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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
修行編
35/295

第三四話

魔術師・能力者、これらの特別な力を有する一族は、日本に数多く存在しており、彼らを取り纏める役目を担う十の一族、それが十傑と呼ばれる者達である。


彼らは、古くから日本を陰から支えてきた功労者であり、政府とも太いパイプで繋がれている。


故に彼ら十傑無しには、日本の霊災を国家だけで治める事は出来ない。


その理由は、慢性的な人手不足である。


今から千年以上前、まだ平安時代と呼ばれていたころ、日本には陰陽道という魔術や能力の集合体である概念が存在していた。


この頃の人々は、理屈抜きに神や魔術、異能の力を信じていた。


国の機関としても陰陽寮という対霊災の役職が存在しており、全国の魔術師・能力者は、その知識を集結させていた。


しかし、時代の移り変わりにより、人々は、神や霊、そして魔術や異能の力を信じなくなり、科学で証明出来ない物を認めなくなった。


そんな時代の移り変わりは、彼等を排除する流れとなり、一つに纏まっていた彼らは、日本各地、果ては世界各地へと塵尻になっていった。


そして、近代では、魔術などの特別な力を信じなくなった人々に対し、世界の事象である力の一部が秘匿されてきた。


それでも霊災は実在する。


今日まで、人々が平和に暮らしてきたのは、例え国の元で一つにならずとも、塵尻になった魔術師や能力者が一つの組織として動いてきたことも大きい。


また、陰陽寮も形と名前を変え、今では、超自然対策課として現代まで存在し続けていた。


だが、それでも、秘密機関である以上、人員を十分の確保する事が敵わず、有事の際は、そういった一族達に力を借りざるを得ない。


だからこそ、彼等一族のトップである十傑の影響力は大きいのだ。


――――――――――――

東京下関の一角に存在する国の庁舎の前に一台の黒塗りの車が止まる。


運転手は、素早く車から降りて、後部座席のドアを開け、また助手席から降りた女性は、用意していた車椅子を後部座席ドア横へと付けた。


年齢にして60歳を超えている白髪交じりの老人は、ゆっくりと車椅子に移動し、付き人に進むよう促す。


老人と言えば車椅子に乗るのもおかしくは無いが、それでも60歳にしては早すぎる。


しかし、その理由は、彼を見れば誰もが納得するだろう。


両足、左手の義足がその理由だ。


「はぁ」


そんな老人からは、深い溜息がもれ、付き人の二人は、普段見せない己の主の姿に表情には出さずとも、内心困惑していた。


庁舎内に入り、奥のロビーに進んだところで、彼の良く知る人物が見え、相手もこちらに気が付いたのか、老人の傍まで寄ってきた。


「これは、これは、五月女殿、身体の方は、もう宜しいのですか?」


そう、この車椅子に乗った老人こそが、五月女清十郎の父であり、八神熾輝の祖父である五月女家現当主【五月女重吾】である。


むら殿・・・見てのとおりですよ。」


四肢の3つを失った男に身体の調子を伺うのも変な話ではあるが、重吾は、5年前の神災のおり、重傷を負い、それから約2年の間、目覚めていなかったのだ。


医師からは、四肢の喪失の他に身体に後遺症が残ると診断されていたが、奇跡的に後遺症が残ることは無く、四肢の3つを失っただけで済んだ。


もっとも、この3年の間は、必死のリハビリに耐え、ようやく日常生活に復帰出来るようになったのである。


「それよりも、何やら騒がしいですな、何かありましたか?」


「・・・五月女殿には言いずらいのですが、たびの件で、十傑に招集が掛けられた後、とある結社が、件の少年を襲ったという情報が先程、木戸殿より入りました。」


男がいう此度の件とは、八神熾輝を封印指定とする案件についてである。


熾輝の祖父である重吾が招集を受けた十傑の集まりは、熾輝の封印指定についての協議の場であり、それに対し、重吾と五月女と縁のある少数派は、封印指定に反対の姿勢を取っていたが、その話をする前に、熾輝が襲われた情報を知り、重吾の顔には動揺の色が濃く見えていた。


「なんだと!?それで、少年は無事なのですか?」


「今は、まだわかりません。事情説明のために木戸殿が、今回の招集に参加するらしく、こちらに向かっていると聞いています。」


「・・・。」


困惑する重吾を他所に、時間は刻々と過ぎてゆき、時計の針が3時を回ったところで、一人の男性が、重吾等を会議室へと来るように案内を始めた。


部屋の中には、大きな丸机が設置されており、等間隔に椅子が並べられている。


重吾と津村以外は、既に来て会議室で待っていたのか、二つの席を除いて全ての椅子には、この国を陰から支えてきた一族の長である8人が居並んでいた。


「これでようやく揃いましたね。それでは、十傑会議を始めますか。」


十傑会議とは、定期的に開かれる彼らの集まりの場であり、毎度、この会議の議長は、順番で変わっている。


今回の議長を務める男が、会議の開始を告げ、遅れてきた重吾と津村が席に着いた。


もっとも、重吾は車椅子であるため、椅子を壁脇まで寄せて、そのまま車椅子で席に着いている。


重吾は、付き人に部屋の外で待機しているよう、支持をすると、早々に二人は部屋を退室していった。


「さて、皆さん既にご存知の情報かと思いますが、先程、十二神将の木戸殿より、件の少年が、とある結社に襲われたとの情報が入りました。今のところ、少年の安否については、情報が入はいませんが、現在事情説明のため木戸殿がこちらに向かっています。」


議長を務める男は、情報整理のため、現在の状況をこの場にいる全員に開示をする。


「しかし、本件議題について、件の少年の安否を問わず結論を出すものとします。」


男は、熾輝の安否の是非を問わず、結論のみを出す旨を提示した。


それについて異議を出したのは、重吾である。


「それは、いささか事を急ぎ過ぎではないですか?せめて事情説明に参られる木戸殿を待ってからでもいいのでは?」


時間稼ぎと言えば、何か奇策でもあるのかと聞こえなくも無いが、実際の所、重吾にこの場を同行できる奇策がある訳でもなく、言ってしまえばただの悪あがき・・いや、悪あがきにすらなっていない。


ただ、自身の孫の未来がこれで決定されてしまう事に納得のいかない彼は、何かしなければならないという自己満足に近い行為だった。


「・・・まって何になるのです?」


ここで、一人の女性が発言をする。


「何?」


「この件については、今までも議論を重ねてきた事。今更待ったからと言って、皆さんの結論が変わる訳では、無いでしょう。それに、ここに集められた皆さんは多忙を極める身の上の方々ばかり、時間は有意義に使うべきではなくって?」


年のころは、重吾とそう変わらないが、目の前の女性は、未だ30代を思わせるような顔だちをしていた。


「五十嵐殿、なんて事いうのです。少年は、熾輝は、彼方にとっても実の孫では無いですか!?」


【五十嵐御代】彼女は、熾輝の母方の祖母であり、それが五十嵐と呼ばれた女性の正体である。


「五月女殿、私情を挟むとは、彼方らしくも無いですね。それに、我が一族は、遠の昔に恵那とは縁を切っています。」


「だから他人だと言うのか?」


「それは、彼方の一族も同じはずでしょ?」


五月女家と五十嵐家、共に何人もの優秀な人材を輩出してきた家柄であり、その影響力は、十傑の中でも大きく、実際に日本には一族の派閥というものが存在しており、そんな派閥の中で、特に大きな力を有しているのが、五月女と五十嵐の家なのだ。


それ故に、彼らの家は、大昔から仲が悪い。


「お二人とも静粛に。」


二人のやり取りに待ったを掛けた議長が、一つ溜息を吐いて、両人を交互に見る。


「お二人の御家の事情は、ここに居る全員が知るところではありますが、だからと言って、今回の件を特別扱いする事は行かない事は分かっていますね?」


「勿論ですわ、私は、最初からそのつもりで会議に参加していますもの。」


実の孫に対して、何とも思っていないかのような彼女の発言が重吾には酷く歪んで聞こえた。


「・・・分かっております。」


「まぁ、しかし、我々とて、そう言った事情を知る者達であるからこそ、今まで何度もこの件に関して協議してきたのです。しかしながら、件の少年については、余りにも根が深すぎる。」


根とは、熾輝の両親が行った魔術とそれに伴い発生した犠牲を指している。


「五月女殿、ここは、感情を抜きにして、十傑としての務めを果たしてくださいませんか?」


「・・・。」


再開される会議の中で、重吾は己の無力を知った。


あの日、五十嵐恵那と結婚すると言い出した息子、五十嵐総司。


両家の間には、何代も続く深い溝があり、当然周りは、反対した。


その反対を押し切り、半ば駆け落ちで家を出た息子は、五月女と縁を切り、新たに八神という姓に変えた。


数年後、二人に子供が出来た事を知り、こっそりと覗きに言った時、直ぐに覗き見がバレて、息子の家族と対面した際、すんなりと自分を受け入れて、孫を抱っこさせて貰った時の事を今でも覚えている。


あの時、何故結婚に反対しなければならなかったのか、そして今も何故この会議において自分は、何も出来ないのか。


彼の一族当主としての立場が、十傑の一人としての立場が、一人の祖父としての立場以上に自らを縛っている。


「それでは、今まで何度も話し合われてきた事ですが、件の少年、八神熾輝の封印指定の決議を取ろうと思います。」


そして、その時は、やってきた。


一人の人間の、孫の人生を大きく左右するであろう決定の時が、その先に未来は無い事が男には、分かっている。


「封印指定に賛成の物は、挙手を『バンッ!』」


決議を取ろうとしたその時、会議場の扉が音を立てて、開け放たれた。


「いやいや、遅くなってすまなかった。ちょっと、事後処理に手間を掛けちまってよ。」


扉を開けたのは、十二神将の頭である木戸伊織だった。

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