第七話
【五月女家】古来より、日本の霊的秩序、外敵からの防衛などを任としてきた一族であり、その才能は、一族の誰もが魔術・武術に優れており、その道に居る者で、五月女の名を知らぬ者は居ないと言われている。
また、五月女の名を世界に轟かせている要因は、他にもあり、直系の者だけが持つと言われている眼がその理由である。
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直系は、この二つの眼の何れかを稀に開眼させることがあり、開眼させるものは、天性の才能を持って生まれてくるものが大半である。
そんな五月女家の大広間には、数名の幹部(分家の代表)と一族先代当主が、一人の男を囲うように座り、会合を行っていた。
「もう一度言ってみろ!くそ爺!」
清十郎の怒声が屋敷中に響き渡り、その場に居た幹部たちは皆、冷や汗を流していた。
「何度も言わせるな、お前が連れてきた餓鬼を一族とは認めんし、しかるべき機関へと引き渡す。それが嫌なら始末を付けると言っておる。」
声だけは、平常を装ってはいるがこの男、先代当主の背中からは嫌な汗が流れっぱなしである。
「しかるべき機関だぁ⁉始末だと⁉」
「左様、あの餓鬼を一族が匿えば、要らぬ火の粉が降りかかる事は必至。ならば我々で始末をつけるか、しかるべき機関に引き渡す位しか利用価値はあるまい。」
「どっち道、熾輝に未来は無いじゃねぇか!お前は、自分の曾孫に死ねって言うのか⁉」
「ふん、儂は、あの餓鬼を曾孫だとは認めた覚えは一度も無いわい。ましてや、一族と縁を切った者の子供なんぞ、赤の他人じゃ。」
「テメェッ!お前じゃ話にならねぇ!親父は、当主は何処に居る!」
二人の会話に入ることが出来なかった幹部たちの一人が、ようやく話に入り、現在の当主について話を始めた。
「はっ!当主様は、この半年の間、病院で入院中です。現在も意識が戻らないままであります!」
「そういう事じゃ。だから、先代の儂が一族代表としてこの場に居る。」
「あぁ⁉当主は、まだ目を覚ましていないのか。」
「はい。依然、絶対安静の状態が続いておりまして、油断を許さない状況です。医者の話では、死んでいても可笑しくないとのことですが・・・・」
五月女家現当主【五月女勇吾】つまりは清十郎の父であり、熾輝の祖父に当たる男は、半年前、突如として現れたソレとの戦闘に参加していたが、その際、重症の深手を負い、それからずっと意識が戻っていないとの報告を受けた。
「わかったか、清十郎。勇吾の奴が居ない今は、儂が一族代表であり、儂の決定は絶対じゃ。いくら五柱の貴様と言えど、一族の決定を覆す権限までは無いのじゃ。」
「・・・親父が健在なら、熾輝を守ると言ったはずだ。」
「勇吾は、優しすぎるのじゃ。その甘さが一族をどのような危険に晒すのかを分かっておらん。儂から言わせれば、あ奴に一族代表は荷が重過ぎていた。」
「そういう親父だからこそ、当主に選ばれたんじゃないのか?どうなんだ、お前等!」
五月女家当主は、一族の幹部と直系達の選挙で決まる。
つまりは、この場に居る者達は皆、現当主を決める際、ほとんどの人間が勇吾こそ当主に相応しいと票を投じた者達なのである。
しかし、皆が顔を俯かせて何も答えられない。
「・・・はっ、ハハハハハ。つまりはそういう事か。お前ら全員で熾輝をどうするか決めていたって訳か。」
図星であるが故、誰も何も答えない。
今、下手な回答をすれば、いつ目の前の男の逆鱗に触れるか分からない。
答えの結果次第では、部屋の中が血の海になることは、必死であると皆が認識している。
しかし、その認識は間違いであり、先代当主が熾輝の処分について話をした時点で、既に逆鱗に触れていた。
ここまで、耐えたのは、後の熾輝を思っての事。だが、決定を変えるどころか、全員が熾輝の死を望んでいた事を知られた時点で、この場に居る者の運命は決まった。
「そぉか・・・よぉく分かった。」
「おお、わかってくれたか!」
何を勘違いしてしまったのか、先代は清十郎が自分たちの話に理解を示したのだと安堵し、それが余計に清十郎の逆鱗に振れた・・・いや、逆鱗を突き上げた。
「そもそも、五柱の任をほっぽり出して、あのような爆弾を持って帰ってきた時は、どうなることかと思ったぞ。」
瞬間、先程まで何も持っていなかった男の手の中には一振りの刀が握られ、ゆらりと立ち上がり、それを抜刀した。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオン!
部屋の天井と先代当主の背後の壁が一瞬にして塵となり、建物はミシミシと崩れ始めた。
「もういい、喋るな。お前等全員死ねっ!」
「ま、待て!清十郎!話を『黙れといっている。』ぎゃぁぁぁぁ!」
刀が目の前の老人の太ももに深々と突き刺さった。
「おい、老いぼれ、さっき親父が当主に向いていないと言っていたな?お前こそ何にも分かっていない。俺が魔界まで行って熾輝を連れ戻しに行った事について、何も考えなかったのか?」
「な、何を⁉」
「それ程あの子は、俺にとって大事な存在だっていう事だ。そこまでして助け出した子をお前は殺せと言ってきた。・・・親父だったら絶対に犯さないミスをお前はしたんだよ。」
「何を言う!お前は総司と!兄とは疎遠だったではないか!そんな兄の子を大事だと⁉」
「あぁ、大事だ。これから死ぬお前に話す義理は無いがな。」
そう言って、刀を太ももから抜き、ゆっくりと刀を振り上げた。
「お待ちください!」
刀は振り上げられたまま制止し、割り込んできた男によって清十郎は動きを止めた。
「清十郎様、怒りを治めて下さい。」
「どけ、和也。」
「どきません、ご自分が何をしているのか分かっているのですか?」
「その糞爺を殺す。」
「そんな事をすれば、立場が危ぶまれます。」
「知ったことか。」
「彼方の立場では無く、熾輝様の立場が危ぶまれると言っているのです‼」
和也と呼ばれた清十郎と同い年くらいの男は、幼少のころから清十郎の身の回りの世話をし、生活を共にしてきた分家の者である。
一族で清十郎に対し、対等に話ができるのは、父と彼ぐらいしかいない。
「清十郎様・・・いえ、清十郎!今一度言う、刀を納めろ!お前が馬鹿をしたせいで、熾輝様の敵が増えたらどうしてくれる⁉」
「片っ端から皆殺しにすればいいだけの話だ。俺は、あの子を守るためなら何でもするのは、お前が一番よく知っているだろ?」
「ふざけるな!熾輝様が歩む未来を血で汚すつもりか!」
「・・・。」
「なればこそ、大切だからこそ、子の未来を汚してはなりません。例え泥にまみれようと、何があろうと、この世界で生きていく以上は、恥も外聞も捨てて守るのです。それが熾輝様を魔界から連れ戻した彼方の責任です。どうか、今一度、ご再考ください。」
和也は地面に額を擦り付け、清十郎に懇願した。
「和也」
「はい。」
「すまなかった。許してくれ。」
「いえ、いつもの事ですから。」
その場に先程まで充満していた殺気が嘘のように消え去り、床には幹部たち数名と先代当主が清十郎の殺気によって気絶させられていた。
そんな現状に頭を悩ませていた和也は、一先ず誰かを呼びに行こうかとした時、一人の少女が部屋(倒壊した建物)に飛び込んできた。
「おとーさん!たいへん!助けて!」