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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
修行編
9/295

第八話

時間は少し遡る


熾輝と清十郎が人間界に戻って一番最初に向かったのは、清十郎の実家である五月女家だった。


熾輝は、父方の実家に行くとだけ聞かされていたため、ただの一軒家を想像していたが、家の目の前まで来て、自分の考えが間違いであることがわかった。


 まず目に入ったのは、時代劇でしか見ることのない大きな屋敷の門だった。そこから何処までも左右に伸びる屋敷の塀、門の横には、人が通るためのものと思われる小さな扉、その横には、現代人の家ならば必ず備え付けられているカメラ付きのインターホンが設置されていた。


 インターホンを鳴らすと女性の声が聞こえ、清十郎が帰宅を告げると何やらインターホン越しの向こうが慌しくしているのが聞こえてきた。


 そして、数十秒程門の前で待機していたところ、門の向こうにザワザワとした人の気配を感じ、門がゆっくりと開かれた。


 一瞬、扉の方を開ければ良くないか?と思うも、二人は門の開放を待つことにした。

 

「清十郎様、お帰りなさいませ。」

「ああ、今帰った。」


清十郎と同い年くらいの男性が門を開けた向こう側で一礼をし、その後ろには、数十人の老若男女が同じように頭を下げていた。


先頭にいた男が頭を上げ、清十郎の後ろにいた熾輝の方へ視線を移し、目を大きく見開いたまま固まったが、ゆっくりと歩みより、丁度熾輝の目線の高さに合わせてるように片膝をついた。


「・・・本当に、無事でよかった。」


そう言うと、男は熾輝の両肩に手を乗せて、涙を流し始めた。


「和也、後にしろ、みんな見ているぞ。」

「何を言っているんですか、熾輝様がこうして無事に帰ってきたのですよ、これが泣かずにいられますか。」

「中年男の泣き顔なんて気持ち悪いだけだ。」

「・・・」

「・・・」


和也と呼ばれた男は、そのまま清十郎と視線を交わし(睨み合い?)二人を屋敷に入るように促した。


門を潜って敷地に入ると、先程、和也の後ろに控えていた者達が道を挟むように一列に並び、頭を下げている。


そんな人と人の間を和也と清十郎が並ぶように歩き、その後ろからは熾輝が付いて行っていた。


「清十郎様、後ほど先代の所まで来てください。」

「爺のところにか?」

「はい。何やら大切なお話があるとか。」

「今更爺が俺に話って何の用だよ?」

「確かな事は分かりませんが、おそらく熾輝様絡みかと思います。」

「・・・わかった。」


 門を潜ってから敷地の中をずっとキョロキョロと見ていた熾輝に二人の会話は、聞こえていない。


 そして、列になって頭を下げていた者の中に、負の感情を抱いた者達が居ることに清十郎も熾輝も気が付いていなかった。




 屋内に入って最初に案内されたのは、十畳ほどの畳部屋で、部屋の中には、見事なまでに何も置いていない殺風景な部屋であった。


「ここが叔父さんの部屋?」

「ああ」

「何にも置いてないけど?」

「俺は、15歳の時に家を出て、それ以来ここには帰っていなかったんだ。」

「じゃあ、叔父さんもここに帰ってくるのは久しぶりなの?」

「確かに久しぶりだが、母が・・・お前のお婆ちゃんが無くなった時位から、たまに家には帰っていた。」

「僕のお婆ちゃん・・・お爺ちゃんもここに居るの?」



 そんな会話をしている最中、部屋の外から声が掛けられた。


「おとーさーん、清十郎様帰ってきたのー?」


女の子の声だ。

返事を待たずに襖が開かれ、そこには和服を着た熾輝と同い年くらいの少女がたっていた。


「こら香奈、勝手に入ってきちゃダメだろ。」

「はーい」


余り反省はしていないのか、香奈と呼ばれた女の子は、そのままテクテクと清十郎の前までやってきて、頭から突っ込んできた。


「清十郎さまー、おかえりなさい。」

「おお香奈、元気にしてたか?」


頭から突っ込んできた香奈を受け止め、そのまま高い高いを始めた清十郎、その横では、娘に軽視されている和也の姿があった。


「・・・香奈、清十郎様は、疲れているからそろそろ降りなさい。」


「はーい」と返事をした香奈は、清十郎から降ろされると、横に居た熾輝に気が付いた。


「シキくんだ!」

「・・・こんにちは」

「久しぶりだねー!今日は何でここに居るの!?何時もお外で会うのに!」

「えっと」


清十郎は、この時「しまった!」と思った。熾輝と魔界から帰還してから直ぐに実家に来たため、熾輝の現状については、まだ誰にも話していないのだ。


「・・・シキくんどうしたの?」

「熾輝様?」


 ここまで来てようやく和也も違和感に気が付いたのか、清十郎に視線を向けると、困った顔をした清十郎が和也を部屋から連れ出し、熾輝の状況を説明した。


「記憶が無い⁉」

「ああ、それと、感情が失われているみたいなんだ。」

「何でそんな事に!」

「それは、俺にもよく分からん。もしかしたら半年前の事件が原因かもしれん。」

「神災が・・・。」


 【神災】半年前に熾輝が巻き込まれた事件は、突如現れた正体不明のソレにより、甚大な被害を受けていた。

 この事件による被害者は、100万人を超えており、未だに神災跡地の復興が進んでいないのが現状だ。


「それじゃぁ、私の事や香奈の事は覚えていないのですね。」


 悲しそうな顔をする和也は、かつての熾輝とその家族について思い出していた。


「だが、感情は、少しづつだが、取り戻してきているのは確かだ。だから、記憶が無くても、何とかやっていけると俺は思う。」

「そうですね。記憶が無くなっていても、私たちで新しい思い出を作っていけばいいだけの事ですね。」

「ああ。」


そう言って、清十郎が部屋に入ろうとした時、ふいに和也から呼び止められた。


「清十郎様、話しておかなければならない事があります。」





部屋の中では、香奈が持ってきた人形で熾輝と遊んでいた。


「この子がね、まりちゃん。それでー、この子がユウくん。」


部屋を出て行ってしまった父親と清十郎が中々帰って来ないことから、暇になってしまったため、持って来ていた金髪ロングヘアの人形と茶髪のイケメン青年を模した着せ替え人形を両手に持ち、人形劇を開始することとなったのだ。


「シキくんには、ユウくんを貸してあげるから、ユウくんをやってね。」


どうやら子供が人形を動かし、台詞を話す設定らしい。


「ひどいっ!私というものが在りながら他の女と浮気をするなんて!」

「・・・」

「なんで何も言ってくれないの⁉言い訳ぐらいしたらどうなの⁉」

「・・・」


熾輝にはハードルの高すぎる人形劇だった。



「以上があの事件の際に用いられた魔術の詳細ですが、未だに詳しいことが分かっていない部分が多すぎます。」

「何なんだそれはっ」

「おそらく先代もその事に関係してお話をされるつもりかと思います。」

「・・・兄貴、アンタは、あの子に何てことをしてくれたんだ!・・・・爺のところへ行く。」

「わかりました。」


部屋の外では、和也が神災の時に行使された魔術についての詳細を清十郎に説明しており、それを聞いた途端、顔色を変えた清十郎は、熾輝を置いて、急ぎ五月女家先代当主に会いに行くことにし、部屋を後にしたのだった。


そして、部屋の中では、修羅場を迎えている人形劇が今も続いていた。


「離婚よ!もう彼方とは一緒に居られないわ!」

「・・・」


香奈は走り出し、縁側を塞いでいた障子を「バン!」と開けて出て行こうとした。

しかし、縁側の外に居た少年達に気が付いたため、香奈は動きを止めた。


「お兄ちゃん達も一緒に遊ぶ?」

「・・・・」


少年たちは何も言わずに縁側から部屋に上がり込み、熾輝を囲むようにすると、一人の少年が話しかけてきた。


「お前が悪魔の子供か?」

「あくま?」

「とぼけるな!お前、熾輝って言うんだろ!」

「そうだけど。」


答えた途端、少年の一人が熾輝の髪をつかんで、部屋の外に放り出した。

熾輝は、そのまま顔面から地面に落ち、倒れこんだ。


「お前達のせいで、俺達の父さんは、死んだんだ!」


そう叫んだ子供の眼からは、涙が流れ出し、他の子供たちからも怒りの表情を向けられていた。


「父さんの敵をとってやる」


少年の手から火の手が上がり、その怒りの炎が未だに倒れこんでいた熾輝に向けられる。


「シキ君!やめて!」

「お前は引っ込んでいろ!」


止めに入ろうとした香奈は突き飛ばされ、床に転がった。


「お前、何か言う事は無いのか?」

「・・・意味が分からない」

「っ!死んじゃえーーー!」


その瞬間、少年達の怒りは臨界を迎え、炎が放たれた。


文才が欲しい

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