第九三話【来訪者Ⅴ】
「神災の生き残り?あぁ、例の子供のことか。確か木戸部長が方々に手を回して、今は国外に居るはずだよ。」
「戸籍やら、あれやこれやを抹消して新しい戸籍が作られたって話を聞いたなぁ。何でかって?さぁ、そこまでは知らないよ。」
「1年程前に魔術結社が子供を拉致しようとして、その時に五柱の一人が組織を壊滅状態に追い込んだんだ。五柱と子供の関係?そんなの知らないよ。」
「拉致の理由?子供の身体がどんな魔術でも発動可能な媒介になるって話だけど、俄かには信じられないよね。結局デマだったらしいけど・・・ところで君誰?」
都心にある、とある建物の中で神災で生き残った少年の話を聞きまわっている女がいる。
その建物とは、日本の対霊的災害に対応するエキスパート達が集う場所、つまりは超自然対策課の本部である。
そんな国家機関にまんまと潜入を果たした女は、素知らぬ顔で情報収集を行っていた。
―――(ん~、やっぱり国が絡んでいるのは間違いないみたいね。でも、末端の職員からの情報だけだと限界があるかぁ。)
現在、女が掴んだ情報と言えば
○ 八神熾輝は五柱及び十二神将のトップと繋がりがある。しかし、どのような繋がりな
のかは不明、(ヒストリーソースにより五月女家の縁者である以上、五柱の一人、五月女
清十郎との親族関係は明らかであり、その伝手だろうと予測される。)
○ 魔術結社に命を狙われていた。しかし、狙われていた理由については、眉唾物のガセ
ネタ
○ 個人情報を丸ごと再発行した経緯については不明
くらいなものである。
―――(もうちょっと有力な情報が欲しいけど、流石にこれ以上、上の者に接触すると危険が高くなるなぁ。)
そんな事を思いつつ、女が庁舎から立ち去ろうかと思案していた矢先、対向から歩いてくる男と目があった。
―――(・・・ダメ元で最後にあの人から話を聞いてみよう。)
「あのぉ、すみません。」
「ん?何だい?」
男は、女の呼び掛けに対し、清々しいまでの笑顔を浮かべて答えてくれた。
外見は20代半ばといったところだろう。この業界では、まだまだ若い年齢層だ。しかし、その堂々とした立ち居振る舞いと身に纏う魔力から、相当な実力の持ち主であろうことが感じ取れた。
女は声を掛けた後にマズった!と心の中で思いつつ、笑顔を崩さずに話しかける。
「えーっと、私最近になって超自然対策課に実習生として配属されたんですけど、7年くらい前に起きた神災の事について知りたくて。」
「・・・聞いてどうするんだい?」
男は神災という単語を聞いた瞬間、僅かに目を細め、警戒するような視線で女を見た。
「あ、あのですね、実は私、学校で神災を題材にした研究レポートを作ろうとしていまして、職場実習期間中にこの件に詳しい人を探していたんです。あの事件は未だに解明されていない点や腑に落ちない点が多く存在していて、将来のために何か役立たないかと思って、それで・・・。」
女は内心焦りつつも、今の自分が置かれている設定上、怪しまれない範囲で言い訳をする。
「職場実習?・・・・」
「え、え~っと。」
―――(ヤッバ!完全に怪しんでいるよねコレ!どうする!?逃げるか!?ていうか逃げ切れるの!?)
男が纏う雰囲気は、相当な実力者だと女の直感が告げている。だからこそ、この場での判断ミスが女にとってバッドエンドに繋がる分岐点だと女の勘が警告を鳴らして知らせているのだ。
しかし、
「なーんだ、キミ、職場実習生だったのか。」
「え、あ、はい。」
先程までの警戒をしていた男の雰囲気が完全に霧散し、随分と砕けた雰囲気へと転換された。
「いやー、すまんすまん。俺はてっきり熾輝君を狙っている刺客か何かだと思っちゃったよ。」
「は、はぁ。」
―――(いや、ある意味で合っているんですけどね。)
「最近は、そういった連中も鳴りを潜めているらしいんだけど、菩薩様からくれぐれも用心するようにって言われていたから、つい疑ってしまってね。いや、悪かった!」
「よく判りませんが、誤解が解けて良かったです。それで、あのぉ・・・」
「ああ、神災についてだったよね。…うん!君の様な向上心を持った未来の同僚に俺も協力させてもらうよ!」
この程度の言い訳に納得した目の前の男を一瞬「大丈夫か?この人」と思いつつも、どうやら末端が知らない情報を持っているらしい言い回しをする男から話を聞けることに、内心ラッキー♪とガッツポーズをする。
正直、庁舎内に潜入する以上、十二神将クラスの捜査官に目を付けられたらどうしようと内心で冷や冷やしていた女も、これで安泰だと思って、目の前の男同様に警戒を完全に解いた。
「あ、有難うございます!えーっと・・・」
「ああ、自己紹介がまだだったね。俺の名前は風間透、十二神将第3席、風術師の風間って言えば判るかな?」
男、風間透の名前を聞いた瞬間、女の顔に張り付けていた笑顔にピシリッとヒビが入った音が聞こえた。
それと同時に
アンタが十二神将かい!
と心の中で叫び声を上げていた。
 




