第八六話【林間学校Ⅴ】
キャンプ場の一角、コテージに戻って来た燕、そして、それを追ってきた咲耶と可憐は泣きながらの燕から事情を聴いていた。
「ひどい・・・酷い!酷すぎるよ!」
「咲耶ちゃん、落ち着いて。」
「でも!」
事情を聴いた咲耶は憤慨して、やり場のない怒りを表していた。
「一番辛いのは燕ちゃんですよ。」
「だけど・・・それでも、あんまりだよぉ。」
今も泣き続けている燕を目の前に、やるせない気持ちが込み上げてくる。
「ち、違うの、熾輝君は何も悪く、ない。・・・私が勝手に泣いているだけだから・・・」
「燕ちゃん。」
泣きじゃくる燕を抱き寄せる可憐、そんな彼女を見ていて黙ってはいられなかった。
「私、熾輝君の所に行ってくる!」
「まって、咲耶ちゃん!」
「止めないで!こんなの許せない!」
「でも―――「三人とも、ここから早く出るんだ!」」
今にもコテージから飛び出そうとした際に、目の前の扉が少年の手によって勢いよく開かれた。
「シキ、くん・・・っ!」
一瞬、燕と視線が交わるが、熾輝は思わずその視線を逸らしてしまう。
「ごめん、事情は後で話すから今は此処から―――」
「どうして・・・」
熾輝の言葉を遮ったのは咲耶だった。
「どうして、あんなに酷い事を言えるの?」
「・・・咲耶」
今までに見た事も無い彼女の様子に思わず息を飲んでしまう。その表情は悲しみと怒りが混ざり合ったように歪んでいた。
「熾輝君のことを私、誤解してた。・・・本当は優しい人だって思っていたのに、それなのに・・・」
「ごめん、その話は後で聞くから、今は此処から―――」
「まるで、心が無いみたいだよ。」
動揺・・・咲耶から放たれた言葉が力を持って熾輝の心に深々と突き刺さった。
今までに感じた事のない痛みが胸を締め付けているのが判る。しかし、その動揺が命取りになった。
先程まで捉えていた魔力の揺らぎ、それに警戒をしていた熾輝の集中力が完全に切れてしまったことで敵に隙を与えた。
「っ!しまっ!」
気が付いた時には遅かった。警戒を無くした一瞬の隙に魔術が発動され、一筋の光が迫る。
回避は出来ない、なぜなら目の前には咲耶達3人の少女が居る。
今の自分に出来る事を瞬時に判断して取った行動、それは―――
「きゃっ!」
咲耶を突き飛ばし、攻撃の余波を受けないようにする事だった。後ろへ倒れ込む合間、彼女の目の前には自分を突き飛ばした少年と、彼の胸元を光の矢が突き刺さる瞬間であった。
「~~っ、にげ、ろ」
瞬間、少年の胸を穿っていた光の矢から膨大な光が放たれ、室内を埋め尽くした。
「・・・・シキ、くん・・・・・・・え?」
光によって眩んだ目を強引にこじ開けた彼女達の視界に映った物は―――
「なに、・・・これ」
先程まで居たコテージの空間がガラリと変わり、周りにはうっそうと茂った見た事のない植物と赤黒い空を分厚い雲が覆ている。
その光景に驚いていると、隣から「そんな馬鹿な」という少年の声が聞こえて来た。
声の主に視線を向ければ、愕然とした表情の熾輝が立ち尽くしており、次に彼の口から出た言葉に、その場に居た少女達は耳を疑った。
「・・・魔界」
次回は9月26日午前8時投稿予定です。
 




