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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【上】
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第四八話【魔法少女現るⅢ】

私立白岡小学校は、いわゆる名門校である。


その名門校の5年3組の教室では、ある噂が飛び交っていた。


「ねえねえ、今日うちのクラスに転校生が来るらしいよ。」


「何でも海外からの帰国子女らしい。」


「どんな子なんだろう。」


転校生の話題で盛り上がる教室では、子供たちの期待に満ちた話で盛り上がりを見せている。


そんな中、もうすぐ始業のチャイムが鳴ろうとした時、一人の少女が教室へと入ってきた。


「おはよう。」


「あ、さくちゃんおはよう。」


クラスメイトと挨拶を交わして席に着き、クラスの浮き足立った雰囲気に首を傾げていると、隣の席から声が掛けられる。


「どうやら今日、転校生が来るみたいだよ。」


「あ、はるくんおはよう。」


「おはようゆうさん。ギリギリだったね。」


「えへへ、ちょっと寝坊しちゃった。」


等という他愛も無い話をしていたところで、始業のベルが鳴り響く。


それと同時に担任教師が部屋に入ると、起立、礼の号令がかかり、先生へとあいさつが終わると、皆が同時に着席した。


「・・・今日は乃木坂以外は全員来ているな。」


座席に座る子供たちの顔を確認した教師は、一名の欠席を確認して、名簿にチェックを書き記した。


そして、


「今日は、皆さんに新しいお友達を紹介します。入ってきなさい。」


教師の言葉に促され、教室の扉が開かれる。


教室に入ってきた少年は、黒板の前に立ちペコリとお辞儀をしたところで、先生からの紹介が始まった。


「上海からの転校生で、八神熾輝くんだ。みんな仲良くする様に。」


はーい。という元気な挨拶が教室中に響き渡ると、クラス全員の視線が少年へと釘づけとなる。


「八神もみんなに挨拶をして。」


「はい。・・・上海から来た八神熾輝です。皆さんよろしくお願いします。」


再びペコリとお辞儀をして、熾輝は心の中でふぅっと溜息をついた。


緊張していたためか珍しく熾輝の動きが固い。


その様子を姿を消している双刃はハラハラと見ながら、『熾輝さま頑張って下さい!』と応援を続けている。


挨拶も終わったのだから、これで席に着けると思いきや、手を上げて来たクラスメイトが居た。


先生、熾輝君に質問したいでーす。

あ、俺も!

私も私も!



等という生徒が続出し、此処からは一方的な質問タイムが、永遠10分程続けられた。


やれ上海はどんな所だったのか、やれ中国語は話せるのか等々、流石の熾輝も同年代がこれ程に多い場所に来るのも初めてであり、精神的にかなり披露した頃に教師によって質問タイムが強制的に終了された。


「さて、八神の席は、結城の後ろが空いているから、そこに座るように。」


と教師に指示されたのは、窓際一番後ろの席だった。


そして、結城と言われた生徒も気を利かせたのか、手を上げて「こっちだよー。」と合図を送っている。


その生徒を見た瞬間、熾輝は己の目を疑い、驚きの表情を浮かべた。


かつて魔界で少年の命を救った少女の姿が重なる。


「っ!?なつ・・・なんで?」


「ふえ?」


教室中にどよめきが起き、熾輝と手を上げていた女子生徒を交互に見合わせる。


当の少女も何のことやらさっぱりといった様子で、周りからの視線に慌てていた。


「どうした、八神は結城と知り合いなのか?」


そこへ、疑問に思った教師が質問し、熾輝は少女を凝視する。


ショートヘア―で長いまつ毛に少しだけ垂れた目が特徴的な女の子が座わっており、まるで人形の様な可愛らしさを感じた。


「結城?・・・あ、いえ、スミマセン人違いでした。」


「そうか?」


熾輝は、直ぐに気を取り直し、スタスタと自分の席へと向かった。


自分の席に着いたところで、周りの生徒からは「よろしくね」と挨拶をされ、それぞれに挨拶を返し、ようやく席に着くことができた。


「それじゃあ授業を始めるぞ。今日は、前回の復習から―――」


―――夏羽が居るはずないか。よく見たらそんなに似ている訳じゃないし。


かつて少年の命を救った少女の面影を持つ少女に意識を向けていた熾輝は、あり得ないと結論付け、授業を進める教師へと視線を向ける。


こうして、八神熾輝は10歳にして初めて学校での授業を受けるのだった。




そして、休み時間、案の定というべきか、熾輝は再び質問攻めに遭っていた。


「―――それじゃ熾輝君はパパもママも居ないの?」


「うん。だけど親代わりの人が5人も居るから寂しくないよ。」


5人も!?という声があちこちから上がるが、皆がどうしてそんなに驚いているのかが熾輝には分からなかったが、普通の人からすれば親代わりが居るのも珍しいのに、それが5人というのがかなりの驚きを引き起こしている。


「八神君も両親が居ないんだ。」


そう言って来たのは、熾輝の目の前の少女だった。


「えっと、」


「あっ、私はゆうさく、さっきは驚いちゃったけど、誰と勘違いしたの?」


「・・・熾輝でいいよ。ごめんね、さっきは驚かせちゃって。えっと、前にお世話になった僕の友達だよ。」


熾輝は、咲耶が纏う物を一瞥して直ぐに話を続けた。


「へぇ、そんなに似ていたの?」


「いや、顔がっていうより雰囲気がかな?それより、結城さんも両親が?」


「咲耶でいいよ。私の家はママが居ないの。だからパパと二人暮らし・・・今は3人かな?」


「何で疑問形?ペットとか?」


「う、うん!そんな所!」


「?」


曖昧な答えではあるが、熾輝もそれ以上深く追及はしなかった。


「でも八神君、この次期に転校っていうのも珍しいよね。」


そこへ咲耶の隣の席の男の子が声を掛けてきた。


「あ、僕ははる、好きに呼んでいいよ。あと僕はクラス委員長をやっているから、分からない事があったら何でも聞いて。」


「よろしく空閑くん。転校は、僕の育ての親の一人が理事長と親しかったらしくて、試験を受けさせてもらったんだ。」


「そうなんだ。あと君付けはしないで気軽に空閑でいいから。」


わかった。と言ったところで、始業のチャイムが鳴り、熾輝の前のクラスメイトが蜘蛛の子を散らすように席へと着いて行った。


このあと、休憩時間になる度に質問攻めに合い、熾輝の精神はジリジリと削られる事となり、修行以上の披露を覚えたのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




初登校を経験した熾輝を待っていたのは、同年代の少年少女たちからの質問攻めという苦行であった。


帰宅した熾輝は、そのままベッドへと倒れ込み、うつ伏せのまま動かなくなっていた。


『し、熾輝様!』


そんな主の姿を認めた双刃は実体化し、オロオロとしながら熾輝へと詰め寄る


「大丈夫ですか!?」


「・・・。」


無言で顔だけを双刃へと向けて苦笑いで返すが、それでも双刃の曇った表情が晴れる事は無かった。


しかし、いつまでも彼女に心配を掛けさせておく訳にもいかないので、深呼吸をし、全身に酸素を送り込むと、己の心に一括した熾輝はノッソリと起き上がった。


「まさか、学校がこんなにも疲れる場所だとは思わなかったよ。」


「初日ですから仕方がないでしょう。数日もすれば、きっと慣れますので、それまでの辛抱です。」


「そうだね。・・・それよりも羅漢はまだ帰って来ないの?」


双刃の言葉に元気づけられた熾輝は、もう一人の式神について問いかける。


「知りませぬ、あの愚か者は、空港で別れたあと、何処をほっつき歩いているのか、一向に連絡すらよこして来ません。」


プリプリと怒る双刃を見ながら、「仕方がないよ。」と少年は返す。


実はハイジャック以降、羅漢が熾輝の元へと帰ってきていなかったが、特段少年はそれを気にはしていなかった。


元々の約束で、自由にしてと言った以上、彼を拘束するつもりもないし、自由を束縛するつもりが毛頭ない。


「とりあえず、先生が帰って来るまでに、夕飯の買い出しがてら街を探索に行こうか?」


「熾輝さま、買い物なら双刃が行って参りますゆえ、どうぞゆっくりなさって下さい。」


何をするにも主を思いやる双刃ではあるが、熾輝とて外に出る目的が買い物だけでは無いのか、やんわりと断り二人で街へと繰り出すことにした。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「ただいまぁ♪」


時計の針が7時を回ろうかとした時、一仕事を終えた葵が自宅へと帰宅してきた。


「お帰りなさい先生。」


「ん~、ただいま熾輝君、双刃ちゃん。」


玄関で自分を出迎えて来た子供二人(内一人は年齢不詳の式神童女)を満面の笑みでほうようする。


「あ、葵殿、苦しいです。」


「あら、ゴメンナサイ。」


二人を抱きしめていた腕に知らず知らずのうち力を込めていたのか、慌てて拘束を解いた葵は、室内に入り、さっそく夕食の席で今日一日の感想を熾輝に聞いてみたが、「質問攻めにあって疲れた。」と何とも子供らしからぬ回答が返ってきた。


しかし、そんな些細な感想も熾輝の感情の一つとして、捉えている葵は、やはり学校へ入学させて良かったと心の中で思うのであった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




翌日、登校した熾輝は、クラスメイト達がなにやら騒がしくしている様子に気が付き、何を話しているのかと疑問に思っていたところで、声を掛けられた。


「おはよう八神君。」


熾輝のクラスメイトでクラス委員長の空閑遥斗である。


「おはよう空閑・・・なにかあったの?」


「うん。・・・八神君は引っ越してきたばかりだから知らないかもしれないけど、昨日また川で溺れた生徒がいたらしいよ。」


「また?」


空閑の言葉に、熾輝は眉を顰める。


熾輝が引っ越してきた街の中心には、確かに川はあったが、それでも溺れるような場所では無かったと記憶していたが、次の空閑の言葉に少々考え込まされる事となった。


「うん。ここ数日、川の近くを通りかかった生徒が何人も溺れている事故が多発していてね。本人たちは、川で遊んでいた訳でもないのに溺れたらしい。」


「変な話だね。川に入らなければ、そもそも溺れないだろう?」


「そうなんだけど、溺れた生徒全員がいうには、何かに掴まれて川に引きずり込まれたらしい。」


「・・・何かに?」


そこまで話していた熾輝は、川で見た妖怪を思い出す。


「しかも、不思議な事に溺れた生徒全員が、気が付いたら川岸で気絶していたとかなんとか。」


「・・・それって、何処までが本当なの?」


「さあね、あくまで噂だし。でもここ最近、帰りのホームルームでも川で遊ばないように言われているから、何かあるのは事実なんじゃないかな?」


そう言えば、昨日のホームルームでもそんな事を言われていたのを思い出し、確かに何か無ければ教師たちも生徒に対し注意を呼びかけたりはしないだろうと思い至った。


「まぁ、火のない所に煙は立たないからね。僕も注意しておくよ。」


そんな、話をしていた折の事だった。


突然、椅子に座っていた熾輝の背中に何かが寄りかかってきたのだ。


「熾輝君おはよう!」


「・・・おはよう、咲耶。」


咲耶と呼ばれた少女は、ニコリと笑って、体重を掛けていた少年の背中から身体を離し、熾輝の目の前の席へとやってきた。


「二人で何の話をしていたの?」


「川で溺れた生徒が居るって、八神君に教えていたんだよ。」


「あ~、あれね。怖いよねぇ。・・・それよりも!」


咲耶は、目を輝かせながら、二人に詰め寄り急に話題を変えて来た。


「今日の夕方に可憐ちゃんが帰ってくるらしいの!」


「乃木坂さんが?」


「・・・?」


二人の会話について行けない熾輝は、頭に疑問符を浮かべるが、そこは流石委員長と呼ぶべきか、しっかりと彼にも分かるように説明を挟んでくれた。


「乃木坂可憐さんは、先日から学校をお休みしている同じクラスの女子生徒で、結城さんと大の仲良しなんだ。それと・・・」


何かを言いかけたが、途中言うのを止めた空閑は悪戯っぽい顔をしながら


「会ってみたら驚くかもよ?」


と、そんなことを言ってきたが、熾輝が追及する間もなく、始業ベルが鳴り、二日目の授業が開始された。




――――――――――――――――――――――――――




深夜、街が寝静まったころ、一人の少年が引っ越してきたばかりのマンションを出て、夜の街へと繰り出した。


こんな時間にお巡りさんに見つかれば、間違いなく補導されるであろう時間帯。


しかし、街中ですれ違う人々は、誰も少年に見向きもしない。


単に気にしていないのとは、訳が違う。


街の住人は、少年に全く気が付いていないのだ。


そんな中、少年は、街で唯一の川に辿り付き、辺りに誰も居ない事を確認し、彼の式神へと話しかける。


「ありがとう双刃、もういいよ。」


すると、何もなかった虚空から薄らと姿を現した少女は、己の主にペコリとあいさつをすると、少年の一歩後ろへと下がった。


そして、先程まで行使していた双刃の力が熾輝から消えるのを感じると、眼下の川へと視線を向ける。


―――――――こんな所で本当に水難事故が多発するものなのかな?


少年は、今朝学校で聞いた話を元に件の川へとやってきていたが、どうみても人が溺れる様な川には見えなかったことから、噂の信憑性を疑っていた。


「とりあえず、上流に向けて調べてみようかな。」


「熾輝さまは、件の事件には、犯人が居るとお考えなのですか?」


「どうだろう、でも魔導書を悪用している犯人の手がかりが掴めればいいと思っているのは確かだよ。」


そう言った熾輝は、魔導書の犯人を求めて夜の街を歩きはじめるのだった。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



空は快晴、僅かばかりの白い雲が青い空を彩っている。


学校が終わり、帰宅した少女は自室で制服から私服に着替えていた。


ショートヘアの似合う女の子は、ボーイッシュな私服に着替え終わるとクローゼットの奥にしまい込んでいる安物の金庫の中から一冊の本を取り出し、お気に入りのリュックの中へとしまい込んだ。


そして、部屋から出て行こうとして扉の前までやってきた時、その扉が急に開け放たれ、


ゴツンッ!


と小気味よい音と共に少女の部屋へと入ってきた者がいた。


「咲耶~、おかえり~!・・・あれ?」


「あううぅ。」


部屋へと入ってきた来訪者が頭を押さえてうずくまる少女を認め、「どうしたの?」とキョトンとした顔で覗き込む。


「アリア、部屋に入る時はノックしてって、いつも言ってるでしょ。」


痛みに耐えながら半泣きの少女は、自分を覗き見る金髪の美女に抗議する。


「あははは、ゴメンゴメン」


もうっ!と言う少女の頭を撫でながら女性は謝る。


「そう言えば、咲耶が帰って来る前に可憐から電話があって、さっき帰ってきたってさ。」


「本当に!?可憐ちゃん何か言ってた?」


「うん、取りあえず夕方に例の場所でって伝えておいたよ。あと、お仕事も来週までは無いし、お爺ちゃんも、もうすぐ退院できるってさ。」


「よかったぁ。」


「まさか、あのお爺ちゃんの乗っていた飛行機がハイジャックに遭うなんて思いもよらなかったけど、無事で何より。なんでも機内で糖尿病の薬が切れて死にかけたって言っていたけど、もう心配いらないらしいよ。それよりも・・・」


言葉を切ったアリアという女性は、ニヤニヤと悪戯っぽい笑顔を向けて咲耶を見る。


「な、なあに?」


「例の転校生は、どうだったの?咲耶の事を熱い眼差しで見つめていたっていう例のオ・ト・コ・ノ・コ。」


昨日、咲耶のクラスに転向してきた少年の話をアリアに話していた咲耶は、若干話がアリアの脳内で誇張されていると思いつつも、素直な感想を述べてみる。


「八神君?う~ん・・・何ていうか、全然笑わない子かなぁ?」


「なに?クール気取りの子なの?」


「そう言うのじゃなくて、良く分からない。けど、何だか初めて会った気がしないの。」


熾輝について、どういった人物なのかを口で上手く伝える事が出来ない咲耶であったが、八神熾輝については、昨日初めて会ったはずなのに、以前にも会った事がある気がしていた。


しかし、そんな咲耶を見て、むふむふと笑う人物が居た。


「やだ♪それって恋?」


「ち、違うよ!そう言うのじゃなくて!」


「はいはい」と、まるで全てを悟ったかのような返事をするアリアに対し、困ったような声を上げる咲耶であった。


しかし、咲耶の感覚は間違っていなかった。だが、それを知ることになるのは、大分先の話。




――――――――――――――――――――




満月が夜の街を照らし街灯の無い道でも、明るく照らされているため、何も見えないと言う事はなかった。


そして、街を大きく二分する川の土手では、3人の女性が集まっていた。


「可憐ちゃん、久しぶり。」


一人はゆうさく、熾輝と同じクラスの少女である。


そして、その横にはアリアという金髪の美女が一緒に居た。


「咲耶ちゃん、暫く会えなくて寂しかったです。」


「私も」と両手同士を握り合う少女二人ははたから見ても、とても仲の良い友達だと言う事がわかる。


「二人とも、そろそろ行くよ。」


「「はーい。」」


一通りのあいさつ(二人にとっては毎度の儀式?)を済ませ、3人は川沿いを下流に向けて歩き始めた。


「そう言えば可憐ちゃん、ドラマ見たよ。すっごく可愛かった。」


「えへ、ありがとうございます。」


乃木坂可憐は大ブレイク中の天才子役であり、彼女の一族は世界でも屈指の大企業でもある。


俗にいうお嬢様なのだが彼女自身は、それを一切自慢したりはしていないため、子役でお嬢様という枠組みに捕われず、誰からも好かれる子供として周りから見られている。


しかし、周りから好かれているからと言って、それだけで友達が多い訳ではなく、彼女の境遇だけで、周りの子供たちは彼女と一線を引き、必要に近づこうとはしなかった。


だが、そんな彼女は、ある事件を切っ掛けに咲耶、アリアと出会う事となり、初めての友達になれたのだ。


「この辺りですね。」


川の中流に来たところで、足を止めた可憐は、地方の報道関係者から事前に水難事故の情報を得ていたため、昨日の事故現場まで2人を案内した。


川の水は静かに流れ、川岸は、子供の膝丈程度しか水位がなく、とても溺れるような場所には思えなかった。


「どう、アリア?」


そう言われ、川へと意識を集中させ、目を閉じていたアリアは、ゆっくりと瞼を上げると軽い溜息をついた。


「・・・確かに妙な気配を感じるね。だけど、範囲が広すぎて気配の大元が何なのかまでは、はっきりと分からない。」


「確か、被害者から話を聞いた人の情報によると、川の傍を通っていた時に、何かが足に絡みついて、そのまま川の中へと引きずり込まれたという証言と、水中の中で緑色の物体が、ガッチリと身体を掴んでいたという証言があるみたいですね。それと、被害者は全員が、気が付いたら川沿いの土手で気絶していたと言う事らしいです。」


可憐は、持っていたメモ帳を開き、一つ一つの情報を読み上げていく。


芸能に携わる彼女だからこそ、こうした事件の内容を報道関係者から聞くことが出来るのであろう。


「でも、早くどうにかしないと、本当に溺れて死んじゃう人が出てきちゃうよ。」


不安そうな顔をしながらオロオロとした咲耶が二人に話しかけた直後だった。


ドボンッ!


突如、水の激しい音が聞こえたのだ。


3人は顔を見合わせて音の方へと走り出す。


そこで彼女等が視たのは、川岸に横になり、ずぶ濡れになったOLらしき人と、緑色の物体。


暗くて全貌は正確には分からないが、倒れている女性と同様にずぶ濡れとなり、今はその女性に覆いかぶさるような体制をしている。


「咲耶!助けるよ!」


「う、うん!」


弾かれたように咲耶とアリアが女性に覆いかぶさる物体へと駆けだした。


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