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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【中】
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第八八話【林間学校Ⅶ】

7年前、日本のとある都市でそれは起こった。世間一般的には原因不明の災害として報道された事件は、一時期、世界を震撼させた。


なにせ、一夜にして都市丸ごと一つが消失したなどという非現実的な事実を受け入れるには、世の中の人々は寛容ではない。


この現象については今でも様々な憶測が飛び交っている。やれ日本が秘密裏に作っていた兵器の暴発だの、他国のテロ行為だの、宇宙人の襲来etc・・・


実際は、突如として降臨した神を収祓するために熾輝の両親が我が子を魔術の核にして発動させた魔法が原因だった。


その結果、神は収祓する事が出来た。しかし、魔法の発動時、都市丸ごと一つを犠牲に全てを消失させたのだ。


「―――そして、発動した魔術の影響で空間が崩壊して、僕は魔界に堕ちた。その後の事は、さっきの映像のとおり・・・奴隷として魔界で過ごしていた僕は、叔父に救出されて人間界に戻って来た訳だけど、両親の行いに対して恨みを持った人たちに命を狙われる事になった。」


3人の少女は、黙って話しを聞いているが、皆が何と言っていいのか判らないと言うのが正直な所だろう。


熾輝も話をする以上、こういった反応が返ってくることは覚悟していた。


「そして、両親が発動させた魔法で失った物は、そこに住んでいた人々の命だけじゃなかった。」


そう言って、熾輝は己の右眼に取り付けていた眼帯を外した。


「「「っ!?」」」


彼女達の前で眼帯を外したのは初めてだったせいもあり、3人が熾輝の右眼を見た瞬間、固まってしまった。


その白く濁った瞳を見れば、誰もが少年の目に異常がある事を理解するだろう。


事件当初は視力を奪われ、光を感じる事すら出来なかった。しかし、命を救ってくれた夏羽と葵による6年の治療のおかげで、ボンヤリとだが光を感じる程度にまで回復していた。


「魔術発動の影響らしいけど、僕の右眼は視力を失い、そして・・・」


熾輝は言葉を切り、3人を見つめた。


その時の彼の表情は、何処か悲しそうであり、事実を在りのまま伝えるべきか、戸惑っているのか、中々声を出す事が出来なかった。しかし、一泊おいて覚悟を決めたのか、再び言葉を紡ぎだす。


「僕は、記憶と感情を失った。」


熾輝が告げた言葉にショックを覚えているのか、3人は何も言ってくる事は無かった。静寂が支配する部屋の中で、このまま、その場に留まる事が耐えきれなくなった熾輝は、外していた眼帯を付け直すと、無言でコテージを後にするのだった。



◇  ◇  ◇



翌日、林間学校が終了し、生徒たちはバスに乗って学校へと戻って来た。


起床してから、今までの間、咲耶達と話をしていない。昨夜のこともあり、熾輝も声を掛ける事が出来なかったのだ。


校庭に集められてから解散の指示が先生から出されると、生徒達は散り散りに帰路へと付いた。


校門を出る間際、咲耶達と目が合ったが、直ぐに逸らされてしまい、熾輝も逃げるように学校を後にしてしまう。


帰宅途中、熾輝の頭の中では、昨夜の出来事がグルグルと渦を巻いて巡っていたが、結局どうすれば良かったのか考えがまとまらないまま、マンションの近くまで来てしまった。


目の前の角を曲がれば自宅マンションは、もう目の前という所で、不意に熾輝の頭上に気配を感じ取った。


「なっ!?」


熾輝は両手に持っていた荷物から手を放すと、頭上から迫る脅威に対し、防御の体制を取ったと同時に重たい衝撃が腕に押し寄せる。


~っ!」


寸での所で防御に間に合ったが、完全に油断していたため、攻撃の威力を殺す事が出来ず、襲撃者の次なる一手に対して完全に後手に回ってしまった。


襲撃者は頭上からの攻撃に続き、熾輝の背後に着地すると同時に蹴りを放つ。


背後からの攻撃に対して防御する事が出来ず、背中の筋肉を締める事によってダメージを軽減させつつ、攻撃の勢いに逆らわずに自ら飛ばされる。


しかし、これでようやく相手との間合いが取れた事により、熾輝に僅かな余裕が生まれる。受け身を取りつつ態勢を立て直した熾輝の眼前に、先程の襲撃者が既に迫っていたが、落ち着いた動作で構えを取り、敵を正眼に捉える。


迫る敵は、覆面を付けており顔を覗う事は出来ないが、背丈から見て、おそらく自分と同い年くらいであると予想したが、今はそのような事を考えている余裕がない。


「ふっ!」

「っ!」


肉薄した敵の攻撃は、休む間も無く放たれるが、打点をずらす事により全ての攻撃を逸らしていく。しかし、敵の手数があまりにも多く、防ぐ事に手いっぱいの状況、更に相手は間合いなど、お構いなしに熾輝との距離を詰めて行く。


―――(くっ、接近戦がお望みか!)


相手から間合いを離そうとしても、常にピタリと付いて来て、回り込んでも変幻自在な動きで逆に予測不能な攻撃を放ってくる。


「だったら、これはどうだ!」

「っ!?」


相手が突っ込んでくる力に対し、自らも相手に突進を仕掛ける。


「ぐえっ!」


一撃を貰うつもりで放った技は、見事に敵の人中じんちゅうを捉え、突き出した肘は鳩尾に食い込み、襲撃者を吹き飛ばすと、敵はそのままコンクリートに沈んだ。


相手の攻撃と交差した際にコメカミを掠めたが、ダメージは殆ど無い。結局、初めに奇襲を仕掛けて来た2発以外は、まともな有効打を貰う事は無かったが、この襲撃者の戦い方には、どこか懐かしさを感じる。


未だ起き上がらない襲撃者に近づいて覆面を外そうと手を伸ばした熾輝は、またもや頭上からの気配を察知した。


―――(この気配は・・・)


一瞬、構えを取ろうとしたが、相手の気配を感じ取り、構えを取らずに迎える事にした。


「シキー!」


空から降って来たのは一人の少女だった。着地の事など考えていないのか、両手を広げて頭から熾輝へと向かって真っ逆さまに落ちてくる。


流石の熾輝も、少女のこの行動には驚いたのか、一瞬顔を強張らせ、落ちてくる少女を迎えるべく手を広げて上手くキャッチすると、落下の衝撃を殺すように、クルリと体を回転させて彼女を地面へ下ろした。


「シキー!シキシキシキシキー!遭いたかったわ!」


太陽のように爛々と喜ぶ彼女は、抱き付きながら飛び跳ねている。


「あぁ、僕もだよ、依琳イーリン。」


そんな彼女の姿に思わず微笑みながら熾輝は応えた。


次回は10月7日午前8時投稿予定です。

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