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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【上】
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第四七話【魔法少女現るⅡ】

学校、それは子供が勉学に励むための学び舎である。


「それじゃあ、行ってきます先生。」


「はい、行ってらっしゃい。寄り道しちゃ駄目よ?」


「はい。」


朝、熾輝は学校へ行くためにマンションを出た。


葵から学校の試験を受けるように言われてからの一週間、熾輝は中々に慌しい時間を過ごしている。


まず、葵が通わせようとしていた学校は、地元でも有名な私立小学校で、そのために必要な試験も翌日に受けさせられ、学校へ行くために必要なあれやこれやを買いそろえたりと中々休む暇も持てなかった次第だ。


てっきり、公立の普通の小学校へ通うものと思っていた少年にとって、先日、葵から試験を受けろと言われた事には、少々戸惑いを感じていた。


ちなみに、こんな時期、しかも転入のために必要な試験をいきなり受けれる物なのかを葵に聞いたところ、どうやら学校の理事長と昇雲師範は昔からの長い付き合いだったらしく、無理を言って試験を受けさせてもらえたとのこと。


実のところ、熾輝は学校へ通うのは初めてであった。


9歳までは、山奥で修行の毎日を過ごし、勉強は葵が教え、中国で過ごした1年も学校へは行かず、白影の義理の娘、つまり依琳の母に教えて貰っていた。


教えて貰ってはいたが、熾輝が学んでいた勉強内容は、小学生のそれが学ぶような内容は、既に終了しており、高校卒業程度の内容は既に学び終えているのである。


そんな、とんでも設定を熾輝にするつもりは無かったが、熾輝の師は、武術の枠に収まらず徹底した英才教育を熾輝に植え付けていた。


実際、とある国には、天才を作るための教育機関があると言われており、熾輝も負けず劣らず、そう言った英才教育を受けていたのである。


彼の師曰いわく、熾輝は武術などの戦う才能は皆無であるが、こと他の分野においては、秀でた才能があり、どの分野でも突き詰めれば世界に名を残せる程の力を秘めているとのことだ。


しかし、少年は命を狙われる身であるため、自分の身は自分で守らなければならず、最も才能が無い武術を学ぶことを強いられている。


そんな熾輝では、あるが10歳にして初めて通う事になった学校に少なからず気負いをしていた。


学校へ登校する際も、珍しくどこか落ち着かない彼を心配してか、姿を消したまま双刃が気を紛らわせようと、何度も声を掛けるが、上の空である。


そんな登校中のおり、少年はとある気配を感じ取り、足を止めた。


―――この感じは・・妖気?


妖気とは妖怪だけが持つと言われている、人が持つオーラとは異なる力である。


『熾輝様。』


双刃も気が付いたのか、熾輝に警戒を呼びかけるが、当の本人はそこまで警戒をしていなかった。


「こんな街中に妖怪が出てくるのも珍しいね。」


『・・・。』


そんな、無警戒の熾輝の態度に少なからず驚いた双刃は、思わず黙ってしまう。


彼女が知っている熾輝は、警戒心の塊みたいな人物であり、それでいて聡明な主というイメージだ。


そんな主なら、妖気を感じ取れば当然の如く警戒を強めると思っていたが、全く気にした様子が無い。


それもその筈、熾輝にとって妖怪とは、人間となんら変わらない者達のことを指す。


幼少期の半年を魔界で過ごした熾輝にとって、慣れ親しんだ生き物に他ならないのだ。


そのような考えを持てる様になった要因として、少年の命を救った一人の少女の存在が大きく関係している訳だが、此処で敢えて双刃に語る気が無いのか、熾輝は妖気のする方角へと歩を進めていた。


『熾輝様、行けません!あやかしに不用意に近づいては、危険です。』


「大丈夫だよ。大きな妖気は感じないし、妖気の感じからして人に危害を加えるような妖怪とは全く別物だ。」


『そ、そのような事が分かるのですか?』


「たぶん。」


シキさまぁ~、と止める双刃の言う事も聞かずに、熾輝は妖気の元へとたどり着いた。


そこは、街を二分するかのように、街の真ん中に流れるそこそこ大きな川であった。


そして、そんな川の中、よく目を凝らさなければ分からないが、確かにその妖怪は、存在した。


「・・・あれは何?」


『・・・河童ですね。私も視るのは久しぶりです。しかし・・・』


「どうしたの?」


『いえ、このような人が暮らす街に、河童が居るのが単に珍しいと思ったので。』


そう、基本目の前の河童の様な妖怪は、人里から離れた綺麗な水が有る所に生息していると言うのが通説ではあるが、どうやらこの河童は珍しいことに人が多く住む街に生息しているらしい。


そして、熾輝達の視線に気が付いたのか、水中にいた件の河童が、ひょっこりと顔を出してきた。


文献であるとおり、頭の上に皿を乗せ、背中には甲羅を背負った緑色の生物。


しかし、この生物に熾輝の目は釘づけになっていた。


「・・・可愛い。」


『えっ!?』


ボソっと口にした熾輝の言葉に双刃は耳を疑った。


それもその筈、約一年とはいえ、彼の、恐らくは本心と思われる言葉で「可愛い」と聞いたことが無いのだから。


だが、恐らく熾輝以外の者が目の前の生物を見て、可愛いと思わない者は居ないだろう。


熾輝が知る文献上の河童は、四頭身の描写ばかりだった。


しかし、目の前にいる河童は、今まで熾輝が視て来た文献とは異なり、三頭身の身体につぶらな瞳、まるでぬいぐるみの様なのだ。


そんな、河童と暫く見つめ合う熾輝であったが、気が付けば刻々と時間が過ぎてしまい、双刃から遅刻をしてしまうと言われてようやく学校へと足を向ける事になる。


熾輝にとっての初登校は、こうして妖怪との出会いと少しの感情の変化によって幕を閉じた。




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