表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【上】
53/295

第五二話【魔法少女現るⅦ】

【妖魔】死した生物の怨念によって生じた非生物。通常の霊体と違う点は魔力核を有している点であり、且つ、妖魔の放つ気が妖気に非常に似ている事から研究者の間では霊魂か妖怪かで意見が分かれており、また、未だその存在については解明されていない。


しかし、一つの疑問が生まれる。魔力は、人にしか存在しないという事実に反し、妖魔は魔力を有し、そして個体差はあるが、彼らは魔術を扱う事が出来る。


その理由は、本来魔力核は、人の体内に存在するのでは無く、魂の中にあると言われているため、死後、魔力核を有した魂が妖魔となる事により、仮初の肉体を獲得し、魔術を使うことが出来ると言われている。



少年少女らの前に現れた妖魔から放たれる敵意、その意思がビリビリと肌を伝って感じ取れる。


その形は、人型であるが、明らかに異様だと分かる。


透き通った体は、その全てが水で構成され、妖魔の胸の部分は赤黒い光が発せられている。


おそらく、光を灯している物が妖魔の魂であり、核なのだ。


そして、赤黒く光る光源をよく見れば、何やら文字の様な者が、蠢いているのが確認できる。


熾輝は、周囲の風景が変化した事に一瞬驚きつつも、目の前の妖魔を川岸から見据え、オーラを身に纏う。


次の瞬間、妖魔の胸部がより一層強い光を放った矢先、何かが熾輝に向かって放たれた。


「くっ!」


瞬時に身を逸らす事で、妖魔の攻撃を避けた熾輝は、攻撃の正体が水である事を辛うじて捉える事が出来た。


しかし、これはただの水鉄砲では無く、魔術による攻撃、当然その水圧は計り知れない物であり、当たれば子供の肉体など簡単に貫いてしまう程の威力が込められている。


第二波に備え、身構える熾輝の様子を伺い見るかのように、妖魔はその場から動こうとしない。


すると、まるで、楽しんでいるかのように、ニヤリと顔の形が変形するのを確かに見た。


その時、身構える熾輝の横合いから声が掛けられる。


「ちょっと、早くその魔導書を咲耶に返してよ。」


その言葉で、熾輝も自分が手にしている魔導書の存在を思い出す。


―――――魔導書、そう言えばこの中身には白紙のページが幾つかあったな。それと、目の前の妖魔の核には、文字のような物が蠢いている・・・。


「もしかして、魔導書の中身が妖魔の中にあるとか?」


熾輝は、現実にはあり得ない。しかし、目の前の状況から導き出される一つの可能性を少女達に問いただす。


「そうよ、その通りよ!私たちは、街に散らばった魔導書の中身の収拾をしているの!ちなみに魔導書の事件ていうのは、アレみたいな霊体に魔導書の一部を吸収した存在が起こしているの!」


怒ったように答えるアリアに対し、「なんてこった」と心の中で呟く熾輝は、改めて今もへたり込んでいる咲耶へと視線を向ける。


だが、正直なところ、手にしている魔導書を彼女に返すべきか、熾輝は悩んでいた。


そもそも、手にしている魔導書は、封印指定になってもおかしくない代物で、それをぽっと出のに渡すのも気が引ける。


自分も10歳の子供である事を棚上げにしている熾輝は、そうは思いつつも、妖魔に対する警戒を解くことなく、思考する。


しかし、その時だ、暫く動きを見せなかった妖魔の胸部が再び光に包まれ、魔術発動の兆しを見せる。


「熾輝様!」


双刃の声に一気に現実へと引き戻された熾輝は、纏っていたオーラを更に放出し、臨戦態勢に入る。


妖魔の意志に呼応するかのように一帯の川の水が、まるで柱のように天へと上り、一定の高さに到達したところで、その動きがピタリと止まり、一気に襲い掛かる。


それはまるで水の槍。


―――直線的な動き。これなら避けられる。


相手の攻撃を素早く見切り、身を屈め、回避行動を行おうとした時、水の槍が不自然に軌道を変える。


「しまっ!」


軌道修正された槍は、熾輝へとその魔の手を差し向けるかと思いきや、その後方へと襲い掛かる。


「可憐ちゃん!」


咲耶が友人の名を叫び、可憐の胸を貫くと思った直前、何かが少女に飛び掛かり、可憐を押し倒した。


水の槍は、先程まで少女が居た場所を通過し、その代わり地面を射抜く。


「あ、ありがとうございます。」


「愚か者!ボケっとするでない!」


可憐を助けた双刃の声が響き渡る。


熾輝は溜息を軽く吐き、安堵すると思考を切り替え、双刃に命令を飛ばす。


「双刃すまない。二人を安全なところへ!」


「御意!」


「え?きゃっ!」


熾輝の命令を受けた双刃は、小さな体で可憐と気絶したままの女性を抱え込み土手の反対側へと飛び去った。その際、可憐の小さな悲鳴が聞こえたが、今は完全に無視だ。


だが、妖魔の攻撃がこれで終わったわけではない。


今なお水の柱は、ウネウネとまるで意志を持っているかのように蠢き、標的を狙っている。


「咲耶、落ち込むのは後にして、今は目の前の敵に集中よ!」


「は、はい!」


少女が立ち上がると、意識を己の内側へと集中させた。


ドウッ!


その瞬間、少女の内側より魔力が溢れ出る。


「~~っ!何て魔力、凄まじいな。」


咲耶から発せられる魔力の本流を目の当たりにした熾輝は驚愕し、思わず息を止めそうになった。


しかし、熾輝の意識が僅かに咲耶へと向いた瞬間を妖魔だけは見逃さなかった。


「咲耶、危ない!」


密かに地面を伝い、忍ばせるように少女へと近づけていた水の魔の手が咲耶の足をガッシリとつかみ取る。


「え?」


ちょうど足首の辺りを掴む水の手に気が付いた時には、既に遅かった。


魔の手は咲耶の足を掴むと同時、一気に引っ張り、少女を転倒させると、そのまま川へと引きずり込む。


「きゃぁぁぁぁぁ!」


「咲耶!」


引きずられながら叫ぶ少女は、自分を助けようと手を伸ばし飛び込んできたアリアの手を掴もうとするが、お互いの距離が僅かに届かず、そのままドボンッと川の中へと引きずり込まれていった。


「そんな・・・咲耶あーーーー!」


アリアの叫びは、虚しく響き渡るだけで、決して少女に届くことは無かった。



魔法少女現るは、次でラストです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ