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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【上】
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第七四話【彼の怒り・彼女の困惑Ⅴ】

早朝、街の住人達が朝食をとっていたころ、ちょっとしたニュースが報道されていた。


『―――少年たちは、ストレス発散のために盗んできた動物を廃墟へ連れ込み、鉄パイプ等で痛めつけた後、殺していたと供述しており、犯行を素直に認めている模様です。』


ニュースの内容は、昨日、熾輝達が関わった少年達に関する事件だ。


あの後、熾輝は警察に通報するに当たって、葵に相談したところ、彼女の知り合いの警察官が動いてくれたらしい。


なお、事件に遭遇するに当たって、経緯を説明する関係上、可憐と行動していたことも当然話さなければならない。


彼女は、曲がりなりにも芸能人だ。事件とは無関係でも、それを面白がって書き立てるメディアは、必ず出てくる。そのため、葵の知り合いである警察官と話し合い、熾輝達の事情聴取は、保護者同伴で行うも、彼らの名前が表に出てくることが無いように取り計らってもらった。


因みに、熾輝は知らないが、警察関係者には乃木坂可憐の非公式ファンクラブのメンバーが居るため、そういった大事には決してならない。


「それにしても、まさかこんな大事になるとは思わなかったね。」

「全くです。でもチロルちゃんを救い出せた事だけは喜んで良いですよね?」


この件に関して、後から事情を聴いた燕と可憐。


しかし、チロル以外にも被害に遭った犬や猫がおり、その殆どが少年達によって、殺されており、生き残っていた動物たちは、保護団体が引き取ったが、身体の至る所に大きな損傷を受けていたため、素直に喜ぶ事が出来ない。


「なに言ってんの、喜ぶべきよ、例え救えなかった子達が居たとしても、救えた事を喜んであげないと、全部嘘になっちゃうじゃない。」


珍しく良い事を言うアリアに、場の面々が面食らった様な顔をしていると、それに気が付いたのか、アリアが「な、何よぉ」とジト目を熾輝に向けて来た。


「何で僕だけ?」と言いたい気持ちはあるが、今は、アリアの横で気落ちしている咲耶の事が気になっていた。


だが、霊視を得た彼女には、このような事は今後、何度だって起こると考えられるため、しっかりと、判らせておかねばならないと考えていた。


「咲耶、霊視を得てから、いきなり今回のような事件に遭遇したけど、ハッキリ言って、今後、今回以上に辛い霊を視る事は多くなる。」

「・・・。」


聞きようによっては、突き放す言い方、しかし、この場の誰もが熾輝に突っかかる事はしない。


それは、少年の瞳が、今まで見た事のない意志を持って訴えてきているのが伝わってきたからなのか、アリアですら彼の言葉を黙って聞いている。


だが、熾輝の言葉が聞こえているのかいないのか、咲耶は終始無言のままだ。


肩を軽く落として、熾輝は語り始める。


「除霊っていうのはさ、生きている人が、生きている人のために作った呪法なんだよ。」

「・・・呪法?」


唐突に、何の脈絡もなく話し始めた熾輝の言葉に、咲耶の意識が向いた。


「うん、そもそも除霊って、何を取り除くと思う?」

「それは、・・・上手く言えないけど、多分、悪い思いとか…」

「そう、思い。つまりは記憶だ。除霊によって魂から記憶を削り取り、真っ白な状態の魂は、全てを忘れ天上へ向かう。人間の勝手な理屈で魂の尊厳を奪う、まさに呪法・・・いや、外法とも呼べる。」

「そ、そんな。・・・じゃあ私がやった事は・・・」


熾輝の説明に対し、咲耶は思わず顔を上げて泣きそうな表情を向けてくる。


「大丈夫。」

「え?」

「咲耶が行ったのは除霊ではなく、大祓という方法で、魂が持つ汚れをうつすことで、彼らの未練は現世に置いて行く事が出来た。」

「でも、それだと、あの子達は、嫌な記憶を忘れないって事だよね?」

「そうだね、忘れない。忘れる事が出来ない―――」


だったら、自分は彼らを救ってあげる事が出来なかったのではと考えていたが、目の前の少年の言葉はまだ終わっていない。


「それでもさ、最後に彼らは『自分の為に泣いてくれる、判ってくれようとする女の子が居た。』って思えたから、浄化されて成仏出来たんだよ。もしも、形だけの大祓なんかやっても、きっと彼らの魂を完全に浄化できずに成仏も出来なかったと思う。」


熾輝の言葉に、咲耶はポロポロと涙を流し始める。


「だからさ、咲耶はちゃんと、あの子達全員を救ったって、胸を張るべきなんだ。アリアが言った通り、あの子達を救った咲耶がそれを否定したら、全部嘘になっちゃうよ。」


咲耶は、泣いた顔を手で覆いながら、首を横に振った。まるで、嘘にはしないと言いたいかのように。


「きっと、咲耶はこれからも沢山心を砕くと思う。救えなかったかもしれないという、その考え方を否定はしないし、無理に変えろとは言わない。もしも、霊視を捨てたいと言うのなら、力になる。」


彼女の考え方を否定しない。


熾輝の言葉は彼女の、彼女達の心にズンと響いてくるものがある。


そして、彼は続ける。


ただ覚えておいて、と――――


「大丈夫、心配しないで。・・・生き方は何も変わらない、受け止め方が変わるだけだよ。」

「・・・ぅ、」


熾輝の言葉に、今まで抑え込んできた感情が爆発したのか、咲耶は泣いた。


大声で泣いた。


人間の黒くて汚い一面を、あの様な形で見せつけられ、それでも、気を張りつめて、張りつめて・・・


だけど、心の中では誰かに助けて欲しかった。救ってほしかった。


そんな自分の弱い部分を、分厚い壁で覆い隠していたのに、目の前の少年は、見破ってくれた。


たった一言、少年が言ってくれた言葉が自分を救ってくれた。



その後、暫く泣いたあと、咲耶はしっかりとした面もちで、目の前の少年と視線を交わす。


「霊視は・・・捨てない。」


咲耶の言葉に、短く、ただ一言だけ「そう」と答える。


「だけど、私は多分、今回のような可哀想な霊が居たら助けてあげたい。」


少女の言葉をただ黙って聞く熾輝は、頷いて答える。


「だから熾輝君・・・私に教えて、幽霊さん達の事を!」

「・・・今の魔術の修行以外でも?きっと、今より厳しくなるよ?」


少しの間だけ沈黙した熾輝は、少女の覚悟を確かめるように問いかける。


「うん、色々考えたけど、受け止め方を変えても、私に力が無ければ、結局後悔するかもしれない。だから、そうならないためにも・・・お願いします!」


深々と頭を下げた少女を目の前に、熾輝は半分困った顔を浮かべたが、直ぐに表情を引き締める。


「わかった、いいよ。基本、魔術ベースにはなるけど、今の咲耶に最も合った形で魔法式の構築を考えよう。でも、どうしても、やむ負えない場合は、迷わずアリアの破邪の光を使うと約束してくれる?」


【破邪の光】それは、アリアが杖の形態時に放つ光、悪霊などの汚れを一気に浄化するこの技は、なるほど、破邪と呼ぶにふさわしいのかもしれない。ただ、この力は除霊に近い。

全ての汚れを問答無用に浄化するため、そこには強制的な救いはあれど、真の救いは存在しない。


熾輝の言葉の意味を理解したのか、咲耶は隣に座るアリアに視線を向けると、彼女は、優しく微笑みで答えてくれた。


「はい、約束します!」


咲耶の顔から迷いが消えたのか、いつもの向日葵のような笑顔を再び見せてくれた。


もう彼女の心の色に陰は無い。



◇  ◇  ◇



「本当によろしかったのですか?」

「何が?」


咲耶達が返った部屋では、双刃が話しかけてきた。


「あの下賤な輩について、彼女達に何も話していないではないですか。」

「あぁ、その事か。」


下賤な輩、それは、先日の事件の犯人である学生3人の事。


実は、あの後、彼らは家庭裁判所に送られたが、全員が保護観察にもならず、不処分とされていた。


彼等の年齢的にも十分構成も可能であり、初犯というのも大きく関係しているらしい。


「正直、双刃は今回の処分には憤りを隠せません。未成年でも物の分別は持っているはず、にも関わらずあのような沙汰は、あんまりです。あれでは、彼らに殺された犬猫や、家族も納得できるハズがありません。」


今回の法的機関の判決に思うところがあるのか、双刃は拳を強く握って、主にその憤りを吐露していた。


「僕も彼らをこのまま許すつもりはないよ。」

「それはどういう・・・っ!」


そういう意味かと聞きかけていた双刃は、ハッ!として「お礼参りですね!」という考えに行きつき、何処からか取り出した小太刀を研ぎ始めた。


「うん、違うから、とりあえずソレしまおう?」

「え?では、どうするのです?」


残念です。と言いたげな双刃は、渋々と小太刀を袖の下にしまうと、再び主に視線を向けた。


「・・・まぁ、首輪はハメたし、鎖にも繋いだから、彼らはもう二度と良からぬことは出来ないよ。」


苦笑しながら、外を見れば、もう日が登りきり、間もなく昼を迎えようとしていた。


「そろそろ先生が帰ってくるころだ。双刃、昼ご飯の準備を手伝って。」

「は、はい!」


熾輝の言った意味をイマイチ理解する事が出来なかった双刃だったが、おそらく彼等が二度と同じ事を繰り返さないように、手を打っていたのだと思い至り、彼の手伝いを始めるのだった。



◇  ◇  ◇



「うわあああああ!」


深夜、ある一般家庭の一人息子は、絶叫と共に目を覚ました。


「どうした!?」


叫び声を聞いた父親が少年の部屋へ飛び込んでくる。


「痛い!痛い!やめろ!来るなあああ!」


少年は、何かに怯えるように部屋の隅へと四つん這いで逃げていた。


あれから、数日が経った。


あの事件以降、彼らは毎晩、同じ夢に苦しめられていた。


夢の中では自分達が動物になり、自身がしてきた悪行と同じ事をされるというもの。


ただの夢、それは判っている。しかし、夢に見る度に、心に刻まれた恐怖が甦り、精神を蝕んでいく。


身体には幻痛が走り、それが恐怖を助長している。


それが、彼らが受けた【呪い】による効果、対象の心に恐怖を刻み付け、己の所業を悪夢と幻痛により確認させる。


対象が、心から悔い改めることによって、呪いは沈静化するが、第三者が解呪しない限り、呪いが消える事は無い。また、犯罪など邪な行いをしようとした時、呪いは強力に発動し、その場で幻覚幻痛が対象者を襲う。


熾輝特製の呪法によって、彼らは視えない首輪と鎖に繋がれた。


まるで獣のように・・・

次回投稿は8月9日午前8時投稿予定です。

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