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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【上】
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第五九話【神様の依頼Ⅵ】

ローリーの魔導書には、セーフティーと呼ばれる保護術式が組み込まれている。


その術式は、万が一魔導書が暴走した際、魔導書と術者を異相空間に閉じ込めて周囲に被害が出ないようにする仕組みだ。


以前、熾輝達が水難事故を引き起こしていた魔導書を収拾する際に空間移動させらたのもその術式によるものだ。


しかし、魔導書の中身が各所に散らばった事により、セーフティーの術式に破損が生じ、一定量の力を蓄えた魔導書が異相空間から抜け出す事によって、魔導書は引き起こされていた。


「―――つまり、魔導書が事件を起こす前に異相空間で対処できれば、現実の世界に被害を出さずに済むと言う事だ。」


熾輝の説明を大方理解した面々は、驚いた表情を浮かべている。


だが、


「だけど、魔導書が存在する異相空間に行くための術式なんて、私は知らないわよ?」


そう、アリアはローリーの魔導書についての知識はあるが、だからといって魔導書の術式については理解していない。せいぜいが、どの様な術式があって、その効果はどういったものか程度なのだ。


「それについては、問題ありません。」


そう言った熾輝は、咲耶へと視線を移す。


「咲耶、教えた術式は頭に入っているかな?」


「えっと、うん。大丈夫だよ。」


ドギマギとした咲耶の返事にいささか不安を感じるが、早朝の練習を見る限り、自分が補助をすれば問題なさそうだと判断する。


「ちょっと、待ってよ。咲耶に教えていた術式ってまさか、」


「そう、時空間魔法ディメンションです。」


「……アンタ、本当に一体何者なの?」


アリアは誰にも聞こえない声で呟くが、その声は熾輝には届いていない。


そんなアリアの心情を知ってか知らずか、熾輝は次の説明に入る。


「術式発動後、僕たちは今と同じ場所の異なる時空に移動する。デパート内で術式を発動させなかった理由は、万が一敵の眼前に僕達が移動した場合、間違いなく攻撃されるからだ。」


「それって、3日後を待たずに爆発するってこと?」


「その可能性は大いにあり得る。そうなった場合、対処するのは難しい。最悪の場合、僕たちは死んでしまうからね。」


「なるほど、だから敢えて距離をとったビルの屋上まで来たと言う事ですね。」


熾輝の説明に一同が理解を示した所で、熾輝が咲耶に指示を飛ばす。


「それじゃあ咲耶、術式を展開してくれ。効果範囲は、デパートを中心にこのビルまでだ。フューチャーで見た風景では、このビルは倒壊していなかったから、威力圏外だと思ってもいいはずだ。」


「分かった。」


そう言って、咲耶はアリアに視線を向けると、若干肩を落とした彼女の身体は光を放ち、杖の姿に変わるとスッポリと咲耶の手の中に納まった。


「じゃあ、行きます!」


アリアを手にした咲耶が瞑想をするように目を閉じて深呼吸をする。


すると、咲耶を中心に大規模な術式が展開した。


術式に光が宿り、その光は次第に光量を増してゆき、臨界点まで達した所で、術式が起動する。


時空間魔法ディメンション


魔法名と共に4人の視界が一瞬だけ揺らぐ。


「……成功だ。」


セピア色の風景を見渡した熾輝が、魔術の成功を宣言する。


今、熾輝達が居る空間から人の気配が消え、その代り、異質な魔力の気配がデパート内から漂っている。


そして、気配は一つでは無い事に熾輝は瞬時に感じ取った。


「凄い、今まで一方的に引きずり込まれるだけだった空間に、こっちから干渉しちゃった。」


今まで魔導書の回収をしてきた咲耶は、目の前の現実に自分の認識が追いついていないのか、術を発動させた本人ですら、驚いている。


「凄い何ていうレベルじゃない。時空間魔術ディメンションは、本来秘術に分類される術式よ。それこそ現代の魔術師でこの魔術を使いこなせる奴が何人いるかなんて、それこそ数が知れているわ。」


「そこは、咲耶の才能に掛けるしかなかったけどね。実際、術式事態はその気になれば、僕みたいな子供でも調べられる程有名な物が多く存在する。」


術式を知っていても、それを使えるかどうかは術者の資質に大きく左右される。


今回のように、熾輝が伝授した術式を十全に発揮できたのは、咲耶の才能がそれ程優れていた事を指し示す。


「えっと、私はよく分からないんだけど、ここって、さっきとは違う場所なの?」


「ええ、現実世界とは異なる空間、位相空間という場所らしいのですけど、詳しくは私も良く分かりません。」


燕は突然、風景が変わってしまった事に驚いているが、それでもパニックに陥るような事はなかった。


ただ、その目に映る好奇心の光だけが熾輝は気がかりであったが、それよりも今は他にやるべきことがある。


「説明は、後ででも出来るから、取りあえずは、対象の確認をしよう。」


熾輝は、バックパックから双眼鏡を取り出し、デパートを視界に捉える。


未来視で見た映像では、デパートの北側に位置する広間に爆発ボムが現れたことから、期待の意味も込めて、デパートの北に位置するビルの屋上に陣取り、その様子が覗えないかと双眼鏡を覗き見た訳だが・・・


「―――期待通りで何よりだ。」


双眼鏡から目を離し、咲耶、アリアへと順番に双眼鏡を渡して対象を確認させる。


「未来視で見た爆発ボムの本体より、いささか小さい気はするけど、それでも十分威力がありそうだな。」


「・・・正直言って、かなり不味い状況よ。」


爆発ボム術式を唯一知るアリアは、遠目からだが、その膨れ上がった魔力量を目にして、かなり険しい顔をしている。


「多分だけど、あと一日もあれば、ここの空間を破って外に出る事は出来る。」


「そんな!未来視では、あと三日あるはずよ。」


アリアの答えに対して、燕は焦った声を上げ、咲耶と可憐も同様に動揺しているが、熾輝は件の術式を見てアリアと同じ感想を持っていたことから、驚きはしなかった。


「未来視も100%の予知は出来ない。だけど、前もって起きる事が分かっただけでも幸いだ。」


「でも、結局、どうやって対処すればいいかは、まだ決まっていないよね?」


咲耶は、目の前の術式をどのように封印するかを全く想像できず、不安そうな表情を浮かべている。


「凍らせるか、魔力を吸収する他に方法は無いのでしょうか?」


「そうよ、あと一日であの爆発物は、外に出ちゃうんでしょ?」


「ん~、あとは術式に直接干渉して起動させないようにするくらいかな。……ゴメン、言ってはみたけど、これは現実的に無理があるわ。」


「どうして?」


「それは―――」


アリアの言う干渉とは、起動中の魔法式に他の術者が介入する事で、魔法式の妨害や遅延、無効化を行う技術の事である。


しかし、この技術にはいくつかの条件が必要になってくる。


一つは、被術者の魔力の波長と妨害者の波長を合わせる高度な技術が必要であること。


そして、発動中の術式を妨害者が把握していること。



「―――だから咲耶には、というか他の誰にもこの方法は実行できないわ。そもそもローリーの書の魔術の内容なんて、開発者である本人の他に誰も把握してないのよ。」


アリアの説明を聞いて、一同は肩を落として、再度困り顔を浮かべてしまう。


「困りましたね。これがドラマとかなら爆弾の解体をして解決出来るのでしょうけど、魔法となると、話が別ですね。」


「爆弾の解体か………。」


「いえ、あくまでもテレビの話であって、現実はそう簡単では無い事は分かっています。」


可憐が場の空気を少しでも変えられればと思い戯れ程度に言った言葉に対し、熾輝が妙な食いつきを見せたため、素人である可憐が余計な事を言って、混乱させてしまったのではないかと、慌てている横で、熾輝が深く思考を開始した。


「あの、聞いていますか?」


「熾輝君?えっと、『お待ちください。』っ!?」


思案する熾輝に声を掛けていた2人に声を掛けたのは、虚空から現れた彼の式神である双刃だった。


「熾輝様には、何か思うところがあるのでしょう。このまま少し考える時間を下さい。」


「ビックリしたぁ。えっと、……双刃ちゃんだっけ?」


如何いかにも。私は、熾輝様の式神、双刃と申します。先日は、主のご学友に大変失礼な真似をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。」


河川敷での一件の事を言っているのであろう双刃は、咲耶達に深々と頭を下げた。


「そ、そんな!悪いのは、むしろ私だし、熾輝君は悪くないよ。」


双刃の謝辞に対し、オロオロとしながら受け答えをする咲耶は、どうすればいいのかと、周りに視線を泳がせる。


「そうですわ。私は、双刃ちゃんに助けてもらいましたし、私も御礼を言わせてください。…あの時は、助けてくれて有難うございました。」


「……お礼の言葉、確かに受け取りました。」


河川敷の一件以来、色々と忙しかった熾輝は、双刃を咲耶達に紹介する事が出来ず、お互いの挨拶が今となってしまったが、どうやら少女達の関係は上手くいきそうだ。


そんな少女達の開口をよそに、事態は動き始めた。


「ねぇ、あれ。」


燕がデパートの方角を指し示し、皆は一様に指された方へと視線を向けると、その先には、爆発ボム術式の回りに群がる悪霊の姿があった。


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