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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【上】
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第七五話【炎の運動会Ⅰ】

連日、猛暑が続く今日、夏休みを前にして、熾輝が通う学校では、もうじき運動会が模様される。


そして、運動会の花形、クラス代表リレーの選手として選ばれた熾輝は、放課後、クラスメイトと練習を行っていたのだが・・・


「もっと早く走れよ!」

「ちょっと、やめなよ男子!」

「お前がもっと、頑張らないと、一位を狙えないだろ!」

「ゎ、わたし頑張ってるもん。」


早速、男子と女子の喧嘩が開始されてしまったのだ。


原因は、代表選手に選ばれた女子生徒の中で、一際足の遅い生徒がいたため、足の速い男子生徒が怒っているという状況だ。


因みに選手には咲耶と可憐も選ばれており、現在は喧嘩の仲裁に当たっている。


「お前だけ、皆の足を引っ張ってるんだよ!」

「アンタ達だって、他のクラスの選手より遅いでしょ!」

「みみみ、皆落ち着いて!」

「とりあえず、話し合いましょう!」


仲裁に当たっているが、まったく喧嘩を止める雰囲気では無い。


そもそも、熾輝のクラスには、運動系のクラブ活動をしている生徒が極端に少なく、逆に文科系のクラブ活動の生徒たちが多い。


足が遅いと責められている生徒も文科系のクラブに入っており、運動はどちらかと言えば不得意と記憶している。


それでも、クラスメイトの中では10番目に足が速いという理由で選ばれているのだ。


そうこう考えている内に、とうとう責められていた女子生徒は泣き始めてしまった。


これは、もう練習にはならないと思った時、一人の生徒が、遂にキレた。


「いい加減にしろっ‼」


クラス委員長の空閑遥斗である。


クラスメイトの中で、唯一親しくしている男子生徒の彼が、これほどまでに怒っている姿を今までに見たことがない。


彼に一括されたクラスメイト達は一斉に押し黙り、完全に委縮してしまっている。


その後、遥斗による説教が永遠1時間つづき、結局この日は、ろくな練習をすることが出来ずに下校時間となった。


下校途中、よく1時間も説教できるなぁ、と思っていたのは、喧嘩の仲裁すらせず、傍観していた熾輝だけが思っていた事である。



◇  ◇  ◇



翌日、熾輝は飼育当番のため、早めに学校へ登校した。


日直や飼育当番の者は、通常よりも早めに登校して、仕事を行う。


「ポリポリポリポリ」

「・・・。」

「ポリポリポリ」

「・・・。」


つぶらな瞳で、一心不乱に差し出したニンジンを食べるウサギ、そして、そのウサギを一心不乱に見つめている熾輝。


さぼっている訳ではない、既に掃除を終えて動物たちの餌を与えているのだ。


「ゕゎぃぃ。」

「今日の飼育当番って、熾輝君だったんだ。」

「っ!・・・おはよう。」

「おはよう。」


いつもの元気の良い声であいさつをして来た咲耶に対し、急に声を掛けられた事にビクッ!と驚いた熾輝は、ギギギという異音が聞こえてきそうな仕草で、首を彼女の方へ向けた。


「うさぎさん、可愛いね。」

「・・・別に。」

「熾輝君、動物好きなんだ。」

「・・・それ程でも。」

「熾輝君が可愛いって言ってるところ初めて聞いた。」

「・・・。」


熾輝のつぶやきをちゃっかり聞いていた咲耶は、笑いを堪えながら話をしているため、時折声の波が乱れている。


「そんなことより」と咳払いをした熾輝は、立ち上がって、咲耶の方へ体を向ける。


足元では、ウサギが「もっと、もっと!」と餌をねだっているいるため、熾輝の足に纏わりついている。


「咲耶は何で・・・体操服?」


何故こんなにも早く登校しているのか問おうとして、彼女の服装に視線が吸い寄せられた。


「リレーの練習、芽衣ちゃんから一緒に練習してほしいって頼まれたの。」

「めいちゃん?」

「小島さんだよぉ!小島芽衣ちゃん!」

「あぁ。」


そういえば、そんな名前だったっけと、クラスメイトの名前を思い出す。


学校に転校してきてから数ヶ月経つが、基本クラスメイトを苗字で呼ぶので、仲の良い者以外の名前をそれ程憶えていなかった。


校庭の方を見れば、昨日、足が遅いと男子生徒たちに責められていた小島芽衣、その隣には可憐、それに他の女子選手達が校舎から出てきている所だった。


「本当は、皆で練習した方が良いと思うんだけど、昨日の今日だから、男の子達に声を掛けづらくて。」

「そう、・・・だろうね。」


確かに昨日の喧嘩は、一応お互いに仲直りをしたが、その後はなんとなくギクシャクした感じがしていたのを思い出す。


「ねぇ、熾輝君も練習に参加してくれない?」


咲耶は、顔の前で手を合わせてお願いしてくる。


「・・・僕も男子だけど?」

「大丈夫、大丈夫、みんな本当は、仲良くやりたいって思っているから、熾輝君が練習に加わってくれたら、明日から他の男の子達も誘いやすくなるはず・・・かな?」


若干の希望的観測を含む考え方だが、これといって断る理由が無かったことから、了承することにした。


「職員室に飼育小屋のカギを返したら行くから、先に練習を始めていて。」

「うん!待っているね!」


お願いごとを聞いてくれた熾輝に向かって、満面の笑みを見せた咲耶は、校庭に集まっていた女子たちの元へと戻っていく。


途中、振り向きざまに手を振って転びそうになった彼女を見て、「本番前に怪我をしなければいいけど」と声を漏らした彼を、先程からエサをねだり続けているウサギだけが聞いていた。



◇  ◇  ◇



「腕を早く振って、歩幅も、もう少し広くしてみようか。」

「うん。」

「そうそう、あと足元を見ないで、前を常に意識して。」


女子達と合流した熾輝は、現在、芽衣とマンツーマンの練習を行っていた。


初めは、トラックを一周してからバトンパスまでの一連の流れを練習していたのだが、他の女子生徒と比べ、彼女の足は確かに遅かった。


そのため、現在は一連の練習よりも、彼女の基礎能力を鍛えるべきだと判断した結果、走りのフォームや体力向上を上げる事に集中する事にしたのだ。


並走する横で、息を荒げている彼女は、一生懸命にアドバイスを聞いて、悪い所を直そうとしている。が、基本文科系のクラブに加えて、インドア派な芽衣の体力は絶望的なまでに少ない。


「今は、速く走ろうとしなくてもいいから、走りのフォームと体力をつける事に集中しよう。」

「ゼェ・・・ゼェ・・・う、うん。」


リレーのルール上、選手9人はトラックを一周し、アンカーは3周を走らなければならない。


一周150メートル、普段体育の授業でも100メートルしか走っていない生徒たちにとって、この距離は、中々に長い距離だと言えるだろう。


そのため、体力を考えながら走らなければ、100メートルを切った時点で失速してしまう。


因みに芽衣は50メートル程で、ガクンと失速してしまうため、まずは150メートルを走れるだけの体力を身に付けなければならない。


練習を開始してから、適度に休憩をはさみ、ひたすら走り続ける。走らない事にはフォームも体力も身に着かない事から、苦しいだろうが仕方がない。


「ハァ、ハァ・・・ハァ」

「フォームも大分よくなっているよ。あとは、本番までに体力を付ける事と、どれだけタイムを縮められるかだね。」

「ハァ、・・・一位・・・とれるかな?」

「どうだろう、僕もリレーは初めてだから。」

「・・・そこは、嘘でも出来るって言うところだよ?」

「?」


机上の計算では、どうやったって1位になるには難しい。だが、彼女が何を期待して言ってきた言葉なのか、熾輝は小首を傾げて考え込む。


「こういうスポ魂ものでは、落ちこぼれチームが一丸になって優勝する流れがね―――」

「うん、息も整ったし、練習を再開しようか。」

「・・・はい。」


急に熱く語ろうとする芽衣をバッサリ切り捨てて練習を再開させる熾輝に、ガックシする彼女は、再び走り出す。


彼女が所属する漫画クラブでは、漫画を読んだり書いたりしている。


普段、クラスでは目立たない大人しく控え目な彼女は、時折、水を得た魚のように興奮して物語(妄想)を語り始める癖があるのだった。


この日、ひたすら走り続けた彼女達の練習は、予冷10分前に終わりを告げた。



◇  ◇  ◇



放課後、昨日と同様に練習が開始された。


今朝の自主練習は、代表選手の男子生徒も目撃しており、女子達の誘いにあっさりと乗ったことから、明日からの練習を一緒に行う運びとなった。


初日のギスギスした雰囲気が嘘のように解消され、咲耶が言っていた通り、皆、仲良く練習をやりたかったというのは、本当だったようだ。


それから5日程、クラス内で練習が続いたある日の体育授業、クラス代表リレーの練習試合が隣のクラスと行われた。


練習試合の結論から先に言うと、熾輝達のクラスは完敗した。


敗因としては、やはり選手層の厚さが、如実に表れた。


途中までは、熾輝のクラスがリードをしていたが、後半、相手クラスの陸上クラブやらサッカークラブやらの運動クラブの選手達が追い上げて、あっさりと追い抜かされてしまったのだ。


特にハッキリと判る程に突き放されたのは、第9走者の芽衣の順番であった。


最初に比べれば、目覚ましい成果と言えるタイムを叩きだしていたが、ここまで完膚なきまでに敗北を味わったクラスメイト達の心は、ポッキリと折られていた。



◇  ◇  ◇



練習終わりの帰り道、芽衣は一人トボトボと歩いていた。


傍から見ても元気が無いのは、誰が見ても一目でわかる。


彼女の頭の中にあるのは、クラス代表リレーの事ばかり。


「・・・はぁ」


その事を考えているだけで、彼女は先程からずっと溜息ばかり吐いている。


―――(やっぱり、私が足を引っ張っているよね。)


練習試合のとき、自分だけ明らかに距離を大きく離されてしまった。その事が彼女の今までの練習の成果を無意味な物だと思いこませていた。


クラスメイトは彼女を責めなかった。それは、彼女の頑張りを認めていたからに他ならない。


お日様が沈みかけた時間帯、運動会の練習が無ければ、もっと早くに帰宅しているのだが、練習で帰りが遅くなったため、下校時の風景がいつもと違っていた。


小学生よりも遅い帰宅時間になる中高生が所々に散見され、自分よりも背丈の大きい人を見ると、自然と体が強張る。


しかも、対向からはコギャル風な女子高生が歩いて来ている。


携帯電話を弄りながら歩いており、鞄にはなにやらストラップやバッジがジャラジャラとついている。


そのくせ肝心の鞄は、何も入っていないかのように、見事にペシャンとしている。


そんな女子高生と擦れ違ったとき、何やらカチャンと物が落ちる音がした。


芽衣が音のする方へと振り向くと、そこには先程の女子高生が鞄に付けていたと思われるバッジが落ちていた。


教えてあげた方が良いかと一瞬考え、直ぐにバッジを拾い、女子高生に声を掛けた。


「あの、落としましたよ。」

「ん?」

「こ、これ。」

「・・・あー!ありがとう♪全然気が付かなったよ。」


振り返った女子高生に恐る恐るバッジを差し出すと、意外にフレンドリーな態度に、芽衣の緊張が一気に霧散した。


「危ない、危ない、コレお気に入りだったんだ。」

「バッジ、集めているんですか?すごい数。」

「えへへ、可愛いでしょ?」


女子高生は受け取ったバッジを鞄に付け直すと、大量のバッジを芽衣に見せて来た。


しかし、どれもこれも知らないキャラクターのバッジばかりで、中には口からよだれ?の様な液体を垂らしているキャラクターもいる。・・・あまり可愛いとは思えない。


「はい、これ。」

「え?」


女子高生は、おもむろに鞄から取り出した物を芽衣に差し出してきた。


「お・れ・い♪受け取って。」

「あ、ありがとうございます。・・・なんですかコレ?」

「えっ?プロミスリング・・・知らない?」


差し出された物は、手造りえあろう組紐だった。なにやら幾何学模様が編み込まれている。


しかし、芽衣はそのプロミスリングとやらを知らないため、彼女の問いに対し、首を横に振って答える。


「うわぁ、ジェネレーションギャップというやつかしら?そういえば、最近の小学生はETも知らないって、誰かが言ってたっけ・・・」

「ET?」

「ううん、こっちの話。えっとね、これを手首に巻き付けるときに、お願い事をすると、なんと!願いが叶っちゃいまーす。」

「・・・。」


疑わしい者を視るかのような眼差しを向ける芽衣の視線に、「うっ、嘘じゃないよ?」と言いつくろっている女子高生は、「最近の小学生ってドライなのね。」等と呟きながら、少女の左手をとった。


「ささ、何か願い事をしてみて。」

「え!?急にそんな!」


戸惑う芽衣をよそに、女子高生はプロミスリングを少女の手首にまき始めた。


「あ、足が速くなりますように!クラス代表リレーで優勝できますように!」

「お、いいねぇ。じゃあ、その願い事が叶うように、お姉さんの念も込めておいてあげるね。」


そう言って、女子高生は「ぬぬぬぬぬ~。」と、ちょっとバカっぽい声を出して、パワーを送り始めた。


「・・・ありがとうございます。」

「これでよし!願い事が叶えば自然と紐が切れるらしいから。」

「お姉さんは、何か願い事叶いましたか?」


女子高生の手首を見ると、同じようなリングが3つ付けられているため、何か願い事をしているのだと、思い至った。


「今のところ、まだ一つも叶っていないわね。彼方の願い事が叶ったら、私の願い事も叶う気がするわ。」

「じゃあ、願い事が叶うように私も頑張らなきゃ!」

「うん、その意気よ☆お姉さんも応援しているから♪」


そう言って、女子高生は手を振って去って行った。


思いがけないプレゼントと、おまじないに元気づけられた少女は、明日からの練習も頑張ろうと気合を入れて、帰路に着いたのだった。




芽衣と判れた女子高生は、路地を曲がったところで、ある男に呼び止められた。


「あまり関心しないな。」

「あら、見ていたの?」


彼女の視線の先に居たのは、巌のような男子高校生だ。


「魔導書をあんな子供に与えるなど、どういうつもりだ?」

「私は、ちゃんと指示通りにやっているつもりよ。」

「主の命令は、駒として使えそうな人材を見定めてから与えろとの事だ。」

「うっさいわねぇ、私は私でちゃんと見定めてるっつーの。」


頬を膨らませて、文句なんか聞きたくないアピールをする女に対し、男は深い溜息をする。


「・・・あの子共には危険が無いのだな?」

「あるわけ無いでしょ。そんな危険な術式を私が渡すと思う?」

「お前には前科がある事を忘れるな。」

「わ、忘れてないわよ。そもそも、あの件に関しては、あの子が解決したんだから、別にいいでしょ!」

「偶然事件前に、偶然あの少年が気が付いて、偶然対処したのは、本当に運が良かっただけだ。もしも無関係な子供を巻き込んでいたのなら、主が直接出向く必要が出てくる。今の段階でソレは避けたい。」

「・・・。」


普段は無口なくせに、説教するときだけ口数が増える男にジト目を向ける女子高生は、何やら文句を言いたげだが、相手が正論を言ってくると、ぐうの音も出ない。


出来るといえば、


「あ、もうこんな時間、早く帰って宿題やらなきゃ。」


逃げる事だけであった。


男は再度、深く溜息をついて、女を追うように帰路に着いたのだった。


次回の投稿は8月12日 午前8時投稿予定です。

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