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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【上】
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第六〇話【神様の依頼Ⅶ】

少女達の視線の先に群がっていた悪霊が、デパートの外に出て、ゆっくりとビルの屋上を目指し始める。


「悪霊があんなに。」


アリアはおびただしい悪霊の数に思わずその美しい顔を引きつらせた。


「ゆ、幽霊なの?でもどうして、私にも見えるの?」

「私にも見えています。」


咲耶と可憐に霊視の力は備わっていない。だが、少女二人は目の前にいる悪霊がはっきりと見えていた。


「おそらく、この空間が悪霊たちの姿をさらけ出しているのでしょう。本来、妖魔のような霊体ですら、霊視能力を持たない者には認識出来ないハズ。しかし、今までお二人は、位相空間でならそれを目視出来ていたと言う事は、この空間の作用によるところが大きいと考えられます。」


双刃の予想は、正しかった。実際、この空間でなら彼女たちは妖魔を認識出来ており、何度も対峙できていたのだから。


「ど、どうしよう?」


慌てふためく咲耶を見た双刃は、主である熾輝に視線を向けるが、未だ思考の海に潜りこんでいるのか、まったく微動だにしない。


―――――――おそらく、頭の片隅では状況を把握しているのでしょうが、こうなった熾輝様を引き戻すには中々大変なんですよね。…………いいでしょう、ここは双刃にお任せしていただいたと判断いたします。


殿しんがりは、私が勤めましょう。咲耶殿は、打ち漏らした悪霊をお願いします。」

「わ、わかりました。」


どこか不安の色が残る表情を見ると、なんとも心もとないと思ってしまうが、しかし、強く握られた手を見た双刃は、少女の心根を垣間見た気がして思わず苦笑してしまう。


「では、行きます。」


踵を返した双刃は、そのままビルから飛び降りると、悪霊の群れへと突っ込んでいった。



双刃が悪霊の群れ向かった後の屋上では、残された咲耶達が現状をするのかを話し合っていた。


「とりあえず、私は撤退をした方が良いと思う。」

「でも、それだと明日にはデパートが大変な事になっちゃうんでしょ?」

「それは………でも、現実問題いまの私たちに出来ることはないよ。」

「そうかもしれないけど、あんな事が起きると分かっていて、なにも出来ないなんて……」


咲耶の脳裏に未来視の力によって見せられた未来の風景がぶり返す。それを思い出すだけで、酷い既視感に襲われて今にも吐いてしまいたくなるような感覚に襲われる。


「咲耶、私も出来ることならどうにかしたいと思っている。でも、人には出来る事と出来ない事があるんだ。」

「それでも私は、………」


咲耶は、アリアの言っている事が頭では理解出来ている。しかし、理解できるからといって納得できるかは別問題なんだ。


今を逃せば、きっとあの術式は多くの人や建物を破壊してしまう。


そうさせないために自分達はここへやってきたのに、その力が無い事が悔しかった。


「咲耶ちゃん、悪霊がこっちに来ます!」


俯く咲耶をよそに、双刃が打ち漏らした悪霊が数体ほど屋上へと向かってきたのだ。


「っ!今は話し合っている暇はなさそうね。やるよ、咲耶!」

「……はい!」


黄金の光がアリアを包み、大杖の姿に変化したアリアを手にした咲耶は、魔力を流し込む。


屋上へ向かってくる悪霊へ向けて、降魔の光が悪霊に降り注ぎ、次々と悪霊達が払われていく。


そんな光景を目にした燕は一人、目を丸くしていた。


「嘘、アリアさんて普通の式神だと思ってた。」


大杖へと形を変えたアリアの姿に驚きを隠せず、燕が今も悪霊を払っている咲耶達をみて口をぽかんと開けている。


「アリアさんは知性を持った武器という存在らしいのですが、詳しくは解明されていないと熾輝君が言っていました。」

「へー、じゃあコマさん達とは少し違うんだ。」


二人がそのような会話をしている最中も、一匹また一匹とビルに近づく悪霊をほふっていく咲耶であったが、次第に打ち漏らしの数が多くなってきている。


ビルの下に視線を向けて見れば、最初こそ群がって双刃を襲っていた悪霊達であったが、今は、群れを拡散させており、そのせいで一匹一匹を倒すことに少なくないタイムロスを強いられている双刃の姿があった。


そして、拡散した悪霊達の多くが屋上へと昇り始めてしまったのだ。


『くっ、一匹一匹は大した悪霊じゃないけど、数が多すぎる。』


「ど、どうしようアリア、このままだと、とてもさばき切れないよ。」


迫る悪霊達を近づけまいと、咲耶も攻撃の速度を上げ、どうにか倒してはいるが、それでも相手の物量が多すぎるため、手数が間に合っていない。


視界の端では、何の力も持たない咲耶と可憐が居る。もしも、悪霊が少女達を襲えば間違いなく何らかのダメージを追ってしまう事は咲耶にも容易く想像できた。


そんな事を想像していた矢先、咲耶が迎え撃っていたビルの反対側から突如、群れになった黒い影が立ち昇ったのだ。


「っ!?可憐ちゃん!燕ちゃん!後ろ!」

「「っ!」」


不意打ちといっていい事態に声すら出す余裕が無い二人は、迫る悪霊を背にして、逃げるように走り始めた。


「二人に手を出さないで!」


振り返りざまに咲耶が、群れて襲い掛かる悪霊達へ向けて降魔の光を浴びせる。


瞬く間に払われていく悪霊だったが、やはり数が多すぎるせいで、その大部分が除霊できず、今も二人に迫っている。


『咲耶!後ろ!』

「っ!」


二人に意識がいった分、デパート側から迫る悪霊を疎かにしてしまい、今度は咲耶が窮地に立たされた。


振り返ってビルに押し寄せる黒い影達を滅しながら、視界の端では二人の少女が今も悪霊に襲われている。


そして、一人の少女が足をもつれさせて転倒した。


「燕ちゃん!」


可憐は自身の後ろで転倒した燕を助けようと、身を返して駆けだす。


「来ちゃ駄目!」


戻ってくる友人に来るなと制止の声を掛けるが、少女は聞く耳を持たずに、駆け寄ってきた。


「……どうして?」

「……。」


少女の質問に答えず、可憐は優しく微笑み返すが、その表情には目の前の恐怖に対する怯えの色が僅かに覗えた。


既に周りを囲まれ、退路がない現状で、少女たちは孤立無援になってしまった。


―――――お母さん、真白様、コマさん、誰か助けて!


そんな状況を視界に捉えていた咲耶は、先程から鳴りを潜めていた少年の名を叫ぶ。


「熾輝君!お願い‼」


呼ばれた少年は、先程から佇んでいたハズの場所には既にその姿が無く、その代り悪霊が群がる黒い影の中から返事が返ってくる。


「分かっている。」


特に大きな声を出した訳でもないのに、咲耶の耳には少年の声が自然と聞こえてきた。


そして、今まさに悪霊の毒牙が少女達に届こうとした矢先、黒い影の中から飛び出してきた少年が少女たちの前に迫っていた悪霊をその腕の一薙ぎで打ち払った。


少女達を救った少年の背中はとても大きく、それでいて雄々しいその姿に二人の少女は魅了されていた。


「ごめん、助けるのが遅れた。」


いつもどおりの平坦な口調だが、それでも彼女たちのピンチを救った少年の姿には何処か安心感を抱かせるものがある。


「双刃、咲耶一旦戻ってくれ。」


熾輝は身に纏うオーラを広げ、少女二人がすっぽりと入るくらいまで拡張させる事によって、悪霊を近づけられなくすると、今も戦い続けている咲耶と双刃に声を掛けた。


「う、うん!」

『承知しました。』


咲耶が返事をすると、続けて遠く離れた双刃から念話で直接熾輝へと声が届く。


「二人とも大丈夫だった?」


「熾輝様、戻りました。」


二人に指示を出して間もなく、咲耶と双刃が熾輝の元に戻ってきた。


熾輝は一つ咳をすると、仕切り直すためにメンバーが全員いる事を確認すると、呪符を取り出し、ビルの四方へと呪符を放った。


「まずは、この悪霊達を近づけさせないようにしよう。」


放たれた呪符が屋上の四隅でピタリと止まると、熾輝は目を瞑り瞑想を開始する。


すると、4枚の呪符が呼応するかのように柔らかい光を放ち始め、呪符を起点に結ばれた線が浮かび上がり、結ばれ一本の線が光を放ちながら四角形の中心に向かって集中する。


そして出来上がったのは、四角錐状の結界だった。


「これなら、外にいる低級の悪霊なら入って来れない。それと……みんなごめん、悪霊の接近には気が付いていたのだけど、助けるのが遅れた。」


「えっと、……二人が無事ならいいけど。」


『それよりも、この悪霊の数はおかしいわよ。何でこんなにも悪霊が溢れてきているの。』


「そうだよ。これじゃあ、デパートに近づくことさえ出来ない。」


可憐と燕を放置していた事を特に責める事はせずに、咲耶とアリアが攻めあぐねている

現状に頭を悩ませている。


「ここは、鬼門だから悪霊がどんどん数を増やしているんだ。」


「きもん?」


「簡単にいうと、悪い気が入り込んでくる場所だ。」


「その鬼門のせいで、悪霊さん達が増え続けているの?」


「うん。でも今は結界でこの場所は守られているから悪霊のことは無視してもいい。」


熾輝が言ったとおり、結界の外にいる悪霊は、結界内には入って来れないでいる。ましてや、結界に触れた悪霊達は、片っ端等から消滅していく姿が内側からだとよくわかる。


「これって、熾輝君の魔術?」


「………そんな感じだ。」


「え?」


「そんな事より―――」


熾輝は、魔術を使えない。その事実を知らない咲耶達は現在熾輝が張っている結界を魔術だと思っているが、実際は咲耶達が使っている魔術とは大きく異なっている事を彼自身は特に言う必要が無い事だと判断しているため、敢えて説明せずに話を続ける。


爆発術式ボムの攻略法がわかった。」


「本当!?」


「うん、難しく考える必要はなかったんだ。現実の爆弾処理と同じやり方たで爆発術式ボムを攻略しようと思う。」


「?………えっと、爆弾を解体するみたいに術式を解体するのは無理なんじゃ………。」


「いや、そんな高度な技術は必要ない。」


「じゃあどうするの?」


「爆弾を処分するのに最も確実な方法って何だと思う?」


「え?それはやっぱり分解する事でしょ?」


咲耶の中では、ドラマなどで主人公が爆弾を解体する際、赤と青の銅線のどちらを切るかで迷っているシーンが浮かび上がっているが、それはあくまでも爆弾解除の方法だ。


「違う、正解は―――――――――。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



『まったく、こんな方法で爆発術式ボムを無力化しようだなんて。』


「でも、話を聞いてみて、あ~なるほどなって思ったよ。」


咲耶とアリアは、現在ビルの屋上から離れて熾輝に頼まれたとある作業を行っていた。

作業をする片手間、二人は屋上で話し合っていた事について花を咲かせていた。


『むむ、それはそうだけど、でも熾輝ってば、可憐の話を聞いた後、直ぐに思いついたって言ってたわよ!』


「ふふ。」


『な、何よ咲耶、急に笑って。』


「ゴメン、でもアリア、熾輝君のこと名前で呼んだから。今まではアイツとかアンタって言ってたのに。」


『うっ、それは、私も熾輝のことを少しは認めたからで………』


「うん。私も熾輝君の事をすごいと思うよ。爆発術式ボムの無力化を考えてからもその後の事もちゃんと考えていたんだね。」


『まぁ確かにそうね。………咲耶、ここはこれで終わりよ。』


「はーい。」


アリアの作業終了の合図と共に、咲耶は術式を発動させて次のポイントへと飛んで行った。


文字通り、空を飛んでだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


場所は変わって、咲耶達が熾輝に頼まれた作業をしていたころ、当の本人は、ビルの屋上に居た。


しかし、ビルの屋上に居るが、それは先程まで彼がいたビルとは違う建物の屋上である。


そこで彼が行っていることは、悪霊の群れを引き寄せて片っ端等から滅することだった。


連続で放たれる拳が悪霊に当たる度に悪霊は、払われて虚空へと消えていき、度重なる連撃によりその数を減らしていく悪霊たち。


しかし、悪霊も多少は知性を有しているのか、熾輝の死角に回り込んだ数体の魑魅魍魎が一斉に襲い掛かる。


だが、荒ぶる気を有する悪霊の気配に日頃から気配察知の鍛練を怠っていない熾輝が気が付かないはずも無く、あっさりと躱わされ、代わりに彼らを滅する力を持った攻撃が放たれる。


………こうして聞いている分には、いかにも熾輝が無双している風にも聞こえるが、実際は、スパーリングの要領で身体を動かしているだけなのだ。


本来、熾輝が動き回って悪霊に攻撃を当てる必要もない。


なぜなら、熾輝程度のオーラでも、目の前にいるおびただしい悪霊は、触れただけで消滅してしまうのだ。


そもそも悪霊といっても、その個体差には大きな差があり、低級・中級・上級と格付けされている。


低級は、抵抗力のない者に憑りついた場合、寒気や疲労感といった風邪に似た症状を発現させる。


だから先程のように可憐や燕が低級の悪霊に憑かれた程度では、別に大した事にはならず、熾輝であれば、あっさりと払う事が出来てしまうのだ。


だから、熾輝がこの空間にやってきた時、低級の悪霊の気配を察知していて無視していたのは、害悪にならないと判断したからなのだ。


また、中級・上級といった悪霊は、低級のように動き回ったりはせず、一箇所に留まるタイプが殆どで、有名な物は地縛霊と呼ばれる部類である。


そして、悪霊などの負のエネルギーを持った魑魅魍魎が集まって出来た存在が妖魔と言われている。


そして、また一匹、熾輝の必殺の一撃(ただの正拳突き)によって、悪霊が消滅したのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


現在、隣接するビルに熾輝がおとりとなって、悪霊達を引き付けている状況を少女二人が、高みから見物していた。


一人は乃木坂可憐、熾輝の戦う姿を見つつ、今は別行動中の友人の心配をしている人気子役である。


そしてもう一人は細川燕、魔術やオーラを扱えないが、幽霊などの霊体を視認出来る霊視能力をもった法隆神社の巫女である。


燕は、先程から隣のビルで戦う熾輝の姿を紅潮した顔でジッと見つめていた。


――――なんだろう、胸が凄くドキドキしてる。私、なんか変?


悪霊に襲われ、もう駄目かと思った矢先、そのピンチを救ってくれた熾輝の背中を見た時から、燕の視線は熾輝に釘づけとなっていた。


もっとも、そのような状況に陥るまで気が付かなかったという事実は、彼女も分かっているのだろうけど、そんな事実は、彼女の脳に掛かったピンクの靄が、もはや無かった事にさせつつあった。


そんな燕の姿を横目で見ていた可憐は、「熾輝君、罪な男性ヒトね。」と思いつつも、なんだかんだで、友人二人の心配だけはしていた。


そんな時、


「二人とも、ただいま!」


咲耶の明るい声が可憐の耳に届いた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


上空に打ち上げられた魔力弾が眩く発光をして、隣のビルで悪霊を引き付けていた熾輝の目にも届いた。


「熾輝様、撤退の合図です。」


「わかった。」


発光する魔力弾を確認した熾輝は、ビルの端へと走り出すと、そのまま勢いを殺すことなく跳躍して見せた。


ビルとビルの間隔は約30メートル、いかにオーラで強化した熾輝の跳躍でも最長で10メートルが限界のはずだが、そこは、彼の式神である双刃が浮遊能力で補助をすることで、距離を稼ぐ事ができた。


結界内に入った熾輝と合流を果たした咲耶は準備が整った事を告げて、作戦が開始される。


「咲耶、ターゲットはさっきの場所から動いた気配はない。やっぱり、何らかの制約で場所の移動は出来ないみたいだね。」


双眼鏡を覗き込んだ熾輝が爆発術式ボムの状況を咲耶に報告した事により、少女が握る相棒に魔力が注がれ始めた。


「威力はそんなに気にしなくてもいい、一発当たればそれでおしまいだ。」


「わかった。」


いつになく力の入った声に、一瞬緊張でもしているのかと、少女の方を振り向けば、その瞳からは力強い意志を感じさせられた。


――――――どうやら、問題なさそうだな。


咲耶の状態を確認した熾輝は、再び双眼鏡で対象を覗き込み、ゆっくりと左手を上げた。


そして、ハンドサインで砲撃の合図を出したと同時に展開された術式から一発の魔力弾が放たれ、爆発術式ボムに吸い寄せられるように着弾する。


「着弾、術式起動。」


「はいっ!」


魔力弾を当てられた爆発術式ボムは、明らかに異常な暴走と思える程、魔力の流れを乱し、爆発する直前、核となる妖魔の断末魔を熾輝は確かに聞いた。


瞬間、デパートの内部から炎が立ち上り、窓ガラスが次々と砕け、次いで建物自体が崩壊を始めた。


爆発の衝撃は、デパートだけに留まらず、周囲の建物を巻き込み、その余波が熾輝達が居るビルまで届くかと思いきや、咲耶があらかじめ展開していた術式が爆発の衝撃をある程度まで抑え込み、周囲の建物も無事とまでは行かないまでも、倒壊せずにその形を残していた。


熾輝は、あらかじめ咲耶に防御の術式を各所に展開させ、いつでも発動できるように準備をさせていたのだ。


その理由としては、万が一、爆発術式ボムの威力が未来視の物とは異なり、大きい物だった場合、現在彼等が居るビルですら巻き込まれる可能性があり、それを防ぐため、爆発の威力が拡散し、尚且つ上方へと逃げるように防御術式を設置させたのだ。


「……うまくいったね。」


「ああ、爆発物の処理は、実際に爆弾を爆発させることが有効手段だからね。」


そう、熾輝が考え付いた対処法とは、わざと爆発術式を発動させることだった。


これは、実際の爆発物の処理と同様で、爆発物の威力や規模が分かっている物は、安全地帯で爆発させるのがセオリーとなっている。


咲耶がテレビで見ているような状況は、非情に稀なケースで、爆弾の持ち運びが困難な場合のみ、その場で解体作業を行うという物なのだ。


しかし、ドラマの演出上そういったシーンをよく目にする彼女たちが通常の爆発物処理の方法をしるはずも無く、白影に教わった熾輝だからこそ、その対処法を思いついたと言っていいだろう。


「咲耶、術式が露出した。もう封印出来るはずだよ。」


「うん。まかせて!」


咲耶は、術式の回収のため、杖の先端を標的に向け、トリガーを引く。


―――――今回は、たまたま先に状況を知ることが出来たけど、次も上手くいくとは限らない。この先、どんな術式があるのかは分からないけど、いずれも秘術とされる術式だ、油断が命取りになるかもしれない。


魔法式の収拾をする咲耶の横で、熾輝は一人、今後の収集活動の危うさを危惧していた。


そして、完全に封印作業を終えた少年少女達は、位相空間から現実空間へと帰っていったのだった。



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