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鍛鉄の英雄  作者: 紅井竜人(旧:小学3年生の僕)
修行編
31/295

第三〇話

遠い昔の出来事、清十郎だけが知っていた真実


しかし、彼女は最近になって、真実を知る事となった。


【他心通】人の心を知る力

仙術の修行を開始した熾輝が、度々力を暴発させてしまう事は、既に知っているとは、思うが、熾輝はこの力を無意識に発動させてしまう。


主に彼が意識を失う時や、睡眠時に暴発させることから、彼の意志とは全く関係ないところで発動してしまう。


そのため、そこに彼の意志は存在せず、ただ他人の心を繋げるという事象のみが発現する。


当の術者本人である熾輝は、心を繋いでもその記憶を覚えていることは無く、誤爆した本人同士が覚えているだけなのだ。


つまり、この誤爆により彼の師である清十郎と葵の心を強制的に繋ぎ、清十郎が隠し通していた記憶を葵が知ることとなったのだ。


そして、過去と同様に清十郎は、再び葵に代わって生命の命を絶つ。


「ガアアカカおか」


岩鬼は、依然として意識を保っており、その身体からは、魔力が微量なれど放出され、魔法式の構築を始めていた。


しかし


斬!


清十郎は、迷うことなく刀を振り切る。


斬られた妖怪は、それから全く動かなくなった。


葵は、ただ一言、誰にも聞こえない声で


ありがとう


と清十郎に礼を述べた。



――――――――――――


師匠二人と合流した熾輝は、現在、葵に体中を触られていた。


別に葵が過保護に熾輝を構おうとしている訳ではなく、医師としての仕事をしているだけなのであって、触診を行っているだけだ。


「体中に打ち身と切り傷はあるけど、どれも大したことは無さそうね、骨にも異常は無いし、意識もはっきりしてる。」


一通りの診察を終えた葵は、熾輝に上着を着るように促し、倒れている二人の男性に目をやった。


一人は、十二神将就任前と言っていた神狩という柄の悪そうな男、そしてもう一人は、葵の兄の事件のきっかけを作った真部という男だ。


現在は、二人とも縛り上げられて、清十郎に見張られている。


「それにしても熾輝君、よくあの状態から動けたわね?」


「老師から縄抜けを教わっていましたから、抜け出すのは簡単でした。」


「でも、あのロープって呪詛が込められた物だったはずよ?」


「魔力とオーラを封じられただけなので、単純な技術を必要とする技を行使すれば何の問題もありません。それに、あんな結び方のロープからの縄抜けが出来なかったら老師が悲しみます。・・・いや、怒られます。」


「そうね、だけど無茶をしちゃ駄目よ?こんなにボロボロにやられた状態で動き回ったらいけません。」


「・・・ごめんなさい先生。」


素直に謝る熾輝の頭に手を置いて撫でる葵を他所に、熾輝は心の中で、いつもの修行で師匠達から受ける攻撃はこんなものじゃ無いと密かに思うが、それをわざわざ言うと、葵の説教タイムがスタートするので、敢えてなにも言わなかった。



そして、熾輝に顎を撃ち抜かれた真部が意識を取り戻し、現状を把握した。


「ここは、・・・ひっ!」


目を覚ました真部が一番に目にしたのは、威圧(殺気)を込めて睨みつけていた清十郎の姿だった。


「初めましてだな、真部。といっても、こっちにはお前に色々と恨みがあるから無事に帰れるとは思わないほうがいいぞ?」


「ご、五柱、五月女清十郎!?」


青ざめた顔をして、真部は周りにキョロキョロと視線を向ける。


そこには未だに倒れたままの神狩と事切れた岩鬼の姿があった。


「(な、何故こうなった?たしかあの時、東雲が隙を見せた直後、神狩の攻撃によって視界を塞がれて、その直後から記憶がない。)」


「俺の弟子の拳は効いただろ?的確に顎を撃ち抜いて意識を奪ったんだ、まだ少しクラクラするんじゃないか?」


そう言われ、己の顎に激痛が走ったことをようやく認識した。


「がが、顎がい、痛い。」


「そりゃそうだ。砕けているんだからな。」


「さてと」と一泊置いて清十郎は、帯刀していた刀を抜き放ち、真部の目の前で切っ先を止めた。


「悪いが、時間が無い。お前からは色々と吐いてもらうことが山ほどあるんだ。キビキビ吐けよ?」


清十郎が尋問を始めようとした時、熾輝の意識に一人の気配を探知した。


『ストップ、ストップ!ちょっと、待ってください!』


風術によって運ばれてきた声が、ここに居る全員の耳に入ってきた。


「この声は、さっきの」


声が聞こえてからわずかの間に、草木を抜けて、一人の男が躍り出てきた。


「うひゃー、こりゃ酷いな。」


出てきた男は、現場の荒れた状況を見て、思わず口走った。


「誰だ?」


男に対し今にも斬りかかるぞと言わんばかりの威圧を込めて清十郎が問いただす。


「おっと、スミマセン自分は『風間君!?』」


男の名乗りを遮って声を発したのは、葵だった。


「東雲先輩、お久しぶりです!」


風間と呼ばれた男は、どうやら葵の知り合いらしく、改めて自己紹介をはじめた。


「俺は、十二神将の風間透です。」


「十二神将が何故こんなところに居る?・・・そう言えばこいつも十二神将とか言ってたな・・・お前等グルか?」


今なお倒れている神狩を一瞥した清十郎は、一層威圧を込めて風間を睨みつけた。


「いやいやいや!違います!誤解ですから、そんなに睨まないで下さい。」



「清十郎、少し彼の話を聞きましょう?」



葵に促されるまま、要件を話せとばかりに顎を動かす。


風間の話を要約すると


 ○ 魔術結社【暁の夜明け】が一般人を魔術師にするという情報を得て捜査をしていた。

 ○ 結社に少年(熾輝)を誘拐する動きがあったため、風間は組織に潜入していた。


以上が、風間が此処に至る経緯である。


「なるほどな。」


「信じていただけましたか?」


一応の話を聞いて納得する清十郎だったが、全てを納得したわけではない。


「筋としては、信用してもいいんだろう、だが、そこで寝ている餓鬼も十二神将って言うじゃねえか、それにこれだけ大規模な組織が動いていて、お前しか此処に来ていないっていうのはどう説明するんだ?」


「お恥かしながら、神狩の件については、申し開きが出来ません。この馬鹿は、就任前とはいえ、俺の同僚になる人間です。好戦的な奴ですから恐らく、面白半分に結社の口車にのったのかと・・・ただ、ここには、俺だけで来たわけじゃないんです。ただ・・・」


「ただ何だ?」


「部下達は、森の結界に気付く事が出来なかったのか、おそらく森で遭難していると思われます。」


「・・・残念な連中だな。」


何も言い返せない風間は、ただただ頭を下げ続けていた。


「熾輝、森の結界を解いてやれ。」


「分かりました。」


清十郎に言われた熾輝は、持ち物の中から小さな水晶を取り出した。


「結界を解くって、まさかこの結界はあの子が?」


「そうよ、ただ元々この森に張られていた結界に比べると脆弱な物だけど、それでもプロの術師をハメる位の効果があることが実証されたわね。」


二人の会話を他所に熾輝は、水晶はを手ごろな岩の上に置いた。


「(こんな子供がこれ程の術式を構築してそれを展開させていたっていうのか?しかも長時間ずっとだと?いったいどれ程の魔力量を有していると言うんだ。)」


魔術を発動させるには、魔力が必要であり、その効果を発揮させるには、常時魔力が必要になる。


少なくとも森全体を覆うだけの魔力量と持続させるための魔力は、常に必要になってくるのだ。


「しかし、これ程高度な術式を解除するのには、時間も掛かるでしょうし、今のうちに連絡用の式神を飛ばしておきます。」


正直、熾輝の術式に興味はあったが、間もなく結界が解ける旨の連絡を彼の部下たちに知らせようと、護符を取り出した。


もっとも、結界の存在に気が付いていない彼の部下たちは、そんな連絡を受けたら自信を無くすこと必至であろうが。


「熾輝君、結界の解除は急がなくていいからね?・・ん?」


熾輝を気遣って発した言葉だったが、風間が視ている目の前で熾輝は、岩の上に置いた水晶目がけて手に持った手ごろな石で「えい」と声を出して砕いた。


「んな!?」


風間が驚いたのは、別に不思議な事ではない。


確かに魔術の核となる物を破壊すれば、術式を循環していた魔力が循環しなくなり、魔法式と共に無くなるが、それは、場合にもよる。


熾輝が発動していた術式は森全体を覆う大規模な物で、通常、このサイズの魔術を発動させる際に必要な魔力は、膨大なもので、仮に核を潰した場合、規則的に循環していた魔力が暴走し、どんな事象改変が起こるか分からず、大抵は爆発などの現象が引き起こされるため、相当危険な行為なのだ。


だから、そういった魔術を解除する際、術者は細心の注意を払わなければならないのだ。


「・・・な、なにも起こらなかったか。・・・はぁ」


下手したら爆発を引き起こしかねない真似をした少年は、平然とし、結界が消えた事を確認していた。


「君っ!なんて危ない事をするんだ!グエッ」


熾輝を注意するため、勢いよく近づこうとした風間の後ろから襟をつかんで、彼を止める者がいた。


「ちょっと、風間君。子供を怒鳴るなんて何を考えているの!?」


葵であった。


「先輩、何って、今の見てなかったんですか?」


「見てたけど・・・あ、そっか!大丈夫よ別に何も起きたりしないから。」


葵の言葉の意味が分からず風間の頭からは疑問符しか浮かび上がって来なかった。


「一応詳しくは離せないけど、ちょっとこの子の力は特殊なの。だからこの子の師である私が問題ないと保証するわ。」


「特殊な力・・・なるほど、固有能力か何かですね。わかりました。」


勝手に誤解してくれたと内心ホッとしている葵を他所に風間は熾輝に近づいて話しかけている。


「さっきは怒鳴って悪かったね。」


「いえ」


「ヒソヒソ(それと、さっき俺が君と接触したことは、黙っててくれるかな?)」


「?」


さっきとは、結社の連中が一番最初に熾輝に接触してきた際、風間と熾輝が接触した話だろうと思ったが、何故黙っていなければならないのかが疑問で、小首をかしげていると後ろから葵が風間の肩を掴んだ。


「風間君?何を黙っててほしいのかな?」


「・・・。」


「黙秘とはいい度胸じゃない。熾輝くん」


語尾にハートマークを付けているが、いつもの葵とは違った雰囲気を感じ取り、師に対して正直に話す事は、悪い事では無いと判断した熾輝は、これまでの出来事を報告した。

それは、もう事細かに。


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