らされたけど、今日で片を付ける。」


そういった熾輝の表情が鋭い物へと変わった。


「・・・今回も、咲耶殿達には黙って行うつもりですか?」


これから主が行おうとしている事を咎めるつもりは双刃には無い。しかし、ここ最近の熾輝の様子を見ている彼女には、どうにも彼がまたも無理をしようとしている様に思えてならなかった。


林間学校から帰って来てから主の様子がどうにもおかしい事に気が付いていた彼女が、それとなく聞いてみたところ、咲耶達と仲違いの様な状況に陥ってしまったことを聞かされた。


そして、林間学校のさなか、敵の襲撃を受けた事も。


あの時、自分は主の元を離れ、自宅待機を命ぜられていた。それは、熾輝達が街を不在にしている時に魔導書事件が起きた際、対応する様に言われていたからであって、しかし結果として自身が守護する主が襲われてしまった。


その事は悔やんでいてもしょうがない事は彼女にも判っているつもりだが、やはり式神として熾輝を守る事が出来なかった事が悔しくてしょうがない。


「しょうがないよ。それに、今回は対人戦になる可能性が極めて高い。妖魔や悪霊ならまだしも、咲耶に人間相手の戦闘は早すぎる。」

「・・・判りました。熾輝さまがそのようにお考えならば、双刃はもう何も言いません。」


本当は、熾輝一人で行動しては欲しくない。しかし、彼が言う事も理解できる。故に彼女は煮え切らない思いを抱きつつも、自身の能力を発動させ、件の襲撃者の捜索を開始した。



◇  ◇  ◇



昨夜の一件の後、咲耶は可憐の家に泊まっていた。


毎度の事ではあるが、咲耶の父親は仕事の都合上、しょっちゅう家を空ける事がある。ただ、一人娘を家で一人にするのは何かと心配なので、可憐が子役として仕事が休みの日は、こうしてお世話になっているというのが現状だ。


勿論、アリアだって家に居るが、そこは女性という事もあり、やはり父親の心配はどうしても払拭できず、可憐の母親の厚意に甘えさせて貰っている。


そして、この日の夕方、朝から夏休みの宿題を彼と共に片づけていた彼女は、今日何度目か数えるのも面倒になるほどに溜息を漏らしていた。


「さくやぁ、元気出しなよ。いつまでも引きずっていても、しょうがないでしょう?」

「・・・。」

「きっと、熾輝も気にしていないよ。それに、向こうも咲耶と仲直りしたいハズよ。」

「・・・。」

「もしかして、依琳って子に言われた事を気にしているの?あんなの放っておけばいいのよ!大体、いきなり出て来て好き勝手いうなっての!」


先程から咲耶を励まそうとするアリアであるが、当の本人はどこか虚空を見つめたまま反応を返してくれない。


『・・・ダメだ!あの子、完全に目が逝ってる!』ヒソヒソ

『だ、大丈夫です!きっと考え事をしているだけですよ!』ヒソヒソ

『でもでも!あの子、根が単純すぎるから、一度思いつめると止まらないわよ!』ヒソヒソ

『確かにそうですが、それは、咲耶ちゃんの美点であって―――』


ボーっとしている咲耶を他所に、どうしたものかと小声で相談をする可憐とアリア、しかし、ここへ来てようやく咲耶が反応をみせる。


「やっぱり、私って足でまといなのかなぁ・・・」

「「・・・。」」


何を思って発した言葉なのか、ボソリとこぼした愚痴?を聞いたアリアと可憐がお互いの顔を見合わせる。


「私ね、熾輝君が転校してくるまで、いつもビクビクしながら魔導書を封印していたの。怖い目にも沢山あったし、上手くいかないときの方が多かった。・・・・でも、一緒に魔導書を封印するようになって、知らず知らずに熾輝君に甘えていたのかもしれない。」


咲耶は、自身が抱える悩みを二人に吐露する。


「それに、3ヶ月以上一緒にいて、熾輝君の事をなにも知らなかった。知ろうとする時間は沢山あったのに、それなのに・・・」


言葉に詰まった咲耶の表情は、悲しみに染まっていく。


「燕ちゃんの事も、私が熾輝君の事をちゃんと理解できていれば、あんな事・・・」

「咲耶ちゃん…それは、私も同じです。一緒に居て、お互いの事を知ろうとしなかったから、今回のようになったのだと思います。」


昨夜の話を聞いて、段々と可憐までも気落ちしてきている現状で、アリアは少し困った顔を浮かべてはいるものの、やれやれと肩を落とす。


そして、


「うりゃー!」

「「きゃっ!」」

「な、何するの!アリア!」


咲耶と可憐をまとめて抱きしめるアリアは、これでもかと言わんばかりに腕に力を込める。


しかし、その抱擁がキツくて苦しいという事はない。むしろ温かくて優しいくらいだ。


「・・・。」

「アリア?」

「熾輝は、足でまといなんて、きっと思っていないよ。」

「「・・・。」」


二人を抱きしめたアリアが優しい声で語り掛けてくる。


「確かに私たちは、熾輝の事を何も知らないかもしれない。けど、熾輝だって私達の事を知らない。」

「それは、・・・そうかもしれないけど。」

「人はさ、知らない相手と直ぐに争うけど、お互いの事を知れば割とあっさり仲良く出来ちゃうものよ。私から言わせれば、今まで喧嘩もせずにやってこれたのが不思議なくらいだもん。」

「「・・・。」」

「きっと、遅かれ早かれ貴方達は、こうやって喧嘩して、お互いの事について頭を悩ませていたに違いないわ。」

「喧嘩する事は決まっていたという事ですか?」


アリアの言葉は要約すると、近いうちに必ず喧嘩になっていたと取れるような言い方だった。


「そうね、言い方は悪いかもしれないけど、熾輝との繋がりって魔導書の事だけで、後は大したものはないでしょ?」

「それは・・・。」

「でも!一緒に可憐ちゃんのコンサートに行ったし、一緒に運動会も頑張った!クラスだって一緒で、私の魔術の修行にも付き合ってもらっているのに!なのに!・・・・それだけじゃ、友達になれないの?」


熾輝との付き合いは、正直、僅か数ヶ月。しかし、咲耶や可憐、アリアにとってはたかだか数ヶ月でも十分に内容の濃い日々だったハズだ。


だけど、アリアは首を横に振って咲耶の言葉を否定する。


「友達は、過ごした時間や何をしたかでなれるものじゃない。お互いに心を許し合い、対等と思える同士を友達っていうんだ。・・・・それが、私が生きてきて学んだこと。まぁ、私の友達は、みんな死んじゃったけどね。」


ハハッと無理に笑うアリアは、これまでの彼女の歴史を知る咲耶にとって、とてもではないが見逃せるようなものではなかった。


「アリア!」


だからこそ、咲耶は逆にアリアを抱きしめた。


「私はアリアの友達だよ!アリアが生きてきた時間にくらべて、一緒にいる時間は少ないけど、それでも!時間なんて関係ない!私はアリアが好きで、アリアの傍に居たいの!」

「咲耶・・・」

「私もです!何の力も持っていない私なんかが一緒にいても、役に立たないかもしれませんが、私もアリアさんが好きです!」


二人を慰めるつもりだったのに、いつの間にか自分が慰められている状況に思わず笑いがこぼれる。


「ありがとう二人とも・・・よしっ!」


そういって、二人を更に抱き寄せる。


「これから熾輝の所へ行こう!」

「ホエ!?」


アリアの言葉に一瞬、虚を突かれた咲耶が変な声を上げた。


「可憐のおじいちゃまも言ってたじゃん、喧嘩した時は話をしなきゃ駄目だって。それに・・・」


一旦言葉を切ったアリアが二人を見据えてゆっくりと言葉を紡ぐ


「これを機に、本当の友達になれるチャンスかもよ。」


諭すようなその言葉は、不思議と咲耶と可憐の心にストンと落ちてきた。




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