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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【上】
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第五〇話【魔法少女現るⅤ】

『咲耶離れて!そいつ能力者だ!』


虚空から聞こえる声に、ハッとした咲耶は、目の前の影が駆けだし、自分に突進してくるのを認めた。


しかし、反応が遅すぎた。


間合いをあっという間に詰めてくる影に対し、魔術の発動は間に合わない。


そう判断した少女は、バックステップで距離を取った矢先、先程まで自分が居た場所目がけて落とされた攻撃が地面に当たった瞬間


ズドンッ!


まるでハンマーを振り下ろしたかのような鈍い音が聞こえ、地面に窪みが出来ている。


少女は、恐怖した。


あんな攻撃を受けたら無事では済まないと、本能的に直感したのだ。


しかし、後ろに後退した事で、僅かな時間を稼ぐことが出来た。


そう、魔術発動の時間だ。


バックステップから地面に着地した瞬間、再び少女は後方へと飛び退いた。


だが、先程の魔術を行使しなかった跳躍とは違い、咲耶の身体は10メートルは余裕で届きそうな程の高さまで上がり、なだらかな弧を描き先程まで自分が居た場所から大きく距離をとった。


着地した咲耶は、すぐさま杖を構え相手との間合いをとって相対する。


しかし、少女の鼓動は先程からバクバクと跳ねあがり、呼吸を乱し肩で息をしていた。


未だ動かない襲撃者をよくみると、軍服の様な服装に色の入った眼鏡、顔の半分を覆うネックウォーマを装着し、顔が全然分からないが、身長から見るに年齢は自分と変わらないくらいだと言う事だけはわかった。


『咲耶、気を付けて、能力者を近づけたら駄目よ。』


混乱する彼女に何処からともなく声が掛けられる。


「のうりょくしゃ?」


彼女は、能力者を知らない。


故に、声の主が何故相手を近づけてはいけないのかが理解できなかった。



しかし、理解できずとも相手を近づけてはいけないと言う事だけは分かった少女は、杖に魔力を流し込み、術式を展開させる。


次の瞬間、襲撃者は、ゆらりとした動作で一歩を踏み出したと思ったら、急速に駆けだして間合いを潰してきたのだ。


先程の襲撃者の攻撃が脳裏から離れない少女は、乱れた心のまま術式の構築を急ぐ。


いつもなら一瞬の内に構築できるハズの魔法式が、今日に限ってはとてつもなく遅く感じる。


今か今かと魔法式の構築に意識を向け、ようやく完成した術式を起動する。


そして杖の先端に描かれた魔法式からマシンガンの如く魔弾が連射された。


しかし、咲耶との間合いを半分まで詰めていた襲撃者は、魔術の発動と同時、一直線に突き進んでいた進路を急変換し、横へと走り込むことで、魔弾から逃れる。


その動きに合わせて少女も杖を横向きへ移動させていくが、少女を中心に円を描くように駆ける襲撃者を捉える事が出来ない。


そして、円を徐々に狭めていく相手に対し焦りが色濃く顔にでる。


「何で、何で当たらないの!?」


『咲耶落ち着いて、このまま弾幕を張り続けるんだ!』


「でも!でも!」


焦る少女に声の主は落ち着かせようと必死だ。


『動き続ける相手の先を読むんだ。相手に照準を合わせていても、既に過ぎ去った場所にしか当たっていないよ!』


「わ、わかった!」


そう言われ、発射される魔弾の照準を一気に襲撃者の進行先へと向けた瞬間だった。


待っていたと言わんばかりに、急停止した襲撃者は、弾幕の無くなった僅かな隙を縫って、一息で少女へと肉薄した。


「こ、来ないでー!」


魔法を行使する時間は既にない。


ならば、今彼女が手に持つ杖を振り上げて襲撃者を打つしかないと思い、思い切り振りかぶろうとした瞬間、杖を握り込まれ、振り上げようと力を入れるが、ピクリとも動かない。


「ん~~っ!」


それでも相手の手から杖を振り払おうと、力いっぱいに振り上げようとした途端、彼女の力に合わせた動きで、襲撃者も腕を振り上げた。


ただ単に杖を振り上げようとしていた咲耶と、技として杖を振り上げた襲撃者とでは、結果が変わってくる。


「えっ?」


気が付けば、咲耶が握っていた杖は襲撃者が奪っており、彼女は己の武器を失ってしまったのだ。


「ぁ、か、返して。」


恐る恐る手を伸ばす少女は、自身の大切な杖を取り返そうと、手を伸ばして相手に近づいていく。


そして、襲撃者は奪い取った杖を空高くに放り投げた。


「ぁっ、」


弧を描いて飛んでいく杖に自然と視線が引き寄せられ、伸ばしていた手を相手に掴まれた矢先、少女の視界が


ぐるりっ!


と反転した。


「きゃんっ!」


背中に圧力が掛けられた事により、息を吐き出し、気が付けばうつ伏せの状態で、襲撃者に組み伏せられていた。


そして、襲撃者は彼女が所持していたリュックの口を開けて中に手を突っ込むと、一冊の本を引き抜いた。


「だ、駄目っ!」


必至に抵抗しようとするが、背中に乗せられた膝で、上体を起こす事が出来ず、更に片手を腰に回されて、完全に関節を決められた少女は、足をバタバタと動かす事しか出来ない。


「ローリーの書・・・犯人は君だったのか。」


「!?この声、」


襲撃者の声を聴いた瞬間、昨日、同じクラスに転校してきた少年の顔が脳裏に浮かんだ。


「熾輝くん?」


「・・・ああ、そうだ。」


そう言うと、襲撃者は眼鏡を外し、顔の半分を覆っていたネックウォーマを首まで引き下げ、その顔を明かした。


右眼に眼帯、中性的な顔立ちの少年は、間違いなく咲耶のクラスに転校してきた少年の物だった。


「なんで、熾輝君が。」


「知る必要があるの?」


「え?」


組み伏せられた状態のまま彼を見ると、冷めた眼光で射抜かれている様な、そんな錯覚さえ覚える目をしていた。


しかし、今の彼女にとって、それよりも優先するものがあった。


「お願い、それを返して!」


「・・・咲耶は、これを使って何をするつもりな「咲耶から離れなさい!」」


熾輝の言葉を遮った女性の怒声が響き渡る。


声の方を横目で見ると、金髪の女性が、手を前に突き出した状態で熾輝を睨みつけ、更に熾輝を囲うようにして、5つの魔法式が展開されていたのだ。


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