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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
大魔導士の後継者編【上】
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第四三話【ディアボロスの帰還Ⅳ】

ファーストクラスに武装した3人の男が入ってきた。


乗務員は鍵が開けられた事に驚き、慌てて犯人達に近づこうとしたが、銃口を向けられて、その場から動けなくなり、乗客は揃って俯いたまま動こうとしない。


男たちは、座席に座る乗客の一人一人の顔を確認するように見て回っている。


―――だれか探しているのか?


男たちの様子に対し、そう予想する熾輝は、ついでに男たちの装備を確認しつつ、犯人の観察に意識を向けた。


そして、熾輝の席までやってきた犯人が、自分の顔を覗き込もうとするのかと思ったが、熾輝の顔を見た途端にそっぽを向いて、隣に座る朱里へと視線を移す。


そこで、犯人の動きが止まった。


―――犯人の目的は朱里か?


ハイジャック犯が朱里を見て動きが止まった事を確認した熾輝は、彼らの目的は彼女であるかもしれないと思った。しかし、


「へえ、こいつぁ上玉だな。」


熾輝の予想はハズレだった様で、どうやら犯人は、朱里の顔を見て興味を示したらしい。


この場合の興味が、性的な意味で無い事をただただ祈るしかない熾輝であった。


「臭いわ。」


そんな時、犯人に顔を近づけられていた少女からは、耳を疑いたくなるような台詞がとびだした。


「・・・嬢ちゃん、聞き間違いじゃなかったら今、俺の事を臭いっていったか?」


犯人の男が、銃口を朱里に向けたまま、更に顔を近づける。


「その耳は飾りなの?私は臭いって言ったのよ。その口で息をしないでくれる?」


当然の結果として犯人は怒り狂い、少女から顔を離し、拳銃の引き金に掛けている指に力を入れ始めた。


「どうやら今の状況が分かっていないらしいな。親切なおじさんが教育してやるよ。」


「はぁ?変態の間違いでしょ。」


完全にキレた犯人は、引き金に掛けた指に更に力を加えた。


もういつ発砲してもおかしくない力加減だ。


乗客の皆が、撃たれる!と思った瞬間、発光現象と共に犯人が床へと崩れ落ちた。


―――魔力弾で、顎を正確に撃ち抜いたのか。


完全に気を失った犯人に目をやり、多少赤くなった犯人の顎を見て、何処を攻撃されたのかを分析した。


「な!?お前、何をした!」


仲間が倒された事に気が付いた他の仲間が、朱里に銃口を向けた瞬間、再び魔術が発動する。


途端に二人の犯人は、吹き飛ばされ壁に激突し、肺の中の空気を吐き出す。


もうろうとする意識のなか、彼らが彼女を視界に収めた瞬間、拳大の何かが彼らを襲い、そこで完全に沈黙する。


そして、朱里によって倒された内の一人は、階段を背にしていたため、そのまま一階へと転倒して行った。


―――やってくれたな。


現状、かなりまずい状況になった事に熾輝は、心の中で溜息をつくしかなかった。


当の本人は、フンッ!と鼻で息を吐き、どうだと言わんばかりに熾輝へと視線を向けていた。


「・・・今のは一体。」


朱里が魔術を発動させたのは間違いない、そして熾輝は最初から彼女が魔術師であることを見抜いていた。


だが、あくまでも魔術など知らないという風を装う。


「あっ!」


熾輝の言葉で冷静さを取り戻したのか、朱里は一変して慌て始めた。


「えっと、今のは、えっと・・・」


魔術は秘匿されるべし。


それは、世界の共通ルール。


しかし、彼女はそれを犯した。


しかも目撃者の多い場所でだ。


当然、乗客も今の現象に対し、疑問を持ったのだろう、少々騒がしくなってきた。


「すごい!今の手品どうやったの!?」


「ぇ?」


理由に困っていた朱里を見かねて助け舟を出すことにした熾輝は、あくまで今の現象を手品とする事で、乗客たちの意識を誘導する。


「えーと、そ、そう!私の手品はすごいでしょ!?」


手品という単語に乗客の誰かが、「なんだ手品だったのか」と漏らした途端、次々に他の乗客たちも、そうだったのか等と納得し始めた。


―――集団心理って、ハマるとここまで効果があるのか。


などと思いながら熾輝は、この状況をどうするか思案するが、もはや手遅れとしか結論がでない。


何故なら、朱里が倒した犯人の家の一人が、一階まで転落してしまったのだ。


当然、それに気が付いた仲間が来るに違いない。


「うわ!なんだ!?」


やっぱり、という結果に熾輝はコメカミを抑え始める。


「あーぁ、気が付かれちゃったわね。」


「・・・そりゃそうだよ。」


ヤレヤレと思い、熾輝は、次に彼女がどうするのか、大体の予想が付いていた。


「さてと、それじゃあ一階の変態達も掃除してくるわね。」


―――やっぱりそうなるのか。


「危ないから、行かない方がいいよ?」


ここ数時間程度で、朱里の性格を把握した熾輝には、自分が止めた程度で、彼女が止まるはずが無いのは分かっていたが、それでも万感の思いを込めて、一応聞いてみた。


しかし、


「大丈夫よ、私のほうで、こんな奴ら、やっつけちゃうんだから。」


犯人3人を倒した事に味を占めたのか、朱里は颯爽と歩き出し、1階に続く階段の前で、仁王立ちをして、悠然と階段を降り始めた。


『止めなくても宜しいのですか?』


彼女を心配して双刃が問いかけるが、熾輝は首を横に振って答える。


「あとは、朱里の自己責任だ。」


冷たいように思える熾輝の発言に、双刃は何かを言いたい様な顔をしたが、喉元まで出かかった言葉を飲み込み、後は何も言わなかった。


―――――――――


二階から階段を転げ落ちて来た仲間に駆け寄った犯人の一人が、キョトンとした顔で白目を向いた男を確認する。


「おいおい、完全に伸びてるじゃん。何があったんだ?」


決して答えない仲間に対して言ったのでは無い言葉は、独り言にはならず、二階に続く階段の方から答えが帰ってきた。


「私がやったのよ。」


男が視線を向けた先には、まだ年端もいかぬ少女が階段を勇猛に降りてきている状況が彼の目に移り込んだ。


「次は誰が相手してくれるのかしら?」


余裕な表情を浮かべる少女は、階段から男を見下ろしている。


そして、一階に舞い降りた魔術師は、今度は男を見上げながら笑いかける。


「おい、おいおいおい、何してくれてるんだよ餓鬼。」


男が不用意に朱里へと近づいた矢先、彼女の目の前で、小さな魔法式が展開され、そこから魔力弾が放たれた。


だが、男はその妙な現象を見た途端に後ろへ飛び退き、先程まで自分が居た場所を通過する光の弾を視界に捉える。


男が避けた弾は、そのまま一直線に天上へと衝突し、ドンッ!という音を立てて天上に大きな窪みを作った。


「な、なんだ今のは!?」


訳の分からない男は、窪んだ天上から朱里へと視線を移し、警戒をするが、時すでに遅し、朱里の前には五つの魔法式が天界され、今まさに打ち出される瞬間であった。


―――やっべ!!


男は目を瞑り、襲い来る魔術に耐えるため、頭を抱えて歯を食いしばる。


しかし、何時まで経っても攻撃が襲ってこない。


「ガッ!!」


代わりに聞こえたのは、先程まで対峙していた少女のそんな声だった。


恐る恐る目を開けてみると、少女は身体を痙攣させながら床に倒れている。


よく見ると、朱里の背中からは、細いコードの様なものが生えていて、コードを追っていくと、拳銃の様な物を握りしめた男が立っていた。


どうやら、この男が少女を倒したらしい。


「まったく、子供にやられそうになるとは、とんだハイジャック犯だな。」


拳銃の様な物は、どうやらこの男が発射した電気銃だったようだ。


「あ、ああ。アンタが協力者の航空警察隊員か!」


「そんな事はどうでもいい、それよりも、こんな大事になるなんて聞いていなかったぞ。」


未だ倒れている朱里を無視して、買収されたのであろう航空警察の男は犯人たちに不満を漏らす。


「そいつは、悪かったな。」


騒ぎを聞きつけたリーダー格の男がエコノミークラスの方からやって来て、事情の説明を始めた。


「―――成程、しかし、どうするんだ?このままだと確実に私達は捕まってしまうぞ。」


男の意見も尤もだ。何より、リーダー核の男も今の現状に頭を悩ませていたのだから。


「なあなあ。」


そんな折、先程まで朱里にやられそうになっていた男が、悪戯っぽい声で話掛けて来た。


「何だ、後にしろ。」


「分かってるよ、リーダー。だけどさ、アンタが持っているのってスタンガン銃ってやつだろ?俺にも貸してくれよ。」


「・・・。」


新しいおもちゃを見つけた時の子供の様に、犯人の男は、電気銃に興味を示していた。


うっとおしいと思った男は、子供の様なこの男に電気銃を手渡す。


「へへー、ありがとうよ。これ、一度使ってみたかったんだよなぁ。」


そう言った男は、未だに朱里に電極が付いた状態の電気銃のトリガーをおもむろに引いてみた。


「ヴヴヴヴぁぁぁっ‼」


電流を流し込まれて倒れていた朱里は、身体をビクンビクンと痙攣させている。


「あははははは♪おっもしれー☆」


余程新しいおもちゃを気に入ったのか、男は何度もトリガーを引き、朱里が痙攣している姿を眺めて楽しんだ。


「・・・悪趣味め。」


そうつぶやいたのは、男の仲間だったのか、それとも買収された航空警察の男だったのかは分からないが、どちらにしろ見ていて気分のいいものでは無いのは二人の共通意見だった。


「やめないか!このクズ共め!」


突如として聞こえた声に、3人は階段の方へと視線を向けた。


そこに立っていたのは、杖をもった老人。


杖、魔術発動の媒介としてよく使われるアイテムだが、しかし、この場合の老人が所持している杖とは、高齢者が使う様な歩行を補助するためのステッキであり、魔術に使用される杖のことではない。


怒りの表情を浮かべながら階段を下りる老人は、スタンガン銃を所持する男の前まで詰め寄り、乱暴にその銃を奪い取った。


「あっ、何すんだよ爺さん。」


「やかましい!」


奪い取った銃から伸びる電極コードを朱里から引き剥がし、床へ投げつける。


「こんな、小さな子供を痛ぶって、お前たちは恥ずかしいとは思わんのか!」


老人は、倒れた朱里の傍までやってきて膝を付き、朱里の状態を確認する。


意識を失っているのか、虚ろな目をした朱里は口から唾液をこぼしており、まったく動かない。


しかし、呼吸をしているところを見るに、どうやら命に別状はなさそうだ。


「おい、爺さん。面白いところなんだから邪魔すんなよ。どかないと、アンタにコレ喰らわせちゃうぜ?」


床から拾い上げたスタンガン銃をもてあそびながら男は、ふざけた感じの声で老人をどかせようとする。


「・・・やれるものならやってみろ若造が。」


ギロリと老人の眼球が男を射抜く。


その気迫に蹴落とされたのか、男は後ろへ身を引いて顔を引きつらせる。


「おっかねえな。」


わかったわかったと言いながら片手をひらひらとさせるジェスチャーをした男は、諦めたのか、朱里と老人に背を向ける。


「まったく、いい加減にしておけ。おい、爺さん、アンタもこれ以上騒ぎを起こすな。そのガキを連れてとっとと自分の席に戻りな。」


リーダー核の男が溜息を吐きながら老人に席へ戻るように促す。


しかし、足腰の弱った老人にとって、たとえ子供といえど、人ひとりを抱えて二階の席に戻ることは容易ではない。


「・・・誰か、手を貸してくれ。この子を運ぶのを手伝ってくれないか。」


老人が他の乗客に手を貸してくれと声を上げるが、皆、老人と目を合わせようとはしない。


「ぷぷ、こういう時、人間の本性が出てくるよな。」


そう言って、先程、背を向けた男が再び茶化してくる。


しかし、男の横をまるで何事もないかのようにすり抜けた一つの影があった。


「僕が背負っていきます。」


その少年は、右眼に眼帯をつけた中性的な顔が特徴をしていた。


「・・・すまないね。」


一瞬、老人は驚いた。


先程、朱里が一階へ行くのを止める事をしなかった少年が今度は朱里のために危険な一階へ平然と降りて来たのだ。


熾輝は、倒れ込んでいる朱里を慣れた手つきで上体を起こし、スムーズに背負うと、犯人達には目もくれず、老人と共に二階にあるファーストクラスへと登って行ったのだ。



――――へぇ、面白そうなオモチャ発見♪


犯人の男は、ニタリと笑いながら熾輝へと視線を向けるのだった。




シートを倒し、朱里をそこに寝かせるように置く。


「意識を取り戻しても、暫くは身体が麻痺して動けないでしょう。」


熾輝としては、朱里が暴走しないためには、暫くこのままの方がいいと思っているが、それは余りにも酷いという事は彼自身、自覚している。


「すまなかったね、迷惑を掛けてしまって。」


先程まで犯人達に睨みを聞かせていた老人とは一転して、最初に熾輝たちと接した時と同じ、柔らかい雰囲気に戻った老人は、目の前の少年に礼を述べたが、その表情は、何処か優れない様子が漂っていた。


「いえ、あのままだと騒ぎになりかねなかったので――――『ドサッ!』」


熾輝の話を遮るようにして何かが床に倒れる音がした。


「お爺さん?」


老人の方へと視線を向けると、そこには脱力し、苦しそうにした老人が床に倒れている。


「乃木坂様!?」


倒れた老人に反応した乗務員が慌てて駆け寄ってくる。


「むっむぅ。心配ない、薬が切れただけだ。」


―――――くすり?


老人の言葉を聞いて、何かの病気なのかと思っていると、乗務員が倒れた老人を席に戻すと、いくらか落ち着いたのか、ホッと溜息をする。


「分かりました。今持ってきますので、少しお待ちください。」


そう言うと、乗務員は通路奥の控室へと小走りに去っていった。


「んだ?爺さんどうかしたのか?」


苦しそうにする老人を覗き込むようにして、先程の男が後ろから顔を出す。


「・・・病気らしいです。」


犯人の男に対し、これといった興味は無いが、状況を知っておいてもらった方がいいと判断した熾輝は老人の容体を真面目に答えた。


「ふーん、あっそ。」


男も男で、興味を持たなかったのか、そのまま熾輝達を素通りしてコクピットのある部屋まで足を運ぶ。


―――話しても意味は無かったな。


もしかしたら男が老人の容体を知って老人や他の乗客たちに対し気を使ってくれるかもしれないと淡い期待をしたが、そもそもハイジャックなどという犯罪に手を染める者にそういったいたわりの気持ちなど期待してもしょうが無い事で、かくいう熾輝も特に心配などという感情とは無縁であることを棚に上げている。


「おーい、機長さーん。悪いんだけど飛行機の到着を遅らせてくれるー?」


飄々とした態度の犯人は、コクピットの前であろうことか、到着時間の遅延を要求し始めたのだ。


そんな事が出来るはずないと、他の乗客たちが思っていたその時、ガチャリとコクピットの扉が開かれた。


「なんだ?どうしたっていうんだ?」


扉の中から出てきたのは、機長の制服を身に纏った中年の男性だったが、その異常な光景に乗客たちは我が目を疑った。


なぜなら、ハイジャック犯と旅客機のパイロットが仲睦まじくとはいかないまでも、まるで仲間と会話するかのように話をしているのだ。


「――――てわけなんだ。」


「わかった。管制塔には上手く言って誤魔化しておく。」


その言葉を聞いた乗客や薬を取りに行って戻ってきた乗務員は唖然としていた。


まさか、自分達の命を預かるパイロットが犯人の仲間だったのだから。


熾輝は空いた扉の隙間からコクピット内を観察すると、血の様な液体が床を汚しており、乗客席からは見えない死角からは、男の呻き声が聞こえる。


「ん?なんだ、殺さなかったの?」


「ああ、しぶとい機長さんでね、やっぱり弾丸一発だと中々人って死なない物なんだな。」


「ばーか、そういう時は頭を打つのが普通なんだよ。」


「うるせぇ、打とうとしたら抵抗されて頭に命中しなかったんだよ。」


等と会話を続ける二人を見ていた乗務員は、余程ショックだったのか、そのままへたり込んでしまった。


膝から床に倒れたため、ドンッ!と響く音が機内を反響し、その音に気が付いた男は、乗務員へと視線を向ける。


「あらら、余程ショックだったのかね?そうだよね、信頼していた仲間に裏切られるって相当答えるもんね♪・・・ん?」


乗務員の悲痛な表情がお気に召したのか、犯人はニコニコとしながら近づき、彼女が持っている筆箱位の大きさのケースに気が付いた。


「何コレ?」


「ぁ、」


ヒョイっと乗務員からケースを取り上げた男は、蓋を開けて中身を確認する。


「ん~?注射器?飛行機の中にこんなもの持ち込めるの?」


「ゕ、返して。」


男に取られた薬入りのケースを取り返そうとした乗務員は薬を持つ手に飛びついた。


しかし、運悪く勢いを付けすぎてしまったためか、男の身体に寄りかかる形で犯人を押し倒してしまった。


「いてぇなぁ。」


「ぁ、あのごめんなさっ!」


自分を押し倒した乗務員は男に顔を殴られ、横へ飛ばされる。


立ち上がった男は、乗務員の髪を鷲掴みにして自分の顔を近づけた。


「んだよ、すっちーさん、押し倒したいほど欲求不満なら、言ってくれれば幾らでも相手してやるっつーの。」


「ち、ちがっ!」


男は女性の髪の毛を鷲掴みにしたまま、そのままズルズルと乗務員を引きずって控室の方へと歩き始めた。


「楽しもうぜ~♪」


「い、イヤ!誰か助けて!」


しかし、彼女の声は虚しく響くだけで、乗客の誰もが、ぎゅっと目を瞑り、見て見ぬ振りをする。


「その手を離せ!ゲス!」


その声に、乗客の誰もが驚き、これ以上犯人を刺激しないでくれと願った。


「なんだお前?」


「手を離せと言ったのだ、ゲス。それともいぬちくしょうに人間の言葉は分からぬか?」


今にも襲い掛からない勢いの少女


犯人と対峙したのは、黒髪のショートボブが特徴的な少女、双刃である。


しかし、今はその艶やかな黒髪が逆立っており、般若の如き表情を浮かべている。


「おいおい、また餓鬼かよ。今時の子供は、大人に対する敬意って物が分かっていないのか?」


「お前を亡き者にすることなど、ぞう『すみません!』」


双刃の言葉を遮ったのは、熾輝であった。


主である熾輝が双刃の前を塞ぎ、犯人の男に頭を下げる。


「あん?」


「すみません!許してください!僕の妹は、見たとおり変な子で、直ぐにアニメに影響されてしまうんです!だから変な言葉遣いになって・・・いまお兄さんに言ったセリフも妹が大好きなアニメの台詞なんです!だから怒らないでください!」


「んなっ⁉シ、熾輝様⁉」


主のあんまりな言い方に、本気でへこむ双刃を無視して熾輝は何度も男に頭を下げる。


「・・・確かに変な餓鬼だな、自分の兄貴を様付けなんて、普通じゃねぇ。」


双刃の言葉を良い感じに勘違いした男は、乗務員から手を放して熾輝に近づく。


男の接近に歯を見せて威嚇する双刃を片手で制して、いさめつつ、男と視線を交わす。


実のところ、熾輝が抑えているのは、双刃だけではなく、先程から彼の後ろの方で座る羅漢の肘掛けがギチギチと彼に握りつぶされそうになっており、いい加減この男をここから追い出さなくては、ファーストクラスが真っ赤に染まるし、何よりも双刃に関わる事で、熾輝が無視できるハズが無かったのだ。


「お前、さっきの餓鬼か・・・・。」


まじまじと熾輝を観察する男は、何かを考えているのか、突然ニッコリと笑顔を作って言葉を切り出した。


「よしっ、ゲームをしよう。」


男の予想外の提案に、流石の熾輝も思わずキョトンとした顔になってしまった。


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