第四六話【魔法少女現るⅠ】
今回から短くテンポよくを心がけます。
ハイジャック事件終息後、熾輝を乗せた旅客機は、無事に日本へと到着した。
その後の話を簡単に説明すると、当然、警察に事情聴取を求められる事になるだろうと予想した羅漢は、姿を消して何事も無く空港の外へと出て行った。
そして、姿を消す事も出来ない熾輝だけが藤井、鈴木両名の捜査官に捕まり、そのまま警察署まで連行されていった。
捕まると言う表現は、正しくは無い。
正確に言うと任意同行を求められ、事情聴取のために警察へと連れて行かれたに過ぎず、元々、葵の家まで一人で行く予定であり、時間が掛かる分にはさほど気にしてはいなかったし、熾輝が未成年で保護者の引請人が必要だという部分に関しても、いったん空港で分かれた双刃が、大人の姿に変身して警察におもむき、熾輝の身柄を引き取ったという状況だ。
最後に警察署を出る際、藤井という女性警察官から犯人を護送中に逃がす計画を企てていた者達も逮捕され、後は大本の清流会の一斉検挙を行うことが出来るとお礼を言われて、熾輝はその場を立ち去った。
そして、今は熾輝の戦場になる、とある街にようやく到着したのだった。
「ようやく到着か。」
「大丈夫ですか?ここから葵殿の家までは暫く歩きますが、もしよかったら何処かで休憩でもされた方が宜しいのでは。」
流石に、ハイジャックの一件が終わってからの警察での取り調べが答えたのか、若干の疲れを感じさせる熾輝の声に双刃が心配の表情を浮かべながら問いかける。
「大丈夫だよ。先生の家に付いたら休めるし。・・・それよりも羅漢は何処に行っちゃったの?」
「さぁ、その様な者居りましたでしょうか?」
「・・・。」
飛行機から姿を消して以降、一向に現れようとしない羅漢に対し同じ式神として双刃は、相当怒っているらしく、羅漢の存在をこの際、記憶から抹消しようとしている。
「そんなに怒らないで上げてよ。羅漢のおかげで無事に日本に着いたんだし。」
「ぬぬぅ、・・・熾輝様がそうおっしゃるなら。」
そんな会話を永遠としている訳にも行かず、熾輝と双刃は葵宅へと歩き始めたその時、街の遠方から僅かに魔力の揺らぎを感じ取った。
「・・・今のは?」
しかし、揺らぎを感じ取ったのは一瞬の事で、それ以降は何も感じない。
「熾輝様、如何なされました?」
魔力やオーラに対し特に鋭敏な感覚を有する熾輝には、遠方の揺らぎを感じたが、双刃にはそれを察知する事が出来なかったのだ。
揺らぎの方角に意識を向けていたが、その後なにも感じ取る事が出来ないことから、特に気にする程でも無いと思い歩き始めようとした矢先、
ドンッ!
後ろからの衝撃に対応できず、その場に転倒してしまった。
「熾輝様⁉」
――――本当に今日は、厄日なのか?
次から次へと色々な事が起こり、いい加減に勘弁してほしいと願う熾輝の心を無視して、衝撃の正体が慌てた声で話しかけてくる。
「きみ!大丈夫⁉」
視線を向ければ、そこには二十歳前後くらいの女性が、心配そうな顔で熾輝に駆け寄ってくる。
長いブロンドの髪、深い青色の瞳にすらっとしたプロポーションの女性がそこに居た。
一見して外国人であるのは分かるが、どうにも外国語ナマリしていない日本語が、彼女のいで立ちとそぐわない印象を受けた。しかし、素直に美人だという印象を受けたのも事実だ。
「ごめんね、急いでいたから全然前を見ていなかったの。」
困った顔を浮かべながら熾輝に謝る女性は、オロオロしてしまい、先程から「どうしよう、どうしよう」とテンパっている。
「大丈夫です。お気になさらないで下さい。」
「で、でもスゴイ勢いでぶつかったよ?」
「平気です。鍛えていますから。」
本当に?と問いかけながら熾輝を気遣う女性に対し、何度も大丈夫だと告げると、ようやく納得したのか、ニコリと笑顔を浮かべる。
「やっぱり男の子は強いね。」
「はい。先を急ぎますので、これで失礼します。」
そう言うと、彼女も用事を思い出したようで、「そうだった!私も急がなきゃ!」と言って、足早にその場を去っていった。
「忙しない人だな。また事故に遭わなければいいけど・・・・どうしたの?」
先程から黙ったままの双刃は、何かにショックを受けているのか、固まったまま動かない。
「あ、主の身に危険が及びながら、それを阻止できなかった私は、駄目な式神ですぅ。」
――――こっちは、こっちでまた面倒なことに・・・。
その後、熾輝は双刃にフォローを入れながら肉体的にも精神的にも疲れ果てたまま、葵宅へと向かうのだった。
葵の自宅というのは、一時的な住まいであり、マンションの上層階に位置する。
駅から歩いて30分程でマンションに到着した熾輝は、出迎えた葵にかなり過保護?ともいえる熱烈な歓迎を受ける事となり、その日は、夕飯を用意してくれていた葵の手料理を食べながら、中国での出来事やハイジャック犯の話をして、葵を驚かせた。
そして、夕食後、ほどなくして食後のデザートを食べていた際の事である。
「熾輝くん、急な話だけど明日、来週から通う学校の試験を受けて貰うわ。」
葵の突然の提案に、熾輝は少なからず驚きを覚えたのだった。
 




