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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
修行編
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第三話

 男の子が死の淵から蘇り、半年が経過していた。

その半年間、男の子を捕まえた奴隷商人の一団は、ただひたすら魔界の地を旅して回っていた。


 奴隷商人たちは、時に魔界の権力者の元で奴隷を売り、時には自分たちより弱い魔族の集落を襲い、そこで女子供を攫っては、奴隷を補充するなどの悪行を重ねていた。(言うまでもなく、襲われた集落の魔族の女子供以外を殺してだ。)


 奴隷商人の一団は、月に一度は、奴隷を売るか集落を襲うかを繰り返していたため、奴隷監禁用の牢屋の中が空くということはなく、常に十人程の奴隷が、商品として捕まってる。


 男の子が半年の間、奴隷として売られなかったのは、より高く買ってくれそうな相手に売るためである。

つまり、彼等は人間を高く買い取る相手に心当たりがあったため、半年もの間、目的地に向かって旅をしていることになる。


 意外なことに、奴隷に対する彼等の扱いは、酷すぎるということは無かった。その理由として、キズが付いた商品に大金を払うも者が居ないというだけで、彼等が情に厚いとか、そういった事は決してない。


 一団の移動は、常に徒歩であるが、奴隷達は荷馬車に設置された牢の中で一箇所にされている。その方がバラバラに逃げられるリスクも減り、歩き疲れて売り物にならなくなるという心配がなくなるからである。

 

 その代わり、奴隷たちの食事は、一日一回か多い時で二回行われ、配給される食事は奴隷商人達の残飯がメインと濁った水が与えられるだけである。


 奴隷商人達の他に、この一団には、5人の武器を持った魔族が同伴している。

彼らは、言ってみれば傭兵である。

弱肉強食の魔界では、いつ自分達が襲われてもおかしくないため、彼らは傭兵を雇い、共に旅をしている。


 一団は、魔界の夜が近づいたことから、本日の野営場所を定めて、野営の準備を行っていた。

そんな彼らを眺めながら、二人の奴隷は会話をしていた。



「今日は、ちゃんとご飯もらえるかな?」

「どうだろう、今日は、相当な距離を移動していたみたいだけど、疲れたあいつ等が僕たちの食事の分を残してくれるといいんだけどね。」

「うぅ、昨日の夜から何も食べてないから流石に今日の夜を逃すと飢え死にしちゃうよぉ。」

「この前は、三日間何も食べなくても飢え死にすることは無かったから、あと二日は大丈夫だよ。」

「大丈夫じゃないよ!女の子は、食べないと色々と困る事とかあるんだからね!」

「夏羽の言う困ることって、肌荒れや髪のツヤが無くなるとかだろ?」

「そうだよ、新君には分からないかもしれないけど、女の子はそういうのを気にする繊細な生き物なの!」


 奴隷の身の上で、容姿を気にする余裕がある精神の持ち主を繊細とよく言える。と口元まで出かかった言葉を飲み込み、新君と呼ばれた男の子は、やれやれと女の子の頭に手を置いて、クシャクシャと撫でまわす。


「大丈夫だよ。もし今日の御飯が無かったとしても、僕が昨日残しておいた分をあげるから。」

「・・・新君・・・また御飯残したの?」

「魔界の食事は、僕には合わないからね。食べすぎると、お腹を壊すし、どうせ残すのなら夏羽が食べないともったいない。」

「新君・・・」


 そんな会話をしている二人を、他の奴隷達は自分たちの境遇を考えないようにしているのか、暖かい目で見守っていた。




 話は少し遡るが、今から約半年前、ある事件をきっかけに、魔界に堕ちてきた人間の男の子は、二人組の鬼に拾われ、奴隷として扱われるようになった。

その矢先、男の子は魔界の瘴気により、生死をさまよい、同じ奴隷の女の子に命を救われたのだ。


 女の子は、夏羽という名前で、死の淵に居た男の子の命を救ったのである。どうやって男の子の命を救ったのかは、男の子にも分かっていないが、自分を救ってくれた相手は、目の前に居る自分と同い年くらいの女の子であることは分かっていた。

 

 また、女の子から「新君」と呼ばれていた者こそが、魔界に堕ちて奴隷となり、生死の境をさまよった人間の男の子である。


 新という名前は、奴隷仲間から暫く新入りと呼ばれていたため、名前が無いのは不便だと思った女の子が「新入りの頭を取って、新君で!」と言いはじめたのがきっかけである。


 新が瘴気によって死にかけていたのに、次の日の朝には、平気な顔をしていたことから、他の奴隷達と死にかけの新を見ていた奴隷商人は大層驚いていたのは、言うまでもない。


 そして、話は半年後の現在に戻るのであった。



「夏羽、新、いい加減にしないと奴隷商人に目を付けられるわよ。」

「姉様、だって、話でもして気を紛らわせていないと、空腹で倒れそうなんだもん。」


 話をして騒いでいたら余計にお腹は空くのでは?なんて思いつつ夏羽の話を聞きながら、新は話掛けてきた奴隷の女に向き直った。


「・・・ごめんなさい、遥姉さん。昨日の夜から何も食べていなかったから、今日の夜ご飯は大丈夫かなって、心配をしていて、少し騒がしくしちゃいました。」

「新、あなたは夏羽よりしっかりしてるんだから、その分夏羽の面倒をよく見なきゃ駄目よ。」

「あー、姉様ひどーい。」


 遥姉さん(姉様)と呼ばれたこの女、実は新が奴隷として捕まってきた時からずっと面倒を見ていた者である。


 夏羽は、姉様と呼んでいるが、別に二人が血の繋がった姉妹という訳ではない。

 新が捕まる以前から遥は、奴隷として捕まっており、その後、捕まってきた夏羽がずっと泣いていた事から見かねた遥が世話をして、そんな彼女を夏羽は自然と慕うようになり、いつの間にか姉様と呼ぶようになったのである。


「夏羽、どうやら飢え死にしないで、済みそうだよ。」

「本当だ!こっちに、お鍋持って誰か来る!・・・ぁ」


牢屋に配給係が近づいてくると思い、喜んだのも束の間、夏羽は、その近づいてくる男を見て、あからさまに嫌な顔をした。


「よぉクソガキィ、元気してるかぁ?」


人を小馬鹿にしたような、嫌らしい声を掛けてきた男は、配給用の大鍋を持って、牢の前まで来ると、新に話しかけてきた。


その男は、傭兵のリーダーを務めており、身長は、他の傭兵達と比べてかなり低い方である。しかし、180センチ程のガッチリした体格をしている。

黒髪オールバック、黒い瞳に白人特有の白い肌をしたその男は、一見すれば新と同じ人間

であるが、男から感じるオーラは、魔族だけが持つ生命エネルギー(妖気)であった。

鬼塚は、暇さえあれば、何でもない理由をつけて、新に絡んでくる。

新もそれが分かっていて、いつもの戯れと思い相手をすることとした。


「・・・見れば分かるだろ?腹ペコで死にそうだ。」

「カッカッカ、確かに、殆ど骨と皮だけって感じの良い身体になってきたじゃねぇか。」

「この身体を見て、良い身体だなんて、一回、目の検査でもしろよ、鬼塚」

「へッ、俺の視力は両目とも問題ないゼェ。」

「だったら、感受性に問題があるんだな。」

「ククッ、ハーーハッハッハ、感情を持たない能面のお前に感受性の話をされるとはな。」



いつもの様に交わされる両者の言い合いを聞いていた奴隷たちは、皆、怯えるようにして鬼塚と呼ばれた男をみていた。それ程にこの男を敬遠する理由は、皆が等しく共有していた。


奴隷商人が襲う集落というのは、確かに自分たちより弱い存在を狙って襲撃が行われているが、集落の者達が全員奴隷商人より弱いなんてことは無いのだ。


どの集落にも、戦闘に突出した存在がいるか、鬼塚のような傭兵を雇い、集落の防衛を行っているのが殆どである。


しかし、この奴隷商人の一団が通った集落は、いづれも等しく壊滅させられていた。

その理由は、彼らが雇う傭兵、つまりは鬼塚達が強過ぎるのだ。


鬼塚たちは、暴力の限りを尽くし、集落を襲い、奴隷になった者達に恐怖を植え付け、逃走することの出来ないように心をへし折ることまでしているのである。


鬼塚と新の会話は、言うなればいつも通りの会話であるはずだった。

しかし、夏羽はこの男が嫌い、いや、憎んでいたのだ。この男の手によって、自分の父親を目の前で頭を潰され、母は、乱暴された末に首を絞められて殺されていた。



だからこそ、夏羽は鬼塚という存在にいつも怒りを感じていた。

いつもなら、鬼塚が絡んでこようと、無関心を貫いていたはずであるが、空腹だったせいか、鬼塚の些細な皮肉に今まで溜め込んでいた感情が一気に噴出してしまったのだ。


「うるさいわね!新君は、感情が無いわけじゃないわ!とっても優しくて、いつも私の事を大事にしてくれているんだから!あなたみたいな汚らわ――――ッ!」


そこまで言ったところで、遥が夏羽の口を塞ぎ、無理やり黙らせた。

しかし、一歩遅かった。


「・・・へぇ。」


ギロリと男の視線が夏羽を射抜く、その瞬間、夏羽の顔が青ざめ、沈殿させていた過去の恐怖が蘇り、足腰が震えだす。


「なぁ、嬢ちゃん。いくら面が良くて周りからチヤホヤされているからって、あまり調子に乗らない方がいいぜぇ?」

「ぁ、・・・あっ・・・」

「俺はよう、誰かに悪意を向けられれば、そいつをシコタマ痛振るって決めててよぉ、お前の母親もお前と同じ目をしていやがった。男を殺したくらいで、俺に歯向かいやがって、散々痛めつけて可愛がってやったのに、チョット首を絞めてみただけで死にやがって。最後い言い残した言葉は何だったっけかぁ?」


男の呪言に、恐怖という名の記憶が蘇り、夏羽の目の前で殺された両親のこと、最後に母親が残した言葉が鮮明に甦る。


「『お願いしまぁす。娘だけは助けて下さーい。どうか生きてぇー。』だったっけかー!笑わせてくれるぜ!血の繫がっていない奴のことを娘だなんてなぁ?」

「おまえーっ!許さない許さない許さない許さない!」


暴れまわる夏羽を必死に押さえつける遥であったが、予想以上に強い力に腕の拘束が外れ、その隙に鬼塚へと向かう夏羽だったが、そこには、木を削って作ったような棍棒を振り上げている鬼塚が、ニヤリと薄ら笑いを浮かべて立っていた。


「そうこなくっちゃなー!この半年以上、新に絡むふりをしてお前の様子を観察させてもらっていたぜぇ。精一杯無関心の振りをしていたけど、いっつも、俺が近づく度に、震える身体を必死に抑えているお前は見物だったぜっ!」


言いながら棍棒を振り下ろすその先には、鬼塚に敵意を向けて走りだす夏羽が居た。

夏羽は振り下ろされる凶器に気が付かないのか、勢いを殺さずに真直ぐ突き進んでいく。

そんな夏羽に向けて、無情にも棍棒は振り下ろされ、バキッ‼という音と共に子供の頭を容赦なく打ち付けた。


余程強く振りぬいたのか、棍棒は、中程からへし折れて、血の付いた先端部分は、地面に転がっていた。


頭の頭頂部は、浅い裂創が刻まれ、少量ではあるが傷口からは出血が認められ、額から頬を伝って血液が地面へと、ポタポタ落ちていた。


棍棒が直撃する寸前に夏羽は、凶器の存在に気づいたが、回避も防御も間に合わず、目を瞑りながら、そのまま鬼塚めがけて走っていたとき、前もって頭にくる激痛に耐える準備をしながら進んでいた時、ドンっ!という衝撃と共に地面に転倒し、頭を押さえて丸くなりながら震えていたが、いつまで経っても、夏羽の頭に激痛が襲ってくることは無かった。


そっと、目を開けたその先には、血を流しながら夏羽と鬼塚の間に割って入った新の姿があった。


「・・・新君。」

「夏羽、怪我はないか?」


頭から血を流し、新は夏羽に振り返り、問いかける。

しかし、新の声質に変化はなく、そこに心配という感情は篭っていない。


「おいおい新、邪魔をするなよぉ。折角このガキを教育しようとしてたのに、白けちまうぜぇ。」

「鬼塚、どういうつもりだ?夏羽は、お前に殴られるような事はしていないのに、わざと怒らせるようなことをいって。」

「いんや、そいつは俺を怒らせるようなことをしているんだぜぇ。」


「言っている意味がわからん」とばかりに首を傾げてみると、鬼塚は続きを話し出す。


「そいつはなぁ、事あるごとに俺を睨んでいるんでなぁ、いつも頭にきていたんだよ。今まで黙っていたのは、一応商品だったから大目にみていただけだ。だが、それも我慢の限界でな。俺が教育を兼ねてそのガキを焚き付けたって訳よ。」

「護衛のお前が、俺達に手を出したら依頼主もお前たちを解雇するとは思わなかったのか?」


奴隷である自分たちは、奴隷商人からすれば商品であり、傷でも付けばその価値は下がってしまう。

彼等のような傭兵は、外的から奴隷商人とその商品を守るために雇われているのだから、その護衛役が商品を気づ付けるようなことがあれば、本末転倒である。


「へっ、お前の言っていることは、尤もだ。だがなぁ、先に手を出してきたのは、そのガキで、俺はそれを止めようとしただけだ。まぁ、間にお前が割って入ってきちまったから思い通りにはいかなかったがな。」

「元々危害を加えるつもりで来たくせによく言う。それに、牢屋に入っている俺達にお前を気づ付ける力もないことは、奴隷商人にも分かるはずだろ。」

「バレたら首になるのは俺だと言いたいのか?」


鬼塚の自信たっぷりな質問に「当然だ」と言わんばかりに頭を縦に振る。


「だったら、考えが甘いな。ここら辺の魔族や魔獣は、どいつも強い連中ばかりでな、今俺達を首になんかしたら、奴隷商人どもは、あっという間に皆殺しにされるはずだ。だから、遠目にこっちを覗っているあいつ等は何も言ってこねぇのさ。」


鬼塚の言う通り、先程からこちらの様子に気が付いているであろう奴隷商人たちは、何も言ってこない。


「それにな、奴隷商人どもには、もし奴隷が俺の機嫌を損ねるようなことをすれば、教育するって、最初から言ってあるんだよ。」


どうやら、奴隷商人との契約には、鬼塚が奴隷に対して暴力を振るうことは、最初から分かっていたことのようだ。

しかし、だからと言って、自分たちの商品に傷がつくようなことを彼等は、許しているのだろうか。


そんな会話をしている内に、一人の奴隷商人が、見かねたのか、こちらに近づいてくるのが、新の視界に入った。


「旦那、困りますよ。その人間を気づ付けられては、価値が下がってしまいます。」

「悪かったな、ちょっと、そこの女を教育しようとしたらコイツが間に割って入ってきちまったんだ。」

「大した傷じゃなさそうだからいいですが、気を付けてくださいね。」

「・・・あぁ、以後気を付ける。」


そう言って、去って行った鬼塚は、どうにも機嫌が悪そうだった。

この場に来た奴隷商人は、ウンザリした様子で、鬼塚の背中を見送った後、牢屋の脇に置きっぱなしになっていた大鍋を持って、配給を始めた。


「おい人間、怪我は大丈夫か?」


勿論、新を心配して出た言葉では無く、商品が傷物になっていないかの確認の問いであった。


「問題ない。血も止まってるし、浅く切っただけだ。」

「・・・そうか、まぁ人間用の薬なんて無いから、手当なんて出来ないから怪我なんかするんじゃねぇぞ。」

「そう思うなら、あいつをしっかり見張っていればいい。」

「口だけは達者じゃねぇか。まぁ、あと一週間後には、お前の買い取り先の所に付くんだ。それが終わったら、こんなヤバイ所ともおさらば出来るし、お互いあとちょっとの辛抱だな。」


そう言い残して、奴隷商人は去って行った。


先程から夏羽が、不安そうな顔をうかべてこちらを伺っているが、その目には、涙溜り、今にも泣きそうな顔をしていた。


「夏羽、僕は大丈夫だから、泣かないで。」

「新君・・・ごめんなさい、ごめんなさい。」


新の言葉を聞いて、とうとう泣き出してしまった夏羽の頭に手を置いて、クシャクシャと撫でまわす。


「僕が、勝手にやったことだ。それよりも、折角御飯が配られたんだから、食べよう?」

「・・・うん」


一段落ついたことを確認した奴隷たちは、それぞれが配給された食事に手を付け始めた。

彼等にとって、少し不味い位の食事は、奴隷になる前から当たり前の物であったが、人間の新にとって、やはり魔界の食事は合わないらしく、吐きそうな感覚を周りに分からないようにして、いつものように飲み込んだ。



その日の夜中、野営場の見張り以外、全員が寝静まっていたころ、新は魔界の空を仰向けになりながら、じっと眺めていた。しかし、ただ茫然と眺めている訳ではなく、考え事をしていたのだ。


夕飯前のひと騒動の時、奴隷商人が、「あと一週間で、買い取り先の所に付く」と言っていたが、その後、夏葉はどうなるのだろうか。

また、今日みたいに鬼塚に絡まれたりしないだろうか。

今日は、たまたま間に割って入ることができたけど、おそらく鬼塚の嫌がらせは、まだつづくだろうし、夏羽が牢屋の外に出されて危害を加えられたら、今の僕の力ではどうすることもできない。

半年前に夏羽に助けられて以来、僕の身体には、不思議な力が身についている。そのおかげで、鬼塚の棍棒で殴られた時も、あの程度の怪我で済んだのだと思うし、もっとこの力について知る必要があるな。

上手くこの力を使えるようになれば、夏羽を守れて、尚且つこの奴隷商人達からも夏羽を逃がせるかもしれない。


夏羽に命を救われたからだろうか、感情を失ったはずの心の中に、彼女を救いたいという思いが、彼が気が付かない内に密かに芽生えてきていたのだ。


しかし、彼の思いが叶う程、魔界は優しく出来てはいなかった。


その夜、彼等の野営場を遠く離れた崖の上から伺っている一団がいた。

数にして、およそ30の魔族。その全ての魔族は、皆が武装しており、ニヤ付いた顔をしながら奴隷商人の一団を捉えていた。


「団長、準備が整ったぜ。いつでも号令を掛けてくれ。」

「そうか・・・。」


団長と呼ばれた男は、3メートル近い身長に頭の側頭部からは、二本の角を生やし、背中からは悪魔のような翼を生やしている。

その男が、腰に帯刀していた刀をゆるりと抜き放ち、その切っ先を奴隷商人の野営場に向けて号令を掛ける。


「奪い尽くせ」


その声は、大きく張ったものでは無かったが、団員達の誰もが聞き漏らすことが無く、その場だけに響き渡った。

その瞬間、団員達は、雄叫びを揚げることはなく、その身に宿る妖気を一気に解放し、皆が団長の号令に応えるように、音もなく崖を下りながら疾走を開始した。

ただ全てを奪いつくすためだけに。

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