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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
修行編
33/295

第三二話

日本某所にある建物。

付近を山々に囲まれた場所にその見えない建物は、存在していた。

日本最大級の魔術結社【暁の夜明け】の本部である。

今現在、その本部内は、騒然としていた。


「必要な資料をかき集めろ!」


「遺産関係のデータは厳重に保管してトラックに乗せろ!」


「おいっ!そんな物はいいから保管庫の物を急いで封印処理しろ!」


そんな慌しい彼らを他所に、一人の男が中央の廊下を歩いて自分の部屋まで戻っている途中だった。


その隣には二人の付き人が居て、彼らもこの状況に浮き足立っているのか、先程から落ち着きがない。


「総帥、強襲部隊の通信班から作戦失敗の通信を受けて既に2時間が経ちます。急いでここを出なければ、ここも危険かと。」


「落ち着け、いくら真部達が敵の手に落ちたからといっても、そう簡単に口を割るまい。」


「そうでしょうか?今回の作戦は、既に対策課の連中が関わっていたとの連絡を受けています。十二神将の中には、精神操作の固有能力を有した者が居ると聞き及んでいます。いくら信仰の厚い者達でも能力者に掛かれば簡単に口を割ってしまいます。」


「そうだろうな、しかし、奴らとて公にはされていないまでも、国家機関だ。そう安々と動けはしまい。」


男の言う事も一理ある。


十二神将とて国家機関の一つである限り、その行動を起こすには、色々と面倒な手続きを踏まなければならないのは、普通の公務員となんら変わりがないのだ。


それが、日本最大級の結社相手ならなおさらのことで、人員の確保だけでも相当な時間を要す。


「移転の準備にはどれ程の時間がかかる?」


「あと1時間もあれば、当施設を放棄できます。」


「そうか、ならば私が出るのは皆と一緒だ。信徒を置いて我先に逃げたのでは、話にならんからな。」


そういうと、男はエレベーターに乗り込む。


「お前たちには、現場の指揮を命じる。放棄の準備が整い次第、呼びに来てくれ。」


「「はっ!」」


男が乗り込んだエレベーターの扉がゆっくりと閉じられる。


「(しかし、真部も意外と使えない男だ。あれ程の戦力を貸し与えられておきながら、子供一人も攫ってこれないとは。・・いや、それだけ相手の力が勝っていたのだろう。)」


男は、使えない部下の失態に溜息を吐きながら、自分の部屋がある最上階へと昇っていく。


「(だが気になるのは、神代魔法の鍵が本当に件の子供に隠されているのかどうかだ。あ奴の回りには、五柱でも魔術のエキスパートである東雲葵がいると聞いているが、果たして奴がこの五年間で何も調べなかったなどと言う事はあるまい・・・ならば既に鍵は少年から失われ、何処かに隠してあると考えた方がいいだろう。)」


『ポーン』


最上階への到着を知らせる電子音が鳴り響き、男は一旦思考を中断させ、自室に向かう。


エレベーターを降りて、目の前にある扉を開ければ男の部屋である。


男は、総帥の証である豪奢な大杖を扉にかざし、呪文を唱える。


すると『ガチャリ』と部屋の鍵が開錠される音と共に、幾重にも張られた結界が消失する。


扉を開けて自室に帰ってきた男は、部屋の電気が付いていない事に疑問を覚えた。


いつもなら、部屋を空室にしていても電気だけはつけられているはずの部屋の電気が切られている。


「やれやれ」


男は、暗い部屋の中、壁に設置されているハズのスイッチを手探りで探した。


普段は、自分が付けることのないスイッチを探すとなれば、実際、何処にスイッチがあるのか男は把握できていないため、探し当てるにも一苦労だ。


そんな中、自室の椅子が軋む音が部屋に響いた。


「誰だ!」


暗闇の中、窓ガラス越しに月明かりが僅かに差し込む。


薄暗くて良く見えないが、いつも自分が座っている椅子の上に誰かが腰を下ろしている姿だけは分かる。


男は、慌てて杖を握り直し、明かりのスイッチを探し続け、ようやく壁の突起物に手が掛かると、それを押し込んだ。


パチッ!


小気味よい音と共に天上の明かりが部屋を照らす。


「貴様、何者だ、どうやってこの部屋に侵入した?」


椅子に腰かけていた男は、足を組んで仰け反った姿勢で大杖を持った男を見ている。


そして、ゆっくりと口を開いた。


「初めまして、暁の夜明け総帥、先程は甥っ子が世話になったな。さっそくお礼参りに来てやったぞ。」


「なに!?では貴様が五柱、五月女清十郎か!」


「俺の事を知っているのなら自己紹介の必要は無いな・・・悪いがお前等の組織は今日限りだ。」


清十郎は、椅子から立ち上がると、腰に帯刀していた刀を引き抜いた。


―――――――――――――――


「始まった様です。」


見えない建物の遠方から携帯電話で報告を入れる風間とその部下達が待機していた。


「しかし、本当に彼一人に任せても良かったんですか?」


『これは、やっこさんのいくさだ。そこに俺達が横やりを入れるのは無粋が過ぎるだろうよ。』


電話の向こうからは、年配男性の声が聞こえるが、その声は、何処か楽しそうな声色をしている。


「だけど、流石に敵の数が多すぎますよ。これでは、死にに行くようなものです。」


根が真面目な風間は、自分達が加勢に行けるよう、上司に具申するが、次の言葉でそれは切り捨てられた。


『なぁに、お前さんが思っているほど、五柱って肩書は伊達じゃねぇんだ。確かにお前さんは、家のホープで頼りにもなる。だがな、今お前さんらが突っ込めが、やっこさんの足手まといになるか巻き添えを喰らって死ぬかのどちかだ。』


「・・・確かに俺は、十二神将になって日も浅いし、先代達に比べればまだまだでしょうけど、足手まといになる程弱いとは思っていません。」


上司の言葉に少し腹を立てた風間が珍しく食って掛かる。


『怒んなよ。だけどよ、俺が言っている意味は恐らく直ぐにでもわかるぜ。だからお前らは、俺を信じて、事が終わった後の処理をしてくれ。』


別に上司を信頼していない訳ではない。


しかし、仮にも日本トップの実力を持つ風間にとって、この命令だけは、納得できるものでは無かった。


彼は、正義感が強く、自分の力で弱気者を守る事こそが使命と思っている人間だ。だからこそ、この現状に彼は、少なからず苛立ちめいたものを感じていた。


つい先ほどまでは


ドオオオオオオオオオンッ‼


突如として巻き起こった轟音と爆発


電話に意識を向けていた風間は、思わず音源に目を奪われる。


『おお、今すげえ音がしたな?てことは、やっこさんの仕事が終わったか?』


「い、いえ。」


爆発は、一度では終わらず、二度三度と立て続けに起こる。


現状を見ていた風間は、目を疑っていた。


「何なんだ、これは。」


彼が見ている物は、肉眼による現象だけでは無い。


膨大な魔力とオーラの激突


それが風間の視ている物の正体


「あり得ない。これが人間の力だっていうのか?」


『・・・風間、悪い事は言わねぇ、お前らは手ぇ出すなよ。』


それを最後に電話の向こう側から一方的に通信を切られた。


「(これが五柱の実力・・・すごい!)」


目の前の現象に、風間は自身の非力さを確認させられた。


しかし、彼は決して己の力に卑下することは無く、さらなる高みを目指す決心を固めたのだ。


―――――――――――

「良かったのかい?あんたの所のホープが自信を無くしかねないだろうに。」


そう言ったのは、昇雲だった。


「いやいや、ねーちゃん、家のホープを見くびって貰っちゃあ困るぜ。」


携帯電話をポケットにしまい込みながら男は愉快に答える。


「ああ見えて風間は、強さに対して貪欲な男だから、逆に闘争心を刺激されている筈だ。」


部下の性格をよく理解しているこの男は、風間の上司であり、現十二神将最強の男、木戸伊おり


「カッカッカ、随分と面白い男じゃないか」


二人の会話の外から入って来たのは、佐良志奈円空だった


ドカドカと大股歩きでやってきた彼は、見えないハズの眼で木戸を見据える。


「法師、お疲れ様でした。」


「なぁに、あれくらいの距離なんぞ、散歩の内にも入らんわい。儂に掛かればひとっ飛びじゃ。」


「だけど、あの人数を運ぶには苦労したのでは?」


「楽勝じゃ、むしろ、酔った連中がゲロを吐き散らかした時の方が堪えたわい。」


ガハハハハと笑う円空の元に木戸が進んで前に出た。


「彼方が、【聖仙】佐良志奈円空様ですかな?」


「【聖仙】なんて気取った名は好かん、円空で構わん。まぁ、呼びずらいなら法師でいいぞ?」


「それでは、法師と呼ばせていただきます。」


「好きにせい。」


「先ずは、家の者がこの度は大変ご迷惑を掛けた事を謝罪します。」


木戸は、目の前の男に深々と頭を下げた。


「よせよせ、男が簡単に頭を下げるな。それに、お前さんは十二神将のトップなんだろう、部下の前で頭なんか下げんな。」


チラリと視線を向ければ、遠くで、待機していた部下(十二神将以外の職員)達が木戸の態度に困惑している。


「へえ、スミマセン、性分なもんで。」


「迷惑なんて思っておらん。むしろ、家の弟子には良い勉強になっただろうさ。」


「さて、互いに挨拶は済んだことだし、そろそろ行こうじゃないか?」


二人のやり取りに一区切りついたと判断した昇雲は、これから三人が向かう先を案内するように木戸に語り掛けた。


「オウよ、ねーちゃん。向こうのいくさは絶対強者に任すとして、俺達の戦を始めようか!」


「心が躍るの、一体どんな連中が待っていることやら。」


三人は歩き出す、彼らに用意された戦場は、武力という力が一切通用しない世界。


いわゆる交渉の席というやつだ。


見ているだけで、その存在感に押しつぶされるのではないかと思う程の威圧感、そんな彼等を見た者たちは、次々に道を開けて廊下の隅っこで身を縮ませる。


「それとね伊織」


「?なんだい、ねーちゃん」


「いつから私があんたの姉になった!」


昇雲の拳骨が木戸の頭に落とされた。


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